「NEW VISION SAITAMA5 迫り出す身体」 埼玉県立近代美術館

埼玉県立近代美術館
「NEW VISION SAITAMA5 迫り出す身体」 埼玉県立近代美術館
9/17~11/14



埼玉県立近代美術館で開催中の「NEW VISION SAITAMA5 迫り出す身体」を見てきました。

埼玉発、県内にゆかりのある現代アーティストを紹介する「NEW VISION SAITAMA」展は、今回で5回目を数えるに至りました。

出品は全7名。いずれも1980年代生まれのアーティストです。

まずは小左誠一郎。さいたま市在住の画家です。大作の絵画が展示室を取り囲みます。いずれも抽象画です。しかしせめぎ合う色面をはじめ、掠れ、また時に太く現れる線は、何やら有機物を象っているようにも見えます。円や三角などの幾何学的な模様も介在していました。モチーフ自身が呼吸、ないし伸縮しているようにも思えなくはありません。不思議な揺らぎを伴う作品でもあります。

古びた窓枠が暗室に浮かび上がります。鈴木のぞみです。窓枠は不要になったものでしょう。戸外の風景が朧げに映りこんでいます。鈴木は通常、窓ガラスを使って窓越しの風景を撮影。その写真を窓ガラスに焼き付ける手法で作品を制作しているそうです。露光は7日間にも及びます。古色を帯びた風景は懐かしい。見る者の個々の記憶と結びついているのかもしれません。

厚塗りの絵画で知られる高橋大輔が見事な展示を披露してくれました。壁の際から天井まで埋め尽くすのは一連の絵画です。何点あるのでしょうか。件の厚塗りの迫力は言うまでもありません。絵具をさながら打ち付け、またヘラで削り取り、慣らし、さらには盛っては、塗りこめる。何層にも堆積しています。奥から地の絵具が隠れ見えしていました。展示室全体を絵画に見立てているのでしょうか。一段と手法が多様になった感さえありました。

床面にまだ製作中と思しきキャンバスが散乱していました。私物と見える荷物なども置かれています。まるでアトリエの再現展示です。実際のところ、ここで高橋が作品を作ることはないそうですが、さも作家の制作、ないし思考のプロセスを垣間見るようでした。

また一枚の日本画に目が留まりました。速水御舟の「夏の丹波路」です。埼玉県立近代美術館のコレクションです。点描風の筆触が細かにせめぎ合います。紫紅の影響下にあった頃の作品でしょうか。高橋が制作の原動力となった一枚だそうです。

一部展示室の撮影が出来ました。


二藤健人 展示風景

いきなり階段が現れました。和光市在住の二藤健人です。空間をがらりと作り変えての大掛かりなインスタレーションを見せています。


二藤健人「誰かの重さを踏みしめる」 2016年

階段の作品の名は「誰かの重さを踏みしめる」。横から見ると下に人が入れるスペースがあります。上部には穴が空いていました。ここで人を支えるのでしょうか。二藤の制作のテーマは「触れる」だそうです。確かに潜り込めば人の重みに触れることも出来ます。


二藤健人「pillow talk」 2016年

「触れる」といえばさらに驚きの作品が待ち構えていました。「pillow talk」です。家屋を思わせる巨大な箱が宙に浮いています。下には砂、あるいは土が敷かれています。微かに湿り気と匂いも感じられました。


二藤健人「pillow talk」 2016年

箱へは階段が連なり、扉が閉まっていました。中に入ることが可能です。室内は畳敷き、ご丁寧に布団が敷いてありました。ここではあるものに触れられるだけでなく、添い寝まですることが出来ます。あえてあるものの名は伏せます。室内はぐらぐらと揺れて足元もおぼつきません。あるものを抱いて寝る体験はどこか恐ろしくもありました。是非とも会場で体験してください。


中園孔二 展示風景

中園孔二の絵画世界も興味深いのではないでしょうか。紐のような線がうねるかと思いきや、植物が生え、人が登場し、巨大なピエロのような顔も現れます。モチーフはまるで神出鬼没。自由です。緻密であり奔放でもあります。タッチは即興的です。何らかの物語を紡いでいたのでしょうか。賑やかな音楽が聞こえてくるかのようでした。


小畑多丘 展示風景

二人のダンサーが対峙していました。小畑多丘です。ダンスとはブレイクダンス。素材は楠。何と一木造です。赤と黒。ダウンコートを着ているのでしょうか。一人は両手を腰にやり、もう一人は腕を組んでいます。


小畑多丘 展示風景

それぞれは細長い展示室内の両端に立っていました。まるで戦隊シリーズのヒーローのように格好が良い。これから戦闘が行われるのかやもしれません。


青木真莉子 展示風景

「NEW VISION SAITAMA5」は展示室外にも拡張しています。回廊を利用したのが青木真莉子です。毛皮を用いた不思議なオブジェが点在します。さらに映像も吹抜け内に投影。まるで古代の祭祀を視覚化したようなインスタレーションを展開しています。


二藤健人「反転の山」 2015年

屋外へも広がりました。地下1階、サンクンガーデンでは二藤健人が「反転の山」を設置。何せ巨大です。太古の化石、あるいは隕石の欠片を連想しました。

隣接する北浦和公園へも目を向けましょう。鈴木のぞみです。場所は公園の北側、彫刻広場にあるカプセルです。黒川紀章の設計した中銀カプセルタワービルのモデルに作品があります。


鈴木のぞみ「Capsule Obscura」 2016年

名は「Capsule Obscura」。カプセルの隣に入口が設営されています。私も中に入りました。真っ暗です。しばらくするととある像が浮かび上がってきます。

実はこの作品、ある程度の外光を必要とします。つまり雨や曇りの日では意図したイメージが現れません。実際、私も曇りの日に観覧しましたが、殆ど分かりませんでした。晴れの日に出かけられることをおすすめします。

不定期で行われる「NEW VISION SAITAMA5」。これまでにもいくつか追ってきましたが、今回は力作だけでなく、尖った展示もあって面白い。一番楽しめたような気がしました。



11月14日まで開催されています。

「NEW VISION SAITAMA5 迫り出す身体」 埼玉県立近代美術館@momas_kouhou
会期:9月17日 (土) ~11月14日 (日)
休館:月曜日。但し9月19日、10月10日、11月14日は開館。
時間:10:00~17:30 入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1100(880)円 、大高生880(710)円、中学生以下は無料。
 *( )内は20名以上の団体料金。
 *MOMASコレクションも観覧可。
住所:さいたま市浦和区常盤9-30-1
交通:JR線北浦和駅西口より徒歩5分。北浦和公園内。
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