「クリスチャン・ボルタンスキー展」 東京都庭園美術館

東京都庭園美術館
「クリスチャン・ボルタンスキー アニミタスーさざめく亡霊たち」 
9/22~12/25



東京都庭園美術館で開催中の「クリスチャン・ボルタンスキー アニミタスーさざめく亡霊たち」を見てきました。

フランスの現代美術家、クリスチャン・ボルタンスキー(1944~)は、庭園美術館での展示に際し、「そこに関わる人たちの亡霊」(解説より)たちの存在に興味を持ったそうです。



亡霊は声、つまりささやきを通して旧朝香宮邸、つまり美術館の本館に立ち上がりました。形態からすれば音声インスタレーションです。タイトルは「さざめく亡霊たち」。館内の随所で声を発しています。



この声、場所が明示されているわけでもなく、俄かには分かりません。一見、いつもと変わらぬ部屋を進むと、殆ど突然に「私の声が聞こえますか?」と呼びかけてきました。



声は日本語です。発声は美しく、しかも礼儀正しい。極めて落ち着いています。実際のところ指向性スピーカーから発せられているため、特定の位置に立たなければ聞こえてきません。しかも語りは断片的です。何らかの物語が生まれるわけでもありません。しばらくすると、ひたすらに声を探し、やがて声の主であった人の存在を空想している自分に気がつきました。声は不思議と体の奥底へと染み込みます。亡霊はあまねく遍在しているのかもしれません。



2階へ上がると聞こえてくるのは強い心臓音でした。ささやきとは比べものにならないほどに大きい。ドクンドクンと波打っています。これがずばり「心臓音」という作品です。場所は書庫。赤い電球が点滅しています。確かに心臓です。音は規則正しいようで僅かな揺らぎがありました。不特定多数の人々のものだからでしょう。かねてよりボルタンスキーは世界中の人々の心臓音をサンプリングし、作品へと取り込んできました。人の死により個々の心臓音はやがて止まってしまいます。しかし音を繋げる、つまり多くの人を介すことで永遠に続くようにも思えなくはありません。ここに人の生死の歴史が刻まれていました。



亡霊が半ば仮の姿を現しています。「影の劇場」です。暗室の奥で踊るのは骸骨や鳥らしき生き物の影でした。解説に「死の舞踏」とありましたが、むしろ可愛らしい。ようやく住み家を見つけて喜んでいるようにも見えます。影絵自体はシンプルです。素材は針金や段ボールなどの日用品です。そこに光を当てています。



面白いのは見せ方でした。というのも影絵の部屋には2つの覗き穴があり、中を伺う仕掛けになっているのです。しかもどういうわけか覗き穴からは冷たい風が吹き出しています。それが殊更に寒々しい。まるで洞穴の入口を前にしているかのようでした。



新館の2つのホワイトキューブにも展示が続いています。1つは「帰郷」と「眼差し」。同じスペースでの展開です。ともかく吊り下がるのはヴェール。前に立ちはだかるように幾重にも連なっています。「眼差し」とあるように目がプリントされていました。目を見つつ、また見られつつ、時折、ヴェールをかき分けながら進むと、巨大なオブジェが現れました。これが「帰郷」。金色一色です。塊は山のように聳えています。



「眼差し」の目は証明写真から転用したものです。既に匿名、誰かは分かりません。そして「帰郷」は一体何なのでしょうか。大量の古着を、防風や防水、さらに災害避難用に使われるブランケットで覆ったものでした。ボルタンスキーにとって黄金は「富をもたらし、災いの元にもなり得る」(解説より)そうです。その表裏一体の関係を指し示しています。

草の匂いが会場外まで漏れ出ていました。「アニミタス」と「ささやきの森」です。作品自体は映像です。匂いの原因は床に敷き詰められた干し草でした。ふかふかです。足元は危うい。映像は干し草の上にある両面スクリーンに映し出されていました。



手前は青空の広がる平原。と言うより荒地です。空気が澄んでいます。標高2000メートル。チリのアタカマ砂漠でした。立ち並ぶのは風鈴です。タイトルの「アニミタス」はスペイン語で「小さな魂」を意味するとあります。とすれば、風鈴を魂に見立てているのかもしれません。チリリと音を発します。とてもか弱い。なす術もなく、ただひたすらに風に揺れています。



反対側の「ささやきの森」の舞台は香川の豊島での作品です。同じく無数の風鈴があります。しかしながら先の荒涼たる景色とは一変。鬱蒼とした森はむしろ生命に溢れています。元はボルタンスキーが同地で行った参加型のインスタレーションに由来するそうです。干し草の匂いを嗅ぎ、木漏れ日を浴び、風鈴の音に耳を傾けていくと、各々の場所の記憶が呼び覚まされるのかもしれません。しばしぼんやりとしながら見入りました。



写真撮影に関する情報です。ボルタンスキー展は会期中、平日のみ本館と新館の双方の撮影が出来ます。土日、及び祝日は本館の撮影が出来ません。(新館は全日撮影可。)

なお3年後の2019年には国立新美術館でもボルタンスキーの回顧展が行われるそうです。(全国巡回予定。)



本館入口右手、映像ルームにてボルタンスキーが自作について約30分ほど語っています。そちらもお見逃しなきようご注意ください。

12月25日まで開催されています。

「クリスチャン・ボルタンスキー アニミタスーさざめく亡霊たち」 東京都庭園美術館@teienartmuseum
会期:9月22日(木・祝)~12月25日(日)
休館:第2・第4水曜日(9/28、10/12・26、11/9・24、12/14)
時間:10:00~18:00。
 *但し11月25日(金)、26日(土) 、27日(日)は20時まで開館。
 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般900(720)円 、大学生720(570)円、中・高校生・65歳以上450(360)円。
 *( )内は20名以上の団体料金。
 *小学生以下および都内在住在学の中学生は無料。
 *第3水曜日のシルバーデーは65歳以上無料。
 *同時開催の「アール・デコの花弁  旧朝香宮邸の室内空間」展も観覧可。
住所:港区白金台5-21-9
交通:都営三田線・東京メトロ南北線白金台駅1番出口より徒歩6分。JR線・東急目黒線目黒駅東口、正面口より徒歩7分。
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