都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「徒然草」 サントリー美術館
サントリー美術館
「徒然草 美術で楽しむ古典文学」
6/11-7/21

サントリー美術館で開催中の「徒然草 美術で楽しむ古典文学」を見てきました。
つれづれなるまゝに、日ぐらし硯に向かひて、心にうつりゆくよしなしごとをそこはかとなく書き付くれば、あやしうこそ物狂ほしけれ。
日本古代三代随筆の一つとして知られている徒然草。上の引用は序段です。学校の授業なりで誰しもが一度は諳んじたことがあるかもしれません。
しかしながら常に親しまなければ忘れてしまうもの。なかなか内容までに深く立ち入っている方は少ないのではないでしょうか。
そうした徒然草を美術の立場から見る展覧会です。主役は源氏絵ならぬ徒然絵。徒然草の章段をモチーフにした絵画を展観しています。

「徒然草図屏風」(右隻) 江戸時代 17世紀 米沢市上杉博物館
出品は近年同館に所蔵された海北友雪の「徒然草絵巻」をはじめとする徒然絵の他、徒然草の写本の資料をあわせて56点。一部展示替えを含みます。徒然草を見て読んで味わう展覧会。まずは楽しめました。
さて徒然絵に入る前に作者について少し触れましょう。言うまでもなく兼好法師。詳しい生没年は不明。細かな経歴に関しては殆ど分かっていません。
とはいえおそらく20代には後二条天皇に仕え、30歳前に出家し、70歳頃までは生きたと考えられている。歌人であったことは間違いないそうです。
徒然草の成立は鎌倉後期です。当時広く受容された形跡はなく、100年後の室町時代になって読者層を獲得した。そして徒然絵が多く描かれるようになったのはさらに下って江戸時代のことです。

尾形乾山「兼好法師図」 江戸時代 17世紀後半~18世紀前半 個人蔵
よって兼好の肖像も多くは江戸時代のもの。面白いのは乾山の描いた「兼好法師図」です。いわゆる隠者として表された兼好。どこか飄々として可愛らしい雰囲気さえある。まるで酔っ払って口ずさんでいるような姿をしています。

「奈良絵本 徒然草」(部分) 江戸時代 17世紀 富美文庫
江戸時代の徒然絵の展開に際しては「なぐさみ草」という注釈書が重要です。157図の挿絵には様々なバリエーションがある。たとえば53段です。酒に酔ったせいで一生を棒に振る僧侶の話、「なぐさみ草」の絵が「奈良絵本 徒然草」に派生する。さらにそれが同絵本の「徒然草貼付屏風」にも引用されています。
一方で狩野派や土佐派、それに住吉派の絵師たちも徒然絵を描いています。伝住吉具慶の「徒然草屏風」はどうでしょうか。いわゆる四季絵の体裁をとった作品、52段から54段、仁和寺のエピソードに取材していますが、美しき紅葉も見られる。その他には江戸から明治にかけて活動した狩野寿信の「徒然草屏風」も目を引く。絵具の発色も良い。艶やかですらあります。
さて本展の目玉です。それが初めにも触れた海北友雪の「徒然草絵巻」。近年同館のコレクションに加わった新収蔵品です。

海北友雪「徒然草絵巻」(部分) 江戸時代 17世紀後半 サントリー美術館
この絵巻が大きな見どころ。と言うのも同館、それこそ絵巻となると、会期中に巻き替えを行うことも少なくありませんが、今回は違う。全20巻の長大な絵巻を全て公開しているのです。
そしてこの友雪の絵巻、通常、徒然絵では人気のある章段のみを絵画化するのに対して、ほぼ全段を描いている。その数は244段。つまりは絵巻を見ることで徒然草の世界を一から追体験出来ます。
また各章段毎に現代語訳が付いているのも嬉しいところ。実のところ古典が苦手な私は徒然草をまともに読んだことがありませんが、これなら頭に結構入ってくる。無常観云々で語られもする徒然草、実は時に逞しく、また打算的なまでに生きることに対して執念を見せている。酒の話など耳が痛いもの。思わず頷いてしまう場面も少なくありません。

海北友雪 「一の谷合戦図屏風」(右隻) 江戸時代 17世紀 埼玉県立歴史と民俗の博物館
ラストは友雪に関する展示です。彼は桃山の絵師、海北友松の子。興味深いのは画風の幅がかなり広いことです。
例えば「誓願寺縁起絵巻」、寺の霊験を描いた作品ですが、本堂を再建する場面でしょうか。鉋で木を削る男であったり、図面を真剣な様子で見たりする人物などを驚くほど生き生きと描いている。これは先の「徒然草絵巻」に通ずるものがあるでしょう。
しかしその一方で墨画の「秋蓮白鷺図」のように情緒的な作品もある。実際に漢画や大和絵、それに仏画などを多く制作していたそうです。
会期も残り2週間弱。先週の土曜に出かけましたが、館内もそれなりに賑わっていました。
「徒然草/角川ソフィア文庫/角川書店」
7月21日まで開催されています。
「徒然草 美術で楽しむ古典文学」 サントリー美術館(@sun_SMA)
会期:6月11日(水)~7月21日(月・祝)
休館:火曜日。
時間:10:00~18:00(金・土は10:00~20:00)
*7/20(日)は20時まで開館
料金:一般1300円、大学・高校生1000円、中学生以下無料。
*アクセスクーポン、及び携帯割(携帯/スマホサイトの割引券提示)あり。
場所:港区赤坂9-7-4 東京ミッドタウンガレリア3階
交通:都営地下鉄大江戸線六本木駅出口8より直結。東京メトロ日比谷線六本木駅より地下通路にて直結。東京メトロ千代田線乃木坂駅出口3より徒歩3分。
「徒然草 美術で楽しむ古典文学」
6/11-7/21

サントリー美術館で開催中の「徒然草 美術で楽しむ古典文学」を見てきました。
つれづれなるまゝに、日ぐらし硯に向かひて、心にうつりゆくよしなしごとをそこはかとなく書き付くれば、あやしうこそ物狂ほしけれ。
日本古代三代随筆の一つとして知られている徒然草。上の引用は序段です。学校の授業なりで誰しもが一度は諳んじたことがあるかもしれません。
しかしながら常に親しまなければ忘れてしまうもの。なかなか内容までに深く立ち入っている方は少ないのではないでしょうか。
そうした徒然草を美術の立場から見る展覧会です。主役は源氏絵ならぬ徒然絵。徒然草の章段をモチーフにした絵画を展観しています。

「徒然草図屏風」(右隻) 江戸時代 17世紀 米沢市上杉博物館
出品は近年同館に所蔵された海北友雪の「徒然草絵巻」をはじめとする徒然絵の他、徒然草の写本の資料をあわせて56点。一部展示替えを含みます。徒然草を見て読んで味わう展覧会。まずは楽しめました。
さて徒然絵に入る前に作者について少し触れましょう。言うまでもなく兼好法師。詳しい生没年は不明。細かな経歴に関しては殆ど分かっていません。
とはいえおそらく20代には後二条天皇に仕え、30歳前に出家し、70歳頃までは生きたと考えられている。歌人であったことは間違いないそうです。
徒然草の成立は鎌倉後期です。当時広く受容された形跡はなく、100年後の室町時代になって読者層を獲得した。そして徒然絵が多く描かれるようになったのはさらに下って江戸時代のことです。

尾形乾山「兼好法師図」 江戸時代 17世紀後半~18世紀前半 個人蔵
よって兼好の肖像も多くは江戸時代のもの。面白いのは乾山の描いた「兼好法師図」です。いわゆる隠者として表された兼好。どこか飄々として可愛らしい雰囲気さえある。まるで酔っ払って口ずさんでいるような姿をしています。

「奈良絵本 徒然草」(部分) 江戸時代 17世紀 富美文庫
江戸時代の徒然絵の展開に際しては「なぐさみ草」という注釈書が重要です。157図の挿絵には様々なバリエーションがある。たとえば53段です。酒に酔ったせいで一生を棒に振る僧侶の話、「なぐさみ草」の絵が「奈良絵本 徒然草」に派生する。さらにそれが同絵本の「徒然草貼付屏風」にも引用されています。
一方で狩野派や土佐派、それに住吉派の絵師たちも徒然絵を描いています。伝住吉具慶の「徒然草屏風」はどうでしょうか。いわゆる四季絵の体裁をとった作品、52段から54段、仁和寺のエピソードに取材していますが、美しき紅葉も見られる。その他には江戸から明治にかけて活動した狩野寿信の「徒然草屏風」も目を引く。絵具の発色も良い。艶やかですらあります。
さて本展の目玉です。それが初めにも触れた海北友雪の「徒然草絵巻」。近年同館のコレクションに加わった新収蔵品です。

海北友雪「徒然草絵巻」(部分) 江戸時代 17世紀後半 サントリー美術館
この絵巻が大きな見どころ。と言うのも同館、それこそ絵巻となると、会期中に巻き替えを行うことも少なくありませんが、今回は違う。全20巻の長大な絵巻を全て公開しているのです。
そしてこの友雪の絵巻、通常、徒然絵では人気のある章段のみを絵画化するのに対して、ほぼ全段を描いている。その数は244段。つまりは絵巻を見ることで徒然草の世界を一から追体験出来ます。
また各章段毎に現代語訳が付いているのも嬉しいところ。実のところ古典が苦手な私は徒然草をまともに読んだことがありませんが、これなら頭に結構入ってくる。無常観云々で語られもする徒然草、実は時に逞しく、また打算的なまでに生きることに対して執念を見せている。酒の話など耳が痛いもの。思わず頷いてしまう場面も少なくありません。

海北友雪 「一の谷合戦図屏風」(右隻) 江戸時代 17世紀 埼玉県立歴史と民俗の博物館
ラストは友雪に関する展示です。彼は桃山の絵師、海北友松の子。興味深いのは画風の幅がかなり広いことです。
例えば「誓願寺縁起絵巻」、寺の霊験を描いた作品ですが、本堂を再建する場面でしょうか。鉋で木を削る男であったり、図面を真剣な様子で見たりする人物などを驚くほど生き生きと描いている。これは先の「徒然草絵巻」に通ずるものがあるでしょう。
しかしその一方で墨画の「秋蓮白鷺図」のように情緒的な作品もある。実際に漢画や大和絵、それに仏画などを多く制作していたそうです。
会期も残り2週間弱。先週の土曜に出かけましたが、館内もそれなりに賑わっていました。

7月21日まで開催されています。
「徒然草 美術で楽しむ古典文学」 サントリー美術館(@sun_SMA)
会期:6月11日(水)~7月21日(月・祝)
休館:火曜日。
時間:10:00~18:00(金・土は10:00~20:00)
*7/20(日)は20時まで開館
料金:一般1300円、大学・高校生1000円、中学生以下無料。
*アクセスクーポン、及び携帯割(携帯/スマホサイトの割引券提示)あり。
場所:港区赤坂9-7-4 東京ミッドタウンガレリア3階
交通:都営地下鉄大江戸線六本木駅出口8より直結。東京メトロ日比谷線六本木駅より地下通路にて直結。東京メトロ千代田線乃木坂駅出口3より徒歩3分。
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )