「大妖怪展」 江戸東京博物館

江戸東京博物館
「大妖怪展 土偶から妖怪ウォッチまで」 
7/5~8/28



江戸東京博物館で開催中の「大妖怪展」のプレスプレビューに参加してきました。

「百鬼夜行絵巻」しかり、これまでも絵画において数多く描かれてきた妖怪たち。意外と「美術史の立場」(解説より)から妖怪を紹介する展覧会はあまり行われてきませんでした。

日本の妖怪の大集合です。妖怪の造形化した室町期の物語絵巻をはじめ、先立つ平安期の「六道絵」、そして妖怪画の花開いた江戸期の浮世絵や絵画、さらに「異界への恐れの形」としての土偶、はたまた現代の妖怪ウォッチまでを網羅しています。


右:高井鴻山「妖怪図」 江戸時代・19世紀 個人蔵

はじまりは江戸でした。その名もずばり「妖怪図」が控えています。絵師の名は高井鴻山。小布施の豪商です。得体の知れない生き物に跨る、これまた謎めいた動物。不気味というよりも、軽妙にポーズをとっているように見えます。コミカルです。とは言え、筆は緻密極まりない。生々しい皮膚の感触や顔面のゴツゴツした突起物までが細かに表されています。

人気の若冲もお目見えです。「付喪神図」でした。様々な道具が年月を経ては魂を持ち、妖怪に変化する付喪神。人に悪さをするとも言われています。茶釜が変化した妖怪もいるのでしょうか。ぎょろりと目玉を光らせています。がやがやと賑やかに隊列を組んでいました。


白隠「法具変妖之図」 江戸時代・18世紀 京都 金臺寺

絵巻にも妖怪が数多く登場します。白隠の「法具変妖之図」です。モチーフは「百鬼夜行絵巻」のルーツである大徳寺真珠庵本(室町時代)を借りていますが、軽妙な筆さばきは如何にも白隠ならではのもの。比較的珍しい着彩の作品でもあります。


岡義訓「化物婚礼絵巻」 文久3(1863)年 松井文庫

「化物婚礼絵巻」に描かれたのは妖怪たちの日常でした。何とはじまりはお見合いのシーンです。そして結婚し、子どもを産み、家庭を築きます。姿形こそ異様ながらも、日常は何ら人間と変わることがありません。


佐脇嵩之「百怪図巻」 元文2(1737)年 福岡市博物館

佐脇嵩之の「百怪図巻」にも惹かれました。絵師は一蝶の門人です。「赤くち」では大きな赤い口を開いた魔物が襲いかかります。手の爪は鋭い。目はギラギラと輝いています。獲物を欲しているのでしょう。黒い雲が渦を巻いていました。これはひとたまりもありません。


茨木元行「針聞書」 永禄11(1568)年 九州国立博物館

「針聞書」も楽しい。鍼灸師のための口伝集です。風邪やら大酒やらの病の原因を虫に見立てて描いています。なお本作と日本の幻獣や妖虫を表した「姫国山海録」はそれぞれ4面が4回期に分けて展示されています。全てを追うのは難しいかもしれません。


「怪奇談絵詞」 幕末〜明治・19世紀 福岡市博物館

遠く異国の妖怪を描いた作品もありました。「怪奇談絵詞」です。時は幕末明治期。九州に取材した妖怪談ながらも、ロシアやインド、イギリスなどの妖怪も登場します。真っ赤な巨大魚はまるで蛸のようです。得体の知れない生き物を想像を膨らませて描いたのやもしれません。


月岡芳年「百器夜行」 慶応元(1865)年 国際日本文化研究センター

振り返れば錦絵にも多くの妖怪がいました。有名な国芳の「相馬の古内裏」の巨大骸骨も妖怪の体現した形の一つかもしれません。ほか月岡芳年の「百器夜行」は付喪神がモチーフです。種本があるそうですが、妖怪たちが争っているように見えることから、幕末の揺れる世情を表したとも考えられています。


左:歌川国歳「こはだ小平次」 明治時代・19世紀 東京 全生庵

広義の妖怪を意味するのでしょうか。幽霊画も数点出ていました。有名どころでは全生庵のコレクションです。歌川国歳の「こはだ小平次」もおどろおどろしい。小平次の幽霊が蚊帳の上から妻と自分を殺した妻の愛人を覗き込んでいます。


中央:「老婆の幽霊」 明治末〜大正(20世紀) 福島 金性寺

なお幽霊画は金性寺(福島)の「月夜の柳に幽霊」や、徳願寺(千葉)の「幽霊図」など、あまり展覧会に出ない作品も少なくありません。総じて珍しい品が多いのではないでしょうか。その辺も見どころの一つだと言えそうです。


「辟邪絵 神虫」 平安〜鎌倉時代・12世紀 奈良国立博物館

妖怪表現のルーツは中世の地獄や怪物を描いた作品にありました。「辟邪絵 神虫」はどうでしょうか。何とも恐ろしい形相をして口を開く怪物。実は悪鬼を退ける善神です。鋭い牙を剥き出しては悪鬼を食らっています。体は潰されてしまったのでしょう。血が滴り落ちています。虫とあるように、確かに背中に羽が生えていて、蝉のようにも見えます。目を剥いては大変な迫力です。1日に3千3百もの鬼を食べていたというから凄まじい。思わず後ずさりしてしまいました。


「土蜘蛛草紙絵巻」 南北朝時代・14世紀 東京国立博物館

「土蜘蛛草紙絵巻」にも興味が引かれました。元は平家物語の土蜘蛛退治の物語です。武士と巨大蜘蛛の対決。ちょうど首の部分と脚に刀を振り落としています。観念したかのような蜘蛛の表情も面白い。腹の下の骸骨は土蜘蛛にのまれた犠牲者でしょうか。一方で周囲の子どもの蜘蛛が行く末を心配していました。


「六道絵」 文政年間(1818〜29) 滋賀 浄光寺

いわゆる六道絵も幾つか出ていました。これらの地獄の場面などが、後の妖怪画の形成に刺激を与えていきます。


左手前:「土偶」 縄文時代 辰馬考古資料館
奥:「妖怪ウオッチ」展示風景


ラストは一変、何と土偶でした。何でも妖怪画に通ずる「異形への恐れ」が如何に古代で表現するされていたのかを問うもの。妖怪展に土偶とは賛否あるやもしれません。そして一気に現代にタイムワープして、人気の妖怪のウォッチが待ち構えます。その可愛らしい出で立ちは、不思議と妖怪というより、土偶に重なって見えました。

会期中、一部の作品を除いて展示替えがあります。

「大妖怪展」東京会場出品リスト(PDF)

真珠庵の「百鬼夜行絵巻」は8月2日以降の展示です。ご注意下さい。


「大妖怪展」展示風景

最後に混雑の状況です。江戸東京博物館の公式ツイッターアカウントのギボちゃん(@edohakugibochan)がこまめに情報を発信しています。

それによれば7月19日の段階において、土日を中心に入場まで最大で80分待ち、チケット購入まで60分待ちの行列が発生しています。大妖怪展単独のチケットはコンビニでも購入可能ですが、常設展との共通券は博物館窓口でしか購入出来ません。それも待機列が発生する要因の一つかと思われます。

夏休みに入りました。今後も親子連れなどでさらに混雑することが予想されます。7月23日までの土曜日の19時半までの延長開館、ないし7月29日以降の金曜、土曜日の21時までの夜間開館なども狙い目となりそうです。


「大妖怪展」会場入口

8月28日まで開催されています。なお東京展終了後、大阪のあべのハルカス美術館(9/10〜11/6)へと巡回します。

「大妖怪展 土偶から妖怪ウォッチまで」 江戸東京博物館@edohakugibochan
会期:7月5日(火)~8月28日(日)
時間:9:30~17:30
 *7月9日、16日、23日の土曜は19:30まで。7月29日以降の金曜と土曜は21時まで開館。
 *入館は閉館の30分前まで。
休館:月曜日。但し7月18日、8月8日・15日は開館。7月19日は休館。
料金:一般1350(1080)円、大学・専門学生1080(860)円、小・中・高校生・65歳以上680(540)円。
 *( )は20名以上の団体料金。
 *常設展との共通券あり
 *毎月第3水曜日(シルバーデー)は65歳以上が無料。
住所:墨田区横網1-4-1
交通:JR総武線両国駅西口徒歩3分、都営地下鉄大江戸線両国駅A4出口徒歩1分。

注)写真は報道内覧会時に主催者の許可を得て撮影したものです。
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