「ファッションとアート 麗しき東西交流展」 横浜美術館

横浜美術館
「ファッションとアート 麗しき東西交流展」 
4/15~6/25



横浜美術館で開催中の「ファッションとアート 麗しき東西交流展」を見てきました。

ファッションとアートは、近代以降の東洋と西洋において、互いに影響を与え合いながら、新たな歴史を築いてきました。


飯田髙島屋「室内着」 1906(明治39)年頃 京都服飾文化研究財団

会場内には日本、および西洋を彩ったドレスや服飾品がずらり。その数、100点です。さらに工芸、絵画、写真などの100点を加え、日本と西洋が服飾文化を、美術の観点を交えて検証しています。

冒頭から舞台は横浜でした。歌川貞秀の「横浜商館真図」です。そもそも1859年の開港以来、横浜は交易地として発展します。開港場には外国人居留地が設けられ、商館やホテルも立ち並びました。そして日本人も時に洋服を着て外国人と交流します。つまり西洋文化を早い段階で摂取したのが横浜であったわけです。

横浜側の動きも機敏です。早速、外国人向けに洋装の生産に乗り出します。その一つが椎野正兵衛商店でした。同地にて絹織物商の事業を開始し、日本初の服飾ブランドを立ち上げます。ハンカチやマフラー、ネクタイを販売、室内着などを輸出しました。一例が「輸出用室内着」です。菊の刺繍が施されています。色は茶色でした。ともすると地味でもありますが、大いに売れたそうです。日本的なデザインに魅力を感じたのかもしれません。


宮川香山「高浮彫桜ニ群鳩大花瓶」 明治前期 田邊哲人コレクション(神奈川県立歴史博物館寄託)

さらに横浜の輸出品といえば宮川香山です。同地に窯を開き、高浮彫の技法による真葛焼を生産。外国へと輸出します。西洋でも人気を博しました。ほか下総の生まれで、主に横浜から海を渡った芝山細工の飾棚なども重宝されたそうです。あわせて展示されていました。

日本で洋装を早くから受容したのは上流階級の人々でした。皇族や華族は維新後に洋装を導入します。鹿鳴館で舞踏会や音楽会が頻繁に開催されました。一方で庶民に洋装が浸透したのは関東大震災後のことでした。


鏑木清方「嫁ぐ人」 1907(明治40)年 鎌倉市鏑木清方記念美術館 *5月20日から展示

当時の女性の洋装を知るのに有用なのが絵画でした。例えば山本芳翠の「岡田けい像」です。モデルは駐英領事の園田孝吉男爵の妻です。さらに岡田三郎助や山村耕花、鏑木清方らも洋装の女性をモデルとした作品を残しています。

うち山村耕花の「婦女愛禽図」に興味が引かれました。二幅の屏風絵です。左右には確かに小鳥を愛でる女性が描かれています。しかしながらいずれも和服です。洋服は着ていません。一体、どこに洋装の要素が見られるのでしょうか。

答えは髪型でした。当時、「耳かくし」と呼ばれるスタイルが流行。これが洋装にも和装にも似合うとされたのです。何もすぐさま全てが洋装化したわけではありません。髪飾りや着物の一部に洋風の模様が取り入られていきました。

和装にも西洋的なモチーフが現れます。夏の単衣です。白地にバラやチューリップの模様が油絵風にあしらわれています。和洋折衷的と呼んでも差し支えないかもしれません。

勝田哲の「朝」が力作です。ベットの上で花柄のツーピースを着た女性が寝そべっています。手前にはレコードが置かれていました。一度、着替えては聞いているのでしょうか。朝の空気を入れるためは窓は開け放たれています。戸外に広がるのは緑です。白いレースのカーテンが僅かに揺れています。まさにモダン・ガール。実に洒落ています。戦前に最後に花開いた華美な気風を感じることが出来ました。


「昭憲皇太后着用大礼服」 1910年頃(明治末期) 共立女子大学博物館

一つのハイライトとも言えるのが「昭憲皇太后着用大礼服」です。吹き抜けの展示室をほぼ独占。肩からトレーンが3.3メートルも延びています。ゴージャスです。深い緑色も艶やがあります。もちろんモチーフは菊花でした。新年式に着用したと言われています。

ラストが西洋での受容です。いわゆるジャポニスムの展開を追いかけています。日本の美術品は、のちのアール・ヌーボー、アール・デコなどの装飾芸術にも大きな影響を与えました。


ジュール=ジョゼフ・ルフェーヴル「ジャポネーズ(扇のことば)」 1882年 クライスラー美術館

ではファッションはどうだったのでしょうか。日本製のドレスが受け入られるとともに、西洋においても日本の模様を取り入れたドレスが生産されました。

チラシ表紙を飾ったターナーの「デイ・ドレス」のモチーフは軍配です。さらに葉や椿も加わります。刺繍自体は和風です。ロンドンで日本の小袖をほどいてバッスルスタイルに仕立てあげられました。

そして非対称の模様も導入。カキツバタがアイリスに似ているとして取り入られたこともありました。一般的にデザインは平面化します。和風の柄が採用されました。中には虎の顔を大胆にプリントしたドレスもあります。またコルセットの解放にも着物の影響があったそうです。メゾンもこぞって日本の着物にインスピレーションを得たドレスを発表しました。

会場内、一部展示台のみ撮影が可能でした。(但し平日のみ)



日本の漆芸のデザインもテキスタイルへ影響を及ぼします。シャネルは漆塗りに金や銀粉を蒔いた技法に着想を得ます。またリバティ商会は螺鈿の輝きを連想させる色のドレスを販売しました。ほか青海波風の模様など、日本のモチーフをドレスの随所で垣間見ることが出来ました。



出品のドレスは「京都服飾文化研究財団」(KCI)のコレクションです。世界屈指の服飾品を有し、研究活動を行う団体です。KCIのコレクションがまとまって公開されるのは約20年ぶりのことでした。



ファッションとアート。いささかアバウトなタイトルにも聞こえますが、構成自体は練られていました。またドレスはほぼ露出での展示です。一部は360度の角度から見ることも可能です。東西文化の交流地でもあった横浜ならではの展覧会と言えるかもしれません。



6月2日(金)は横浜開港記念日のために無料で観覧出来ます。

「ファッションとアート 麗しき東西交流/六耀社」

6月25日まで開催されています。

「ファッションとアート 麗しき東西交流展」 横浜美術館@yokobi_tweet
会期:4月15日(土)~6月25日(日)
休館:木曜日。但し5月4日(木・祝)は開館。5月8日(月)。
時間:10:00~18:00
 *5月17日(水)は20:30まで。
 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1500(1400)円、大学・高校生900(800)円、中学生600(500)円。小学生以下無料。
 *( )内は20名以上の団体。要事前予約。
 *毎週土曜日は高校生以下無料。
 *当日に限り、横浜美術館コレクション展も観覧可。
住所:横浜市西区みなとみらい3-4-1
交通:みなとみらい線みなとみらい駅5番出口から徒歩5分。JR線、横浜市営地下鉄線桜木町駅より徒歩約10分。
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