都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「ウィーン美術史美術館 静物画の秘密展」 国立新美術館
国立新美術館(港区六本木7-22-2)
「ウィーン美術史美術館 静物画の秘密展」
7/2-9/15

華やかなはずの花や果物が描かれた静物画が、どことなく暗鬱な雰囲気をたたえているように見えるのは、その内実に隠されたメッセージこそが本質であるからなのかもしれません。ウィーン美術史美術館より選りすぐりの静物画、全75点を展観します。新美術館での「静物画の秘密展」へ行ってきました。

どちらかと言えば静物画は好きな方ではありますが、さすがにこれほどまとめて見ると、やや食傷気味に思えてしまうのは致し方がないのでしょうか。とは言えこの展覧会では、そのような地味な印象も拭えない静物画を、「秘密」という観点において謎解きしながら楽しめるような仕掛けがとられています。しかしながら、絵に添えられたキャプション、及び解説パネルでは、秘密を暴くまでは到底至りません。よって、ここでおすすめなのが音声ガイドです。もちろんこのガイドも簡潔なものなので盤石ではありませんが、企画の意図を楽しむにはその力を借りた方がより効果的と言えるのではないでしょうか。単に地球儀の精巧さ感心するのか、それともそこにこめられた意味を鑑みるのかでは、いわゆる静物画の秘密の観賞という点では大きく異なってきます。ただ、この謎解きの一種の『解答』にも注意が必要です。こちらのエントリでも触れられているように、公式HP上でも述べられている例のマルガリータの暗喩は、何ら意味も持ち得ていないという見方も存在しています。(そもそもマルガリータ王女の作品は静物画ではありませんが。)秘密は全て暴くのではなく、少しだけその扉を開いてあとは自由に見るというのが、結局、一番楽しめる鑑賞法なのかもしれません。


何と58種類の貝殻を表した「巻貝と二枚貝のある静物」(フランドルの画家に帰属)を見て、かの若冲の動植綵絵の「貝甲図」を思い出したのは私だけでしょうか。遠景に見える帆船が示す通り、大航海時代、世界を駆け巡って収集されたという貝殻の類いが写実的に描かれていますが、同じく博物学的な様相をとりながらも、その力の誇示を見せない若冲のそれとは当然ながら実に対照的です。またこの力という点においては、差し示された地球儀にその支配欲を見るサルカドの「虚栄」も印象に残りました。こちらは髑髏や火の消えた蝋燭など、お馴染みのヴァニタスのモチーフが、カール5世後の帝国の没落を暗示しています。静物画において、壊れた時計や枯れて落ちる花など、力や生命の永続性を否定するモチーフが頻出するのは、そうした支配や力への欲望への一種の裏返しが表れているからなのでしょうか。極めて教訓的です。

真に迫る描写の多い中で、やや一風変わった面白味を感じるのは、フレーゲルの工房による「果物、ワイングラス、花瓶のある静物」でした。木のテーブルの上に並べられた食べ物や花などが、見下ろすような鳥瞰的な構図によって捉えられています。実物への限りない接近を旨とする静物画の文脈に沿えば、この作品の表現は劣る面もありそうですが、どこか素朴派を思わせるタッチなどは逆に新鮮に感じられました。また、静物画画家として名高いダウが二点も出ているのも嬉しいところです。尿の瓶を振りかざした医者への風刺を見る「医者」にはにやりとさせられましたが、もう一点の「花に水をやる窓辺の老婦人」における、人物の肌、または白いずきんの見事な質感には言葉を失ってしまいました。この迫真の描写、さすがの貫禄です。
ベラスケスの「マルガリータ王女」は最後にお出ましです。視覚効果にも長けた作品だけあって、その前方と後方と、立ち位置を変えながら楽しまれることをおすすめします。
9月15日までの開催です。
「ウィーン美術史美術館 静物画の秘密展」
7/2-9/15

華やかなはずの花や果物が描かれた静物画が、どことなく暗鬱な雰囲気をたたえているように見えるのは、その内実に隠されたメッセージこそが本質であるからなのかもしれません。ウィーン美術史美術館より選りすぐりの静物画、全75点を展観します。新美術館での「静物画の秘密展」へ行ってきました。

どちらかと言えば静物画は好きな方ではありますが、さすがにこれほどまとめて見ると、やや食傷気味に思えてしまうのは致し方がないのでしょうか。とは言えこの展覧会では、そのような地味な印象も拭えない静物画を、「秘密」という観点において謎解きしながら楽しめるような仕掛けがとられています。しかしながら、絵に添えられたキャプション、及び解説パネルでは、秘密を暴くまでは到底至りません。よって、ここでおすすめなのが音声ガイドです。もちろんこのガイドも簡潔なものなので盤石ではありませんが、企画の意図を楽しむにはその力を借りた方がより効果的と言えるのではないでしょうか。単に地球儀の精巧さ感心するのか、それともそこにこめられた意味を鑑みるのかでは、いわゆる静物画の秘密の観賞という点では大きく異なってきます。ただ、この謎解きの一種の『解答』にも注意が必要です。こちらのエントリでも触れられているように、公式HP上でも述べられている例のマルガリータの暗喩は、何ら意味も持ち得ていないという見方も存在しています。(そもそもマルガリータ王女の作品は静物画ではありませんが。)秘密は全て暴くのではなく、少しだけその扉を開いてあとは自由に見るというのが、結局、一番楽しめる鑑賞法なのかもしれません。


何と58種類の貝殻を表した「巻貝と二枚貝のある静物」(フランドルの画家に帰属)を見て、かの若冲の動植綵絵の「貝甲図」を思い出したのは私だけでしょうか。遠景に見える帆船が示す通り、大航海時代、世界を駆け巡って収集されたという貝殻の類いが写実的に描かれていますが、同じく博物学的な様相をとりながらも、その力の誇示を見せない若冲のそれとは当然ながら実に対照的です。またこの力という点においては、差し示された地球儀にその支配欲を見るサルカドの「虚栄」も印象に残りました。こちらは髑髏や火の消えた蝋燭など、お馴染みのヴァニタスのモチーフが、カール5世後の帝国の没落を暗示しています。静物画において、壊れた時計や枯れて落ちる花など、力や生命の永続性を否定するモチーフが頻出するのは、そうした支配や力への欲望への一種の裏返しが表れているからなのでしょうか。極めて教訓的です。

真に迫る描写の多い中で、やや一風変わった面白味を感じるのは、フレーゲルの工房による「果物、ワイングラス、花瓶のある静物」でした。木のテーブルの上に並べられた食べ物や花などが、見下ろすような鳥瞰的な構図によって捉えられています。実物への限りない接近を旨とする静物画の文脈に沿えば、この作品の表現は劣る面もありそうですが、どこか素朴派を思わせるタッチなどは逆に新鮮に感じられました。また、静物画画家として名高いダウが二点も出ているのも嬉しいところです。尿の瓶を振りかざした医者への風刺を見る「医者」にはにやりとさせられましたが、もう一点の「花に水をやる窓辺の老婦人」における、人物の肌、または白いずきんの見事な質感には言葉を失ってしまいました。この迫真の描写、さすがの貫禄です。
ベラスケスの「マルガリータ王女」は最後にお出ましです。視覚効果にも長けた作品だけあって、その前方と後方と、立ち位置を変えながら楽しまれることをおすすめします。
9月15日までの開催です。
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