「フィンランド陶芸―芸術家たちのユートピア」 目黒区美術館

目黒区美術館
「日本・フィンランド外交関係樹立100周年記念 フィンランド陶芸―芸術家たちのユートピア」
7/14~9/6



目黒区美術館で開催中の「フィンランド陶芸―芸術家たちのユートピア」を見てきました。

近代フィンランド陶芸の形成過程には、ナショナリズムの高まりにおける、ロシアからの独立運動とも関わりがありました。

そうしたフィンランドの陶芸史を追う展覧会が、「フィンランド陶芸―芸術家たちのユートピア」で、岐阜県現代陶芸美術館のほか、フィンランド陶磁器の世界的コレクターとして知られる、キュオスティ・カッコネンのコレクションが数多く紹介されていました。

19世紀のフィンランドの陶芸に影響を与えたのは、イギリスのアーツ・アンド・クラフツ運動でした。当時のフィンランドは、ロシアからの独立の機運が高まっていて、陶芸においても、ナショナル・ロマンティシズムと呼ばれる独自の展開を見せていました。

アルフレッド・ウィリアム・フィンチは、「花瓶」に、フィンランドの国花として知られるスズランを描きました。一方で、エルサ・エレニウスは「ボウル」に、銅の釉薬を用いて、どこか中国風の器を作り上げました。ほかにもミハエル・シルキンは、猫や兎を具象的に象っていて、中にはキュッリッキ・サルメンハーラの「ボウル」のように、ルーシー・リーを思わせるような器もありました。ともかく作家によって個性が際立っていて、到底、一口に括ることは出来ませんでした。

フィンランドの陶芸の活動を支えていたのは、ヘルシンキの美術工芸中央学校と、アラビア製陶所でした。実際にも、アラビア製陶所の作品が大半を占めていて、同製陶所の果たした重要な役割を目の当たりにすることが出来ました。

オーガニック・モダニズムとピクトリアリズムも、重要なキーワードと言えるかもしれません。前者は、有機的なフォルムを特徴としていて、まるで干し草のように伸びるトイニ・ムオナの「筒花瓶」などが印象に残りました。先のキュッリッキ・サルメンハーラも、オーガニック・モダニズムを代表する作家の1人でした。


*参考図版:ルート・ブリュック「聖体祭」拡大パネル (撮影可)

ルート・ブリュックの「聖体祭」も美しい作品ではないでしょうか。いわゆるピクトリアリズムを牽引した陶芸家で、文字通り、聖体祭の光景を陶板に描きました。さらに「ノアの箱舟」など、宗教的な主題を陶板に表しましたが、一方で、「タイル・コンポジション」など、構成主義を思わせる作品もありました。

ビルゲル・カイピアイネンの「飾皿」は、群青色のすみれを大きく描いた作品で、色彩に花が沈み込み、幻想的な面持ちをたたえていました。さらに、小さなビーズを細かく連ねて鳥を象った「ビーズ・バード」も目立っていました。

ラストはプロダクト・デザインでした。カイ・フランクの食器セットなどは、日本でも人気を集めているかもしれません。

これほどのスケールでフィンランド陶器を見ることからして初めてでした。特にプロダクト・デザイン以前の展開は、日本で詳しく紹介されていたとは言いがたく、大変に興味深いものがありました。また単に作品を紹介するだけでなく、陶芸を取り巻く社会的背景についても踏み込んでいるのも、展覧会の特徴と言えるかもしれません。


マリメッコ・コーナー (撮影可)

エントランスにあるルート・ブルュックの「聖体祭」のパネル画像と、第5章「プロダクト・デザイン」のマリメッコのコーナーのみ撮影も出来ました。椅子に座って記念撮影も可能です。

[フィンランド陶芸―芸術家たちのユートピア 巡回予定]
岐阜県現代陶芸美術館:2018年11月17日(土)~2019年2月17日(日)
山口県立萩美術館・浦上記念館:2019年4月20日(土)~6月30日(日)
大阪市立東洋陶磁美術館:2019年7月13日(土)~10月14日(日)

一部に露出展示もありました。ただし、手荷物が作品にあたってしまっては大変です。あらかじめロッカーに入れておくことをおすすめします。


9月6日まで開催されています。

「日本・フィンランド外交関係樹立100周年記念 フィンランド陶芸―芸術家たちのユートピア」 目黒区美術館@mmatinside
会期:7月14日(土)~9月6日(木)
休館:月曜日。但し7月16日(月・祝)は開館し、7月17日(火)は休館。
時間:10:00~18:00
 *入館は17時半まで。
料金:一般800(600)円、大高生・65歳以上600(500)円、小中生無料。
 *( )内は20名以上の団体料金。
住所:目黒区目黒2-4-36
交通:JR線、東京メトロ南北線、都営三田線、東急目黒線目黒駅より徒歩10分。
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