「茶の湯」 東京国立博物館

東京国立博物館・平成館
「茶の湯」
4/11~6/4



東京国立博物館・平成館で開催中の「茶の湯」を見てきました。

12世紀頃、中国に由来する点茶と呼ばれた喫茶法が、日本の禅宗寺院や武家の間にも広がりました。

まさに茶のオールスター。総出展数は250点を超えます。(展示替えあり)茶に関する文物が平成館の広大なスペースを埋め尽くしていました。


重要文化財「遠浦帰帆図」 牧谿 中国 南宋時代・13世紀 京都国立博物館 *展示期間:5月9日〜5月21日

はじまりは12〜13世紀です。いきなり牧谿(伝を含む)が4点も出ていました。うち「遠浦帰帆図」が見事です。中国の洞庭湖一帯を描いた瀟湘八景図の一枚でした。右手には広い水面が広がり、二艘の帆船も浮かんでいます。手前の陸には楼閣が立っていました。驟雨でしょうか。湖面がやや雨で霞んでいる上、木々も枝を揺らしています。ともかく墨のニュアンスが素晴らしい。湿潤な大気が画面から伝わってきました。

茶の世界で尊ばれたのは中国由来の美術品、すなわち唐物でした。いきなりの目玉が登場です。国宝の「油滴天目」が展示されていました。


国宝「油滴天目」 中国・建窯 南宋時代・12〜13世紀 大阪市立東洋陶磁美術館

所蔵は大阪の東洋陶磁美術館です。ひしめき合う斑模様の端正な美しさといったら比類がありません。やや強めの照明です。見込みは水色から紫、一方で外周は深い群青に染まっているように見えます。秀次所持とも伝えられる作品です。照明器具のない時代、一体どのように映ったのでしょうか。

なお同じく国宝の「曜変天目 稲葉天目」の出展は終了しました。6月17日より所蔵先の静嘉堂文庫美術館で公開が予定されています。


重要文化財「青磁輪花茶碗 銘 馬蝗絆」 中国・龍泉窯 南宋時代・13世紀 東京国立博物館

「青磁輪花茶碗 銘 馬蝗絆」が忘れられません。義政の所持です。ひびが入ったため、中国へ替るものを求めるも、鎹を打って送り返されたというエピソードはあまりにも有名です。それを蝗に見立てました。ミルク色を帯びた水色が透き通っています。うっすら光を放っているかのようでした。

15世紀になると町衆が力をつけ、一部の茶人らが唐物だけでなく、日常の道具を茶に取り入れはじめます。いわゆる侘茶でした。


重要文化財「灰被天目 銘 虹」 中国 明時代・14〜15世紀 文化庁

当初、評価が低かった器にも新たな価値が見出されます。一例が「灰被天目 銘 虹」でした。確かに曜変や油滴ほどの輝きはありません。しかしながら群青に柿色が沈み込むような色には渋みがあります。ここに美を見たのかもしれません。


「黄天目 珠光天目」 中国 元〜明時代・14〜15世紀 永青文庫

侘茶の祖、村田珠光が所持したと伝えられるのは「黄天目 珠光天目」です。下釉の色が黄色を帯びています。高台の上あたりで釉薬が緩やかな曲線を描いていました。この黄天目も灰被天目同様、侘茶の流行により再評価されました。

唐物から高麗物、そして和物へと茶湯道具の志向も変化します。朝鮮の「雨漏茶碗」に魅せられました。全体は白、ないしクリーム色です。そこに気泡が生じて、雨漏り状の模様が浮き上がっています。腰に亀裂が走っていました。偶然でしょうか。そこに染みが広がっています。雨漏り状の粒が実、染みが葉とすれば、まるで葡萄を表したかのようです。器へ色々と自由に景色をイメージするのも楽しいかもしれません。

侘茶を大成したのが千利休でした。会場では「利休が取り上げたもの」と「利休の創造」の2つに分け、利休に因む様々な茶道具を紹介しています。

ここでは何と言っても長次郎です。赤楽に黒楽。全6点が2点ずつ互いに対になるように展示されています。


重要文化財「黒楽茶碗 銘 ムキ栗」 長次郎 安土桃山時代・16世紀 文化庁

まずは赤楽です。「銘 白鷺」と「銘 一文字」が並んでいます。ともに手の中にすっぽりと収まるような小ぶりの茶碗です。次いで黒楽の「銘 ムキ栗」と「口寄香炉」と続きます。「ムキ栗」は上部が正方形という独特の形をしています。一方で香炉は円形でした。「ムキ栗」との形の対比が面白いのではないでしょうか。

ラストも黒楽、「万代屋黒」と「銘 俊寛」でした。後者は長次郎の黒楽の「代表作の一つ」(解説より)です。腰がともかく低く、どっしりと構えています。両者で黒の色味に違いがありました。「万代屋黒」はややマットで古色を帯びているのに対し、「俊寛」はともかく艶やかで、黒が強く主張をしているようにも見えます。一言に黒楽といえども、その表情は多様でした。


国宝「志野茶碗 銘 卯花墻」 美濃 安土桃山時代・16〜17世紀 三井記念美術館

それにしても名品揃いです。光悦の「黒楽茶碗 銘 時雨」に「志野茶碗 銘 卯花墻」などと、一つ一つ挙げていくとキリがありません。右に左に目移りするほどでした。

江戸時代では小堀遠州や松平不昧などにも着目。「古典復興」として茶の湯の新たな動向を紹介しています。


重要文化財「色絵若松図茶壺」 仁清 江戸時代・17世紀 文化庁

任清の「色絵若松図茶壺」が目立っていました。任清黒と呼ばれる闇を背景に、山々や若松、それに桜や椿を描いています。金と銀も眩い。見るも鮮やかなです。任清は「茶人金森宗和のもとで天皇や公家好み」(解説より)の茶陶を制作しました。

ラストの第5章、「新たな創造」の展示が少し変わっています。というのも、茶に深く関わった近代の4名の実業者を取り上げているものの、1人ずつを2週毎に分けて紹介しているからです。

その人物とは平瀬露香、藤田香雪、益田鈍翁、原三溪の4名でした。いずれも茶の湯の数寄者で知られています。既に藤田香雪と益田鈍翁の展示は終了。現在は大阪の金融界の重鎮だった平瀬露香に因んだ作品が展示されています。(5月21日まで。以降、会期最終日までは原三溪。)


「伊羅保片身替茶碗 銘 千種伊羅保」 朝鮮 朝鮮時代・16〜17世紀 個人蔵 *展示期間:5月9日〜5月21日

平瀬の屋号、千種屋の名の記された「伊羅保片身替茶碗 銘 千種伊羅保」も興味深いのではないでしょうか。朝鮮の高麗茶碗です。日本からの注文で焼かれたとされています。胴の部分の色が縦に分かれています。シンプルながらもモダンな感覚も感じられました。


この規模での茶関連の展覧会は、昭和55年の「茶の美術」(東京国立博物館)にまで遡らなくてはなりません。37年ぶりです。残念ながら展示替えまでは追えませんが、集大成に相応しい内容と言えるかもしれません。


「梅竹図真形釜」 芦屋 室町時代・15世紀 公益財団法人美術工芸振興佐藤基金

なお総合文化展こと常設展示室内にも茶関連の品が何点かありました。


「志野網干文水指」 美濃 安土桃山〜江戸時代・16〜17世紀 個人蔵

志野の茶碗に水指、芦屋釜のほか、灰被天目、また薩摩の黒釉茶碗などの目を引く作品も少なくありません。常設展とあわせて楽しむのが良さそうです。

「茶碗の中の宇宙」を開催中の東京国立近代美術館との間に無料シャトルバスが運行されています。



「東京国立博物館×東京国立近代美術館 コラボ企画 無料シャトルバス運行」(5月21日まで)

所要時間は30分。上野、竹橋間のダイレクトアクセスです。案内によれば、13時半、14時の便は発車20分前に満席になる傾向があるそうです。

会期は残り1ヶ月を切りました。展示は膨大です。時間に余裕を持ってお出かけ下さい。



6月4日まで開催されています。

「茶の湯」@chanoyu2017) 東京国立博物館・平成館(@TNM_PR
会期:4月11日(火)~6月4日(日)
時間:9:30~17:00。
 *毎週金・土曜は21時まで、日曜は18時まで開館。
 *GW期間中の4月30日(日)、5月3日(水・祝)~5月7日(日)は21時まで開館。
 *入館は閉館の30分前まで。
休館:月曜日。但し5月1日(月)は開館。
料金:一般1600(1300)円、大学生1200(900)円、高校生900(600)円。中学生以下無料
 *( )は20名以上の団体料金。
住所:台東区上野公園13-9
交通:JR上野駅公園口より徒歩10分。東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅、京成電鉄上野駅より徒歩15分。
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