都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「いちはらアート×ミックス2017」(前編:市原湖畔美術館、IAAES 旧里見小学校、森ラジオステーション)
千葉県市原市南部地域
「いちはらアート×ミックス2017」
4/8~5/14

「いちはらアート×ミックス2017」へ行ってきました。
2014年に初めて開催された「いちはらアート×ミックス」。今年で2回目です。市原市南部の各施設を舞台に、現代美術の展示のほか、ワークショップなどが行われています。
会期は一ヶ月強です。既に会期末も迫っていますが、GW中の休みを利用し、展示を見て回ってきました。

起点を五井にしました。実のところ前回、自宅付近から車で会場に向かいましたが、帰りの高速道路で激しい渋滞に見舞われました。よって今年は五井まで鉄道で直行し、駅近くで車を借りた後、会場を巡ることにしました。

五井に着いたのが10時ジャスト。レンタカーで出発します。最初に目指したのは市原市中南部、高滝湖畔に位置する市原湖畔美術館でした。

11時頃に到着。美術館横の駐車場に車を駐めました。なお前回は駐車場が有料でしたが、全て無料になりました。続いて窓口でパスポートを購入します。大人2000円です。一応、各会場毎に個別観覧料の設定がありますが、パスポートを提示すると全ての展示を観覧することが出来ます。(ワークショップなどを除く。)

湖畔美術館で最もボリュームのある展示は「カールステン・ニコライ」展です。ただしこちらはアート×ミックスの連動企画(別料金)です。感想は下記のエントリにまとめました。
「カールステン・ニコライ:パララックス」 市原湖畔美術館(はろるど)
アート×ミックス関連では、絵本作家のかこさとしが、小湊鉄道沿線を舞台にした「里山絵本展」を開催。「出発進行!里山トロッコ列車」の原画などを展示しています。いずれも可愛らしく親しみやすい作品ばかりでした。

クワクボリョウタやKOSUGE1-16はいわゆる常設での展開です。クワクボリョウタの「Lost Windows」は地下ホールでの影絵でした。格子状の窓が木立の影とともに変化していきます。移ろう景色は幻想的です。ぼんやりと眺めていても飽きません。

アニメーション作家の松本力の展示も行われていました。壁には多くの絵画なども並びます。湖畔美術館でのアート×ミックスの展示は多くありません。結局、美術館に滞在したのは1時間ほどでした。その後はIAAES(旧里見小学校)へと向かいました。

IAAESとは2013年に閉校した里見小学校を活用した施設です。湖畔美術館からは車で10分強。多くのプログラムが展開しています。参加作家も計11組と最大です。いちはらアート×ミックスの中核施設と呼んでも差し支えありません。

学校跡ということで、教室などのスペースをそのまま利用しているのも特徴です。長く伸びた廊下に教室が整然と並びます。懐かしく思われる方も多いかもしれません。

窓の外からは学生服を着た「フチ夫」が中を見下ろしていました。開発好明による等身大の人形です。何やらふてぶてしい態度です。授業をサボっているという設定なのかもしれません。

一押しは世界土協会による「土のレストラン」です。文字通りにレストランをイメージしたインスタレーションです。中に入るとさながら高級レストランの佇まいが広がっています。テーブルセットは10人分です。ナプキンやワイングラスが並んでいました。

このグラスの中が重要です。土が入っていました。さらにタブレットが置いてあり、土の採取の様子などが記録されています。品書きも同様です。採取地や土の状態も明示されています。土は全て別の地域で採られたものです。もちろん市原の地で採取された土も少なくありません。
その土の違いを嗅覚で楽しむという趣向です。いわゆるテイスティングもOKです。グラスを近づけると土の匂いが鼻に染みてきました。一つ一つでかなり異なります。土にこれほどの個性があるとは思いませんでした。

角文平は市原の地形を取り込んでいます。その名も「養老山水図」です。手前は海。千葉港でした。埋立地には石油コンビナートが立ち並びます。そしてなだらかな山がそびえ、頂上には学校がありました。旧里見小学校の校舎かもしれません。

作品は木彫です。ただし素材が面白い。何と机でした。つまり小学校の備品である机を彫り込んで市原の地形を表現しているわけです。大変な作業です。2014年から3年がかりで完成しました。

佐藤史治+原口寛子による「星(近視と遠視)」の舞台も市原です。市内で夜景を撮影。モニターに映し出しています。移ろう光はまるで流れ星のようです。そこへ囁くような「願いごと」のナレーションが加わります。地域の人々のインタビューを参照しているそうです。市原の景色と人が映像と音声を通じて交差していました。

市原に因む作品はまだ続きます。磯崎道佳の「ひかりのあな」も市原です。市内のゴルフ場の映像をカーテンに投影。穴を開けては住民の方などの顔を描いています。カーテンは中古品でしょうか。風に揺られていました。

アート×ミックスでは常設も展示しています。うち前回も人気を集めた豊福亮の「美術室」が健在でした。赤絨毯にシャンデリアです。実にゴージャスな空間が広がっています。

その壁という壁を埋め尽くしたのが泰西名画です。ティツィアーノ、ベラスケス、レンブラント、フェルメール。そしてコローにターナーにゴッホにセザンヌ、マティスにマグリットまでと多数。100点以上もあります。いずれもゴンブリッチの「美術の物語」に出てくる作品の複製画でした。美大生の力を借りて制作されました。

ちょうどお昼になったので小学校内の里山食堂でカレーを食べて腹ごしらえ。やや辛めで美味でした。ジャガイモや鶏肉などは地元の食材を利用しています。地域の方の運営でした。

食堂内には地元の洋画家、前田麻里の作品展示もあります。小屋の中の童話世界も魅惑的ではないでしょうか。

またコーヒーをいただけるおしゃれなカフェもありました。地元で有名という「Mai cafe」がチョコレートショップを出店中です。アート×ミックス中にのみ特別に営業しています。

体育館の倉庫には「おにぎりのための運動会」の巨大おにぎりも展示中です。会期中に3度、運動会が開かれます。残りはあと1回です。最終日の5月14日に行われます。(定員に達したため、見学のみ可。)

開発好明の「モグラハウス」は中に入ることも可能でした。また開発は校舎内にて「里見100人教頭学校 キョンキョン」と題した授業プログラムも展開しています。様々なジャンルの専門家が授業、ないしワークショップを行っていました。
IAAESの展示を堪能した後は、月崎駅へと向かいました。月崎では木村崇人が「森ラジオステーション×森遊会」と題し、小湊鉄道のかつての詰所を用いたインスタレーションを展示しています。

詰所は駅のすぐ隣にありました。ご覧の通りの外観です。苔と野草で覆われています。まるで森の中に迷いこんだかのようです。里山の借景を効果的に用いています。

中には保線詰所の名残を思わせるオブジェが点在しています。実際に使用された機材ばかりかもしれません。壁には「月崎線路班作業位置」の看板や小湊鉄道の黄色いヘルメットも吊り下がっていました。

さすがに絵になる展示です。アート×ミックスのチラシの表紙を飾っているのも無理はありません。詰所内では森の音をライブで聴けるラジオステーションも設置されています。

「森ラジオステーション」は前回のアート×ミックス終了後、地元の有志により結成された「森遊会」により、草刈りや清掃、野草の手入れなどの保守、管理が行われています。

昨年上映された映画、「星ガ丘ワンダーランド」でのロケ地にもなり、アート×ミックス開催期以外でも観光客が訪れるようになりました。かつての芸術祭を切っ掛けに地域の人々を繋いだ「森ラジオステーション」は、地域資源を掘り起こそうとするアート×ミックスの一つの成功例なのかもしれません。

森ラジオステーションで森林浴を楽しんだ後は、エリア最奥部の養老渓谷、そして月出工舎へと移動しました。

「後編:アートハウスあそうばらの谷、月出工舎、内田未来楽校」へと続きます。
「いちはらアート×ミックス2017」(後編:アートハウスあそうばらの谷、月出工舎、内田未来楽校)
「いちはらアート×ミックス2017」(@IchiharaArtMix) 千葉県市原市南部地域(小湊鉄道上総牛久駅~養老渓谷駅一帯)
会期:4月8日(土)~5月14日(日)
休館:会期中無休。
時間:10:00~17:00 *施設やイベントによって異なる。
料金:[鑑賞パスポート]一般2000円、学生(高校生以上)1000円、中学生以下無料。
[個別観覧料]
・300円=内田未来楽校、市原湖畔美術館(かこさとし展)、イチマル(市原湖畔美術館敷地内)、森ラジオステーション、いちはらクオードの森、白鳥公民館、アートハウスあそうばらの森
・500円=月出工舎(旧月出小学校)
・800円=IAAES(旧里見小学校)
*鑑賞パスポート=会期中、芸術祭の作品の全てを観覧可。
*個別観覧料=鑑賞パスポートをもたない来場者のための作品観覧料。
住所:千葉県市原市不入75-1(市原湖畔美術館)他
交通:JR線五井駅から小湊鉄道にて高滝駅下車。徒歩20分で市原湖畔美術館。各会場間の無料周遊バスあり。各会場無料駐車場あり。
「いちはらアート×ミックス2017」
4/8~5/14

「いちはらアート×ミックス2017」へ行ってきました。
2014年に初めて開催された「いちはらアート×ミックス」。今年で2回目です。市原市南部の各施設を舞台に、現代美術の展示のほか、ワークショップなどが行われています。
会期は一ヶ月強です。既に会期末も迫っていますが、GW中の休みを利用し、展示を見て回ってきました。

起点を五井にしました。実のところ前回、自宅付近から車で会場に向かいましたが、帰りの高速道路で激しい渋滞に見舞われました。よって今年は五井まで鉄道で直行し、駅近くで車を借りた後、会場を巡ることにしました。

五井に着いたのが10時ジャスト。レンタカーで出発します。最初に目指したのは市原市中南部、高滝湖畔に位置する市原湖畔美術館でした。

11時頃に到着。美術館横の駐車場に車を駐めました。なお前回は駐車場が有料でしたが、全て無料になりました。続いて窓口でパスポートを購入します。大人2000円です。一応、各会場毎に個別観覧料の設定がありますが、パスポートを提示すると全ての展示を観覧することが出来ます。(ワークショップなどを除く。)

湖畔美術館で最もボリュームのある展示は「カールステン・ニコライ」展です。ただしこちらはアート×ミックスの連動企画(別料金)です。感想は下記のエントリにまとめました。
「カールステン・ニコライ:パララックス」 市原湖畔美術館(はろるど)
アート×ミックス関連では、絵本作家のかこさとしが、小湊鉄道沿線を舞台にした「里山絵本展」を開催。「出発進行!里山トロッコ列車」の原画などを展示しています。いずれも可愛らしく親しみやすい作品ばかりでした。

クワクボリョウタやKOSUGE1-16はいわゆる常設での展開です。クワクボリョウタの「Lost Windows」は地下ホールでの影絵でした。格子状の窓が木立の影とともに変化していきます。移ろう景色は幻想的です。ぼんやりと眺めていても飽きません。

アニメーション作家の松本力の展示も行われていました。壁には多くの絵画なども並びます。湖畔美術館でのアート×ミックスの展示は多くありません。結局、美術館に滞在したのは1時間ほどでした。その後はIAAES(旧里見小学校)へと向かいました。

IAAESとは2013年に閉校した里見小学校を活用した施設です。湖畔美術館からは車で10分強。多くのプログラムが展開しています。参加作家も計11組と最大です。いちはらアート×ミックスの中核施設と呼んでも差し支えありません。

学校跡ということで、教室などのスペースをそのまま利用しているのも特徴です。長く伸びた廊下に教室が整然と並びます。懐かしく思われる方も多いかもしれません。

窓の外からは学生服を着た「フチ夫」が中を見下ろしていました。開発好明による等身大の人形です。何やらふてぶてしい態度です。授業をサボっているという設定なのかもしれません。

一押しは世界土協会による「土のレストラン」です。文字通りにレストランをイメージしたインスタレーションです。中に入るとさながら高級レストランの佇まいが広がっています。テーブルセットは10人分です。ナプキンやワイングラスが並んでいました。

このグラスの中が重要です。土が入っていました。さらにタブレットが置いてあり、土の採取の様子などが記録されています。品書きも同様です。採取地や土の状態も明示されています。土は全て別の地域で採られたものです。もちろん市原の地で採取された土も少なくありません。
その土の違いを嗅覚で楽しむという趣向です。いわゆるテイスティングもOKです。グラスを近づけると土の匂いが鼻に染みてきました。一つ一つでかなり異なります。土にこれほどの個性があるとは思いませんでした。

角文平は市原の地形を取り込んでいます。その名も「養老山水図」です。手前は海。千葉港でした。埋立地には石油コンビナートが立ち並びます。そしてなだらかな山がそびえ、頂上には学校がありました。旧里見小学校の校舎かもしれません。

作品は木彫です。ただし素材が面白い。何と机でした。つまり小学校の備品である机を彫り込んで市原の地形を表現しているわけです。大変な作業です。2014年から3年がかりで完成しました。

佐藤史治+原口寛子による「星(近視と遠視)」の舞台も市原です。市内で夜景を撮影。モニターに映し出しています。移ろう光はまるで流れ星のようです。そこへ囁くような「願いごと」のナレーションが加わります。地域の人々のインタビューを参照しているそうです。市原の景色と人が映像と音声を通じて交差していました。

市原に因む作品はまだ続きます。磯崎道佳の「ひかりのあな」も市原です。市内のゴルフ場の映像をカーテンに投影。穴を開けては住民の方などの顔を描いています。カーテンは中古品でしょうか。風に揺られていました。

アート×ミックスでは常設も展示しています。うち前回も人気を集めた豊福亮の「美術室」が健在でした。赤絨毯にシャンデリアです。実にゴージャスな空間が広がっています。

その壁という壁を埋め尽くしたのが泰西名画です。ティツィアーノ、ベラスケス、レンブラント、フェルメール。そしてコローにターナーにゴッホにセザンヌ、マティスにマグリットまでと多数。100点以上もあります。いずれもゴンブリッチの「美術の物語」に出てくる作品の複製画でした。美大生の力を借りて制作されました。

ちょうどお昼になったので小学校内の里山食堂でカレーを食べて腹ごしらえ。やや辛めで美味でした。ジャガイモや鶏肉などは地元の食材を利用しています。地域の方の運営でした。

食堂内には地元の洋画家、前田麻里の作品展示もあります。小屋の中の童話世界も魅惑的ではないでしょうか。

またコーヒーをいただけるおしゃれなカフェもありました。地元で有名という「Mai cafe」がチョコレートショップを出店中です。アート×ミックス中にのみ特別に営業しています。

体育館の倉庫には「おにぎりのための運動会」の巨大おにぎりも展示中です。会期中に3度、運動会が開かれます。残りはあと1回です。最終日の5月14日に行われます。(定員に達したため、見学のみ可。)

開発好明の「モグラハウス」は中に入ることも可能でした。また開発は校舎内にて「里見100人教頭学校 キョンキョン」と題した授業プログラムも展開しています。様々なジャンルの専門家が授業、ないしワークショップを行っていました。
IAAESの展示を堪能した後は、月崎駅へと向かいました。月崎では木村崇人が「森ラジオステーション×森遊会」と題し、小湊鉄道のかつての詰所を用いたインスタレーションを展示しています。

詰所は駅のすぐ隣にありました。ご覧の通りの外観です。苔と野草で覆われています。まるで森の中に迷いこんだかのようです。里山の借景を効果的に用いています。

中には保線詰所の名残を思わせるオブジェが点在しています。実際に使用された機材ばかりかもしれません。壁には「月崎線路班作業位置」の看板や小湊鉄道の黄色いヘルメットも吊り下がっていました。

さすがに絵になる展示です。アート×ミックスのチラシの表紙を飾っているのも無理はありません。詰所内では森の音をライブで聴けるラジオステーションも設置されています。

「森ラジオステーション」は前回のアート×ミックス終了後、地元の有志により結成された「森遊会」により、草刈りや清掃、野草の手入れなどの保守、管理が行われています。

昨年上映された映画、「星ガ丘ワンダーランド」でのロケ地にもなり、アート×ミックス開催期以外でも観光客が訪れるようになりました。かつての芸術祭を切っ掛けに地域の人々を繋いだ「森ラジオステーション」は、地域資源を掘り起こそうとするアート×ミックスの一つの成功例なのかもしれません。

森ラジオステーションで森林浴を楽しんだ後は、エリア最奥部の養老渓谷、そして月出工舎へと移動しました。

「後編:アートハウスあそうばらの谷、月出工舎、内田未来楽校」へと続きます。
「いちはらアート×ミックス2017」(後編:アートハウスあそうばらの谷、月出工舎、内田未来楽校)
地方と都市をつなぐ・つたえる「ココロココ」で、いちはらアート×ミックス2017を取り上げていただきました!https://t.co/PN2YDNrRx3 https://t.co/SC6M4pdZpa
— いちはらアート×ミックス (@IchiharaArtMix) 2017年4月30日
「いちはらアート×ミックス2017」(@IchiharaArtMix) 千葉県市原市南部地域(小湊鉄道上総牛久駅~養老渓谷駅一帯)
会期:4月8日(土)~5月14日(日)
休館:会期中無休。
時間:10:00~17:00 *施設やイベントによって異なる。
料金:[鑑賞パスポート]一般2000円、学生(高校生以上)1000円、中学生以下無料。
[個別観覧料]
・300円=内田未来楽校、市原湖畔美術館(かこさとし展)、イチマル(市原湖畔美術館敷地内)、森ラジオステーション、いちはらクオードの森、白鳥公民館、アートハウスあそうばらの森
・500円=月出工舎(旧月出小学校)
・800円=IAAES(旧里見小学校)
*鑑賞パスポート=会期中、芸術祭の作品の全てを観覧可。
*個別観覧料=鑑賞パスポートをもたない来場者のための作品観覧料。
住所:千葉県市原市不入75-1(市原湖畔美術館)他
交通:JR線五井駅から小湊鉄道にて高滝駅下車。徒歩20分で市原湖畔美術館。各会場間の無料周遊バスあり。各会場無料駐車場あり。
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