都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「日本美術と高島屋」 日本橋高島屋
日本橋高島屋8階ホール
「高島屋史料館所蔵 日本美術と高島屋~交流が育てた秘蔵コレクション~ 特別展示:豊田家・飯田家寄贈品展」
10/12~24
日本橋高島屋8階ホールで開催中の「高島屋史料館所蔵 日本美術と高島屋」を見てきました。
大阪・難波の高島屋史料館には、古くから高島屋と所縁の深い美術家の作品が収蔵されてきました。
そのコレクションの一部が東京の日本橋へとやって来ました。出品は約90点。栖鳳、大観、華香、鉄斎、土牛、放庵、雪佳、玉堂、清方などの錚々たる日本画家の作品が並びます。高島屋創業の地でもある京都画壇が多いのも特徴でした。
横山大観「蓬莱山」 1949(昭和24)年
冒頭、大きな軸画に目を奪われました。大観の「蓬莱山」です。何せ250号と巨大。空の彼方に富士が聳えています。下方の山々の墨の描写も瑞々しい。神々しさを演出するためでしょうか。雲には金が混じっているようにも見えます。1947年、高島屋大阪店の地下で戦後初めて行われた院展に出品された一枚でした。
明治時代、アメリカの商社との関係を契機に海外向けの商品を扱うようになった高島屋。特に美術染織品の輸出に力を入れていました。そのための下絵の制作を京都の画家に依頼。画工室を設置します。栖鳳、雪佳、華香らが集うようになりました。
染織の下絵の一枚が「富士」です。作者は栖鳳。画面全体に富士の頂が描かれています。栖鳳は明治20年頃から画工室に出入りしていたそうです。それを示す「勤休簿」なる帳簿も展示されていました。
三幅対の「世界三景」も海外向け染織の下絵です。出品先はロンドン。明治43年に行われた日英博覧会でした。「ロッキーの雪」を山本春挙、「ベニスの月」を栖鳳、そして「吉野の桜」を華香が描いています。ベニスでは月明かりを照らす水面の表現が美しい。墨を巧みに散らしては、ベニスの建物などを細かく表しています。
竹内栖鳳「アレ夕立に」(部分) 1909(明治42)年
同じく日英博覧会に出されたのが栖鳳の「アレ夕立に」でした。栖鳳では女性画です。とはいえ、この時期の傑作と言っても過言ではありません。舞妓の踊りの一瞬、ちょうど扇子を振り上げた様を捉えています。花をあしらった青い着物が美しい。一転しての帯は水墨です。栖鳳は帯をどう表現するかかなり悩んだとも伝えられています。
点数こそ多くありませんが、美術染織品こそがハイライトと言えるのではないでしょうか。素晴らしいのが幸野楳嶺の「紅葉渓図」です。刺繍に友禅。しかし目を凝らしても絵画にしか見えません。それほどに精緻です。紅葉に彩られた渓谷を表しています。9頭いる鹿の部分が刺繍です。ほかは染物。下絵と完成品が揃う珍しい一枚でもあります。
また唐織の「秋草に鶉」も美しい。特に二羽の鶉が極めて細かく表現されています。大変な技術が用いられたことでしょう。現代では再現不能とも言われているそうです。
前田青邨「みやまの四季」 1957(昭和32)年
前田青邨の「みやまの四季」は大阪毎日ホールの緞帳の原画でした。梅、桜、楓、それに椿を半円状に配しています。小鳥も飛び、リスが跳ねて賑やかです。琳派を意識した図像的な構図です。ちなみに展示では緞帳制作のための試織も出ていました。見比べることも可能です。
川端龍子の「潮騒」には驚きました。出品中最大、4曲1隻の屏風絵です。中央に切り立つ岸壁。一面の海が囲んでいます。左は青く、右手はやや緑色を帯びています。エメラルドグリーンと言っても良いかもしれません。岸壁には海鳥が羽を休めていました。ともかく躍動感のある構図です。力強い作品でもあります。
それにしても本作、てっきり本画と思いきや、実は紀元2600年の東京大博覧会に出品予定の染織の原画でした。しかし博覧会は戦局の悪化等の理由により中止。一度お蔵入りとなります。しかしながらその後壁掛けに仕立て、海外への贈答品として海を渡りました。行き先は当時のドイツです。何とヒトラーが受け取ったそうです。
実に妖艶な一枚に惹かれました。北野恒富の「婦人図」です。半裸の女性像。片袖を脱いでいます。背後の闇に白い体が浮かび上がります。着物の柄は紫陽花でしょうか。目は潤み、髪はやや濡れているようにも見えます。昭和4年に大阪で行われた「キモノの大阪春季大博覧会」のためのポスター原画です。街に貼られたとしたら何とも大胆な作品です。実際、駅に掲示されると、大半はすぐさま持ち去られてしまったそうです。
富岡鉄斎「碧桃寿鳥図」 1916(大正5)年
高島屋のコレクションの形成過程を辿りながら、画家との関係についても踏み込んでいます。さらに高島屋の当主であった飯田家や、4代新七の娘の嫁いだ豊田家からの寄贈品も加わります。何も絵画だけではありません。美しい婚礼衣装や陶器、また朝山の彫刻にも目を引かれました。
「松竹梅に鶴文様振袖」 1922(大正11)年
高島屋アーカイブスのWEBサイトが充実しています。史料館のコレクションを年代、およびジャンル別に分類。図版と解説が事細かに記されています。鑑賞の参考になりそうです。
「タカシマヤアーカイヴス」WEBサイト
URL:https://www.takashimaya.co.jp/archives/index.html
百貨店への注文品だからでしょうか。いわばハレの日を飾るような吉祥主題の作品が多いのも印象に残りました。
清水六兵衛(4代)「春秋花卉彩画盃」 1893(明治26)年
お得なことに入場は無料です。10月24日まで開催されています。
「高島屋史料館所蔵 日本美術と高島屋~交流が育てた秘蔵コレクション~ 特別展示:豊田家・飯田家寄贈品展」 日本橋高島屋8階ホール
会期:10月12日(水)~10月24日(月)
休館:会期中無休。
時間:10:30~19:30
*入場は閉場の30分前まで。最終日は18時閉場。
料金:無料。
住所:中央区日本橋2-4-1 日本橋高島屋8階
交通:東京メトロ銀座線・東西線日本橋駅B1出口直結。都営浅草線日本橋駅から徒歩5分。JR東京駅八重洲北口から徒歩5分。
「高島屋史料館所蔵 日本美術と高島屋~交流が育てた秘蔵コレクション~ 特別展示:豊田家・飯田家寄贈品展」
10/12~24
日本橋高島屋8階ホールで開催中の「高島屋史料館所蔵 日本美術と高島屋」を見てきました。
大阪・難波の高島屋史料館には、古くから高島屋と所縁の深い美術家の作品が収蔵されてきました。
そのコレクションの一部が東京の日本橋へとやって来ました。出品は約90点。栖鳳、大観、華香、鉄斎、土牛、放庵、雪佳、玉堂、清方などの錚々たる日本画家の作品が並びます。高島屋創業の地でもある京都画壇が多いのも特徴でした。
横山大観「蓬莱山」 1949(昭和24)年
冒頭、大きな軸画に目を奪われました。大観の「蓬莱山」です。何せ250号と巨大。空の彼方に富士が聳えています。下方の山々の墨の描写も瑞々しい。神々しさを演出するためでしょうか。雲には金が混じっているようにも見えます。1947年、高島屋大阪店の地下で戦後初めて行われた院展に出品された一枚でした。
明治時代、アメリカの商社との関係を契機に海外向けの商品を扱うようになった高島屋。特に美術染織品の輸出に力を入れていました。そのための下絵の制作を京都の画家に依頼。画工室を設置します。栖鳳、雪佳、華香らが集うようになりました。
染織の下絵の一枚が「富士」です。作者は栖鳳。画面全体に富士の頂が描かれています。栖鳳は明治20年頃から画工室に出入りしていたそうです。それを示す「勤休簿」なる帳簿も展示されていました。
三幅対の「世界三景」も海外向け染織の下絵です。出品先はロンドン。明治43年に行われた日英博覧会でした。「ロッキーの雪」を山本春挙、「ベニスの月」を栖鳳、そして「吉野の桜」を華香が描いています。ベニスでは月明かりを照らす水面の表現が美しい。墨を巧みに散らしては、ベニスの建物などを細かく表しています。
竹内栖鳳「アレ夕立に」(部分) 1909(明治42)年
同じく日英博覧会に出されたのが栖鳳の「アレ夕立に」でした。栖鳳では女性画です。とはいえ、この時期の傑作と言っても過言ではありません。舞妓の踊りの一瞬、ちょうど扇子を振り上げた様を捉えています。花をあしらった青い着物が美しい。一転しての帯は水墨です。栖鳳は帯をどう表現するかかなり悩んだとも伝えられています。
点数こそ多くありませんが、美術染織品こそがハイライトと言えるのではないでしょうか。素晴らしいのが幸野楳嶺の「紅葉渓図」です。刺繍に友禅。しかし目を凝らしても絵画にしか見えません。それほどに精緻です。紅葉に彩られた渓谷を表しています。9頭いる鹿の部分が刺繍です。ほかは染物。下絵と完成品が揃う珍しい一枚でもあります。
また唐織の「秋草に鶉」も美しい。特に二羽の鶉が極めて細かく表現されています。大変な技術が用いられたことでしょう。現代では再現不能とも言われているそうです。
前田青邨「みやまの四季」 1957(昭和32)年
前田青邨の「みやまの四季」は大阪毎日ホールの緞帳の原画でした。梅、桜、楓、それに椿を半円状に配しています。小鳥も飛び、リスが跳ねて賑やかです。琳派を意識した図像的な構図です。ちなみに展示では緞帳制作のための試織も出ていました。見比べることも可能です。
川端龍子の「潮騒」には驚きました。出品中最大、4曲1隻の屏風絵です。中央に切り立つ岸壁。一面の海が囲んでいます。左は青く、右手はやや緑色を帯びています。エメラルドグリーンと言っても良いかもしれません。岸壁には海鳥が羽を休めていました。ともかく躍動感のある構図です。力強い作品でもあります。
それにしても本作、てっきり本画と思いきや、実は紀元2600年の東京大博覧会に出品予定の染織の原画でした。しかし博覧会は戦局の悪化等の理由により中止。一度お蔵入りとなります。しかしながらその後壁掛けに仕立て、海外への贈答品として海を渡りました。行き先は当時のドイツです。何とヒトラーが受け取ったそうです。
実に妖艶な一枚に惹かれました。北野恒富の「婦人図」です。半裸の女性像。片袖を脱いでいます。背後の闇に白い体が浮かび上がります。着物の柄は紫陽花でしょうか。目は潤み、髪はやや濡れているようにも見えます。昭和4年に大阪で行われた「キモノの大阪春季大博覧会」のためのポスター原画です。街に貼られたとしたら何とも大胆な作品です。実際、駅に掲示されると、大半はすぐさま持ち去られてしまったそうです。
富岡鉄斎「碧桃寿鳥図」 1916(大正5)年
高島屋のコレクションの形成過程を辿りながら、画家との関係についても踏み込んでいます。さらに高島屋の当主であった飯田家や、4代新七の娘の嫁いだ豊田家からの寄贈品も加わります。何も絵画だけではありません。美しい婚礼衣装や陶器、また朝山の彫刻にも目を引かれました。
「松竹梅に鶴文様振袖」 1922(大正11)年
高島屋アーカイブスのWEBサイトが充実しています。史料館のコレクションを年代、およびジャンル別に分類。図版と解説が事細かに記されています。鑑賞の参考になりそうです。
「タカシマヤアーカイヴス」WEBサイト
URL:https://www.takashimaya.co.jp/archives/index.html
百貨店への注文品だからでしょうか。いわばハレの日を飾るような吉祥主題の作品が多いのも印象に残りました。
清水六兵衛(4代)「春秋花卉彩画盃」 1893(明治26)年
お得なことに入場は無料です。10月24日まで開催されています。
「高島屋史料館所蔵 日本美術と高島屋~交流が育てた秘蔵コレクション~ 特別展示:豊田家・飯田家寄贈品展」 日本橋高島屋8階ホール
会期:10月12日(水)~10月24日(月)
休館:会期中無休。
時間:10:30~19:30
*入場は閉場の30分前まで。最終日は18時閉場。
料金:無料。
住所:中央区日本橋2-4-1 日本橋高島屋8階
交通:東京メトロ銀座線・東西線日本橋駅B1出口直結。都営浅草線日本橋駅から徒歩5分。JR東京駅八重洲北口から徒歩5分。
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )