都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「第12回 shiseido art egg 宇多村英恵展」 資生堂ギャラリー
資生堂ギャラリー
「第12回 shiseido art egg 宇多村英恵展」
8/3~8/26

資生堂ギャラリーで開催中の「第12回 shiseido art egg 宇多村英恵展」を見てきました。
1980年に生まれた宇多村は、ロンドン大学を卒業後、しばらく同地に滞在し、「文明の進歩」(解説より)を考察すべく、映像やパフォーマンス、それにインスタレーションを制作してきました。

会場に忽然と現れたのが、大きな黒い箱で、展覧会のタイトルでもある「Holiday at War」、すなわち「戦争と休日」と名付けられた作品でした。青白い光に包まれていて、ちょうど上から3分の1付近に写真がはめ込まれていました。近づくとリゾート地のホテル、あるいはマンションのような施設が写されていることが分かりました。

その部分は、まるで灯台の明かりのような光の旋回によって、明るくなったり、暗くなったりしていて、ぐるりと一周、追いかけていると、海辺のリゾートの大パノラマを前にしているかのようでした。しかし、その時点で、そもそも一体、どの場所を表しているのか、皆目、見当もつきませんでした。

箱の周囲の壁にヒントがありました。と言うのも、そこには宇多村による、日本語と英語のテキストが2段で記されているからでした。
「私は海に沿って歩いている。ドイツのリューゲン島のプローラという地にある浜辺だ。海岸の目の前には、4.5kmの長さに及ぶ巨大な建物がそびえ立っている。」 *会場のテキストより

それは、古くからの保養所でもあったバルト海に面したリューゲン島に、ナチスが築き上げた、4.5kmにも伸びた建物でした。ナチスは、プロパガンダのために、労働者のリゾートを作るべく、一連のビルを建設し、約2万名もの人々が休暇を過ごせるように計画しました。しかし、第二次世界大戦がはじまると、建設は中止され、一時は疎開した人々を受け入れたものの、ソビエト軍によって占領されると、基地として使用されました。その後、結果的にビルは長らく放置されました。「プローラの巨人」とも呼ばれていたそうです。

しかし、2006年頃、再利用の計画が持ち上がり、2011年には一部に宿泊施設が開業しました。つまり、その光景が、窓の部分に写されていたわけでした。

「プローラの巨人」の建築家をコンペで選んだのが、ヒトラーの寵愛を受けた、アルベルト・シュペーアでした。彼は、ナチスの党主任建築家として活動し、パリ万博のドイツ館やニュルンベルクの党大会会場を設計した上、政権では軍需相を担ったこともありました。

その後、戦争が終結すると、ニュルンベルク裁判で起訴され、戦犯として20年の禁固刑を言い渡されました。そしてシュペーアが投獄された独房と、余暇のためのプローラの部屋のサイズが、殆ど同じであり、その部屋こそが、まさに会場に置かれた黒い箱と同じ大きさでした。
「黒い箱と壁との間の空間を、私は「人類の彼岸」と呼びます。この作品では、鑑賞者は、歩きながら、時空間を越え、思考する歩行者になっていくでしょう。」 *解説より

一つのシンプルな黒い箱からは、予想もし得ないような、時間を超えた、大きな物語が紡がれていました。宇多村は自らの展示手法を「空間シネマ」と呼んでいるそうですが、巡り行く景色を追っていると、確かに一つの映画に入り込むかのような錯覚に陥りました。
「第12回 shiseido art egg展」
冨安由真展:6月8日(金)~7月1日(日)
佐藤浩一展:7月6日(金)~7月29日(日)
宇多村英恵展:8月3日(金)~8月26日(日)
8月26日まで開催されています。 *写真は全て「Holiday at War」
「第12回 shiseido art egg 宇多村英恵展」 資生堂ギャラリー(@ShiseidoGallery)
会期:8月3日(金)~8月26日(日)
休廊:月曜日。
料金:無料。
時間:11:00~19:00(平日)、11:00~18:00(日・祝)
住所:中央区銀座8-8-3 東京銀座資生堂ビル地下1階
交通:東京メトロ銀座線・日比谷線・丸ノ内線銀座駅A2出口から徒歩4分。東京メトロ銀座線新橋駅3番出口から徒歩4分。
「第12回 shiseido art egg 宇多村英恵展」
8/3~8/26

資生堂ギャラリーで開催中の「第12回 shiseido art egg 宇多村英恵展」を見てきました。
1980年に生まれた宇多村は、ロンドン大学を卒業後、しばらく同地に滞在し、「文明の進歩」(解説より)を考察すべく、映像やパフォーマンス、それにインスタレーションを制作してきました。

会場に忽然と現れたのが、大きな黒い箱で、展覧会のタイトルでもある「Holiday at War」、すなわち「戦争と休日」と名付けられた作品でした。青白い光に包まれていて、ちょうど上から3分の1付近に写真がはめ込まれていました。近づくとリゾート地のホテル、あるいはマンションのような施設が写されていることが分かりました。

その部分は、まるで灯台の明かりのような光の旋回によって、明るくなったり、暗くなったりしていて、ぐるりと一周、追いかけていると、海辺のリゾートの大パノラマを前にしているかのようでした。しかし、その時点で、そもそも一体、どの場所を表しているのか、皆目、見当もつきませんでした。

箱の周囲の壁にヒントがありました。と言うのも、そこには宇多村による、日本語と英語のテキストが2段で記されているからでした。
「私は海に沿って歩いている。ドイツのリューゲン島のプローラという地にある浜辺だ。海岸の目の前には、4.5kmの長さに及ぶ巨大な建物がそびえ立っている。」 *会場のテキストより

それは、古くからの保養所でもあったバルト海に面したリューゲン島に、ナチスが築き上げた、4.5kmにも伸びた建物でした。ナチスは、プロパガンダのために、労働者のリゾートを作るべく、一連のビルを建設し、約2万名もの人々が休暇を過ごせるように計画しました。しかし、第二次世界大戦がはじまると、建設は中止され、一時は疎開した人々を受け入れたものの、ソビエト軍によって占領されると、基地として使用されました。その後、結果的にビルは長らく放置されました。「プローラの巨人」とも呼ばれていたそうです。

しかし、2006年頃、再利用の計画が持ち上がり、2011年には一部に宿泊施設が開業しました。つまり、その光景が、窓の部分に写されていたわけでした。

「プローラの巨人」の建築家をコンペで選んだのが、ヒトラーの寵愛を受けた、アルベルト・シュペーアでした。彼は、ナチスの党主任建築家として活動し、パリ万博のドイツ館やニュルンベルクの党大会会場を設計した上、政権では軍需相を担ったこともありました。

その後、戦争が終結すると、ニュルンベルク裁判で起訴され、戦犯として20年の禁固刑を言い渡されました。そしてシュペーアが投獄された独房と、余暇のためのプローラの部屋のサイズが、殆ど同じであり、その部屋こそが、まさに会場に置かれた黒い箱と同じ大きさでした。
「黒い箱と壁との間の空間を、私は「人類の彼岸」と呼びます。この作品では、鑑賞者は、歩きながら、時空間を越え、思考する歩行者になっていくでしょう。」 *解説より

一つのシンプルな黒い箱からは、予想もし得ないような、時間を超えた、大きな物語が紡がれていました。宇多村は自らの展示手法を「空間シネマ」と呼んでいるそうですが、巡り行く景色を追っていると、確かに一つの映画に入り込むかのような錯覚に陥りました。
「第12回 shiseido art egg展」
冨安由真展:6月8日(金)~7月1日(日)
佐藤浩一展:7月6日(金)~7月29日(日)
宇多村英恵展:8月3日(金)~8月26日(日)
この展覧会のタイトルにもなっている「Holiday at war/戦争と休日」。周りをぐるっと歩きながら鑑賞ください。"Holiday at war " which is also the title of this exhibition. It is recommended to watch while walking around this work.#artegg2018 #資生堂ギャラリー #ShiseidoGallery pic.twitter.com/dK2a7LzK9X
— 資生堂ギャラリー (@ShiseidoGallery) 2018年8月7日
8月26日まで開催されています。 *写真は全て「Holiday at War」
「第12回 shiseido art egg 宇多村英恵展」 資生堂ギャラリー(@ShiseidoGallery)
会期:8月3日(金)~8月26日(日)
休廊:月曜日。
料金:無料。
時間:11:00~19:00(平日)、11:00~18:00(日・祝)
住所:中央区銀座8-8-3 東京銀座資生堂ビル地下1階
交通:東京メトロ銀座線・日比谷線・丸ノ内線銀座駅A2出口から徒歩4分。東京メトロ銀座線新橋駅3番出口から徒歩4分。
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