都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「大仙厓展ー禅の心、ここに集う」 出光美術館
出光美術館
「開館50周年記念 大仙厓展ー禅の心、ここに集う」
10/1〜11/13
出光美術館で開催中の「大仙厓展ー禅の心、ここに集う」を見てきました。
美術館の創設者である出光佐三が最初に購入した美術品が、チラシ表紙を飾る「指月布袋画賛」だったそうです。
月を指差す布袋と子ども。口を開けては子守唄を歌っています。見えぬ月は悟りの意味です。つまり悟りは簡単に手に届かず、むしろ厳しい修行の重要性を説く作品ですが、図だけを受け取れば、親子が踊りながら楽し気に歩いているように見えなくありません。可愛らしい。仙厓の禅画を代表する一枚として親しまれています。
「あくび布袋図」 江戸時代 福岡市美術館
約30年ぶりの大回顧展です。揃うのは国内の3大コレクション。うち1つはもちろん出光美術館です。そこに福岡市美術館と九州大学文学部のコレクションが加わります。出品は計150点です。東京初公開作から代表作までを網羅しています。
仙厓の生まれは美濃。若くして臨済宗古月派の禅僧として修行を積みます。40歳にして博多にある日本最古の禅寺、聖福寺の住持に就任。この頃から狩野派の粉本などに絵を学びます。62歳で隠居した後は同地を離れることなく、禅画を通して、教えを庶民に広める活動を続けました。
ゆるキャラのような作品でも知られる仙厓ですが、年代を追うごとにスタイルを変化させていたようです。40代の「布袋画賛」はいわゆる絵画習得期に描かれた一枚です。細かな髭を生やした布袋の姿がいますが、線は大変に緻密で、むしろ写実的でもあります。俄かに仙厓とは分かりません。
一方で50代の「布袋画賛」では笑う布袋が即興的な線で表されています。これぞ仙厓です。さらに最晩年の「達磨画賛」に至ってはより自由な筆が画面を走っています。仙厓はおおむね60代の頃から「諧謔味」(解説より)のある画風へと変化しました。
仙厓の禅画は大変な人気を呼びます。あまりにも多くの制作を求められたからでしょうか。晩年に一時、絶筆を宣言をするまでに至ります。それを示すのが「絶筆碑画賛」です。重々しい石に力強い筆で絶筆と記しています。決意の表れかもしれません。しかしその後も制作の依頼は途絶えませんでした。
「座禅蛙画賛」 江戸時代 出光美術館
可愛らしい動物がたくさん登場します。例えば「座禅蛙画賛」です。にやりと不敵に笑う蛙が描かれています。賛には「坐禅して人か佛になるならば」とありました。つまり座禅の形式にこだわり、本質の精神を見失っては、一切の悟りはやってこないという警鐘です。それを蛙に託しています。何たるユーモアなのでしょうか。
「トド画賛」も珍しい作品です。一匹の巨大なトドが横たわります。描写は思いの外に緻密です。半ば博物標本を見るかのようでした。それにしても何故にトドなのでしょうか。これは実際に当時、福岡の海岸にトドが打ち上がったからだそうです。好奇心も旺盛な仙厓です。心躍らせて写したのかもしれません。
「犬図」 江戸時代 福岡市美術館
きゃわんと鳴く「犬図」も楽しい。たわい無い一枚かもしれませんが、よく見ると、おそらくは尻尾の部分から体、頭を経て脚へと至る線が一筆で描かれていることが分かります。技量は鋭い。一気呵成で迷いがありません。
「章魚図」 江戸時代 福岡市美術館
着彩画があるとは知りませんでした。東京初公開の「章魚図」です。1本の触腕を振り上げたタコ。まるで手を上げて挨拶しているようです。たくさんの吸盤があり、身の部分が僅かに赤らんでいます。現在知られる唯一の着彩画だそうです。
「堪忍柳画賛」 江戸時代 出光美術館
仙厓のメッセージは普遍的です。もちろん今も色あせることはありません。「堪忍柳画賛」はどうでしょうか。大風に揺れる柳。幹はしなっています。その隣にずばり「堪忍」の一言が力強くありました。まさに人生の手本です。柳のように苦しい時にもじっと耐え忍んでやり過ごすことを教えています。
「凧あげ図」 江戸時代 福岡市美術館
庶民と交わっては教えを説いた仙厓です。福岡のお祭りなど、禅とは無関係の作品も多く残しています。今も昔も変わらぬ花見の様子を描いたのが「花見画賛」です。桜の木の下に集う人たち。花より団子なのでしょうか。楽しそうな宴会が行われています。ほか「曲芸画賛」や「博多松囃画賛」も面白い。同地の名所風景もたくさん描いています。
「◯△□」 江戸時代 出光美術館
もはや抽象の世界と呼んで差し支えありません。「◯△□」です。右から順に◯、△、□と並ぶ一枚。◯と△は交わり、△は僅かに□と接触しています。左は落款。意味するところを言葉に示していません。解説では地が□、火が△、そして◯が水を示すともありました。ほか宇宙を表すとも、□から悟りの◯へ至るプロセスを表しているとも言われています。究極の謎かけです。全てを見る者に投げかけています。ひょっとすると答えはないのかもしれません。
「群蛙図」 江戸時代 九州大学文学部コレクション
禅画だけでも膨大ですが、ほかにも遺愛の茶碗や水指、硯なども展示されていました。仙厓は茶にも関心があり、作陶をしていたとも考えられているそうです。通常、工芸品を入れる展示ケースも全て仙厓です。質量ともに不足はありませんでした。
仙厓:ユーモアあふれる禅のこころ/別冊太陽/平凡社」
11月13日まで開催されています。これはおすすめします。
「開館50周年記念 大仙厓展ー禅の心、ここに集う」 出光美術館
会期:10月1日(土)~11月13日(日)
休館:月曜日。但し10月10日は開館。
時間:10:00~17:00
*毎週金曜日は19時まで開館。
*入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1000(800)円、高・大生700(500)円、中学生以下無料(但し保護者の同伴が必要。)
*( )内は20名以上の団体料金。
住所:千代田区丸の内3-1-1 帝劇ビル9階
交通:東京メトロ有楽町線有楽町駅、都営三田線日比谷駅B3出口より徒歩3分。東京メトロ日比谷線・千代田線日比谷駅から地下連絡通路を経由しB3出口より徒歩3分。JR線有楽町駅国際フォーラム口より徒歩5分。
「開館50周年記念 大仙厓展ー禅の心、ここに集う」
10/1〜11/13
出光美術館で開催中の「大仙厓展ー禅の心、ここに集う」を見てきました。
美術館の創設者である出光佐三が最初に購入した美術品が、チラシ表紙を飾る「指月布袋画賛」だったそうです。
月を指差す布袋と子ども。口を開けては子守唄を歌っています。見えぬ月は悟りの意味です。つまり悟りは簡単に手に届かず、むしろ厳しい修行の重要性を説く作品ですが、図だけを受け取れば、親子が踊りながら楽し気に歩いているように見えなくありません。可愛らしい。仙厓の禅画を代表する一枚として親しまれています。
「あくび布袋図」 江戸時代 福岡市美術館
約30年ぶりの大回顧展です。揃うのは国内の3大コレクション。うち1つはもちろん出光美術館です。そこに福岡市美術館と九州大学文学部のコレクションが加わります。出品は計150点です。東京初公開作から代表作までを網羅しています。
仙厓の生まれは美濃。若くして臨済宗古月派の禅僧として修行を積みます。40歳にして博多にある日本最古の禅寺、聖福寺の住持に就任。この頃から狩野派の粉本などに絵を学びます。62歳で隠居した後は同地を離れることなく、禅画を通して、教えを庶民に広める活動を続けました。
ゆるキャラのような作品でも知られる仙厓ですが、年代を追うごとにスタイルを変化させていたようです。40代の「布袋画賛」はいわゆる絵画習得期に描かれた一枚です。細かな髭を生やした布袋の姿がいますが、線は大変に緻密で、むしろ写実的でもあります。俄かに仙厓とは分かりません。
一方で50代の「布袋画賛」では笑う布袋が即興的な線で表されています。これぞ仙厓です。さらに最晩年の「達磨画賛」に至ってはより自由な筆が画面を走っています。仙厓はおおむね60代の頃から「諧謔味」(解説より)のある画風へと変化しました。
仙厓の禅画は大変な人気を呼びます。あまりにも多くの制作を求められたからでしょうか。晩年に一時、絶筆を宣言をするまでに至ります。それを示すのが「絶筆碑画賛」です。重々しい石に力強い筆で絶筆と記しています。決意の表れかもしれません。しかしその後も制作の依頼は途絶えませんでした。
「座禅蛙画賛」 江戸時代 出光美術館
可愛らしい動物がたくさん登場します。例えば「座禅蛙画賛」です。にやりと不敵に笑う蛙が描かれています。賛には「坐禅して人か佛になるならば」とありました。つまり座禅の形式にこだわり、本質の精神を見失っては、一切の悟りはやってこないという警鐘です。それを蛙に託しています。何たるユーモアなのでしょうか。
「トド画賛」も珍しい作品です。一匹の巨大なトドが横たわります。描写は思いの外に緻密です。半ば博物標本を見るかのようでした。それにしても何故にトドなのでしょうか。これは実際に当時、福岡の海岸にトドが打ち上がったからだそうです。好奇心も旺盛な仙厓です。心躍らせて写したのかもしれません。
「犬図」 江戸時代 福岡市美術館
きゃわんと鳴く「犬図」も楽しい。たわい無い一枚かもしれませんが、よく見ると、おそらくは尻尾の部分から体、頭を経て脚へと至る線が一筆で描かれていることが分かります。技量は鋭い。一気呵成で迷いがありません。
「章魚図」 江戸時代 福岡市美術館
着彩画があるとは知りませんでした。東京初公開の「章魚図」です。1本の触腕を振り上げたタコ。まるで手を上げて挨拶しているようです。たくさんの吸盤があり、身の部分が僅かに赤らんでいます。現在知られる唯一の着彩画だそうです。
「堪忍柳画賛」 江戸時代 出光美術館
仙厓のメッセージは普遍的です。もちろん今も色あせることはありません。「堪忍柳画賛」はどうでしょうか。大風に揺れる柳。幹はしなっています。その隣にずばり「堪忍」の一言が力強くありました。まさに人生の手本です。柳のように苦しい時にもじっと耐え忍んでやり過ごすことを教えています。
「凧あげ図」 江戸時代 福岡市美術館
庶民と交わっては教えを説いた仙厓です。福岡のお祭りなど、禅とは無関係の作品も多く残しています。今も昔も変わらぬ花見の様子を描いたのが「花見画賛」です。桜の木の下に集う人たち。花より団子なのでしょうか。楽しそうな宴会が行われています。ほか「曲芸画賛」や「博多松囃画賛」も面白い。同地の名所風景もたくさん描いています。
「◯△□」 江戸時代 出光美術館
もはや抽象の世界と呼んで差し支えありません。「◯△□」です。右から順に◯、△、□と並ぶ一枚。◯と△は交わり、△は僅かに□と接触しています。左は落款。意味するところを言葉に示していません。解説では地が□、火が△、そして◯が水を示すともありました。ほか宇宙を表すとも、□から悟りの◯へ至るプロセスを表しているとも言われています。究極の謎かけです。全てを見る者に投げかけています。ひょっとすると答えはないのかもしれません。
「群蛙図」 江戸時代 九州大学文学部コレクション
禅画だけでも膨大ですが、ほかにも遺愛の茶碗や水指、硯なども展示されていました。仙厓は茶にも関心があり、作陶をしていたとも考えられているそうです。通常、工芸品を入れる展示ケースも全て仙厓です。質量ともに不足はありませんでした。
11月13日まで開催されています。これはおすすめします。
「開館50周年記念 大仙厓展ー禅の心、ここに集う」 出光美術館
会期:10月1日(土)~11月13日(日)
休館:月曜日。但し10月10日は開館。
時間:10:00~17:00
*毎週金曜日は19時まで開館。
*入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1000(800)円、高・大生700(500)円、中学生以下無料(但し保護者の同伴が必要。)
*( )内は20名以上の団体料金。
住所:千代田区丸の内3-1-1 帝劇ビル9階
交通:東京メトロ有楽町線有楽町駅、都営三田線日比谷駅B3出口より徒歩3分。東京メトロ日比谷線・千代田線日比谷駅から地下連絡通路を経由しB3出口より徒歩3分。JR線有楽町駅国際フォーラム口より徒歩5分。
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