都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「ゴードン・マッタ=クラーク展」 東京国立近代美術館
東京国立近代美術館
「ゴードン・マッタ=クラーク展」
6/19~9/17

東京国立近代美術館で開催中の「ゴードン・マッタ=クラーク展」を見てきました。
1970年代にニューヨークを中心に活動したゴードン・マッタ=クラークは、取り壊し前の建物を切断する「ビルディング・カット」などで活動し、没後40年の今もなお、人気を集めています。
意外にもアジア初の大規模な回顧展です。写真、資料、映像など、約200点にて、ゴードン・マッタ=クラークの制作を紹介していました。

「サーカスまたはカリビアン・オレンジ」 1978年 イースト・オンタリオ通り235番地(イリノイ州シカゴ)
ともかく切断に次ぐ切断でした。「サーカスまたはカリビアン・オレンジ」は、結果的にマッタ=クラークが最後に手がけたビルディング・カットで、シカゴ現代美術館が、隣接する住宅を別館に改修する際、作家にプロジェクトを依頼しました。

「無題(ベラス・アルテスの切断)」 1971年 チリ国立美術館
「無題(ベラス・アルテスの切断)」は、チリの国立美術館を舞台にしていて、マッタ=クラークは、屋根に穴あけ、空間を切り開いては、光を取り込む試みをしました。マッタ=クラークの切断した建物は、ほぼ全て失われましたが、殆ど唯一の現存する作品とも言われています。
そもそも1970年代のニューヨークは、戦後の開発により、古いコミュニティが失われ、不況下の元、市の財政破綻とともに、特に貧困層の住環境が悪化していました。そうした中、マッタ=クラークは、時に無断で打ち棄てられた建物の中に入っては、家屋の床や壁を切るビルディング・カットをはじめました。何でも廃屋となった倉庫に侵入し、壁面に大きな穴を開けた「日の終わり」の制作の際は、ニューヨーク市から逮捕状が出たそうです。

「ブロンクス・フロアーズ」 1972〜1973年 マンハッタン、ブルックリン、ブロンクス(ニューヨーク州 ニューヨーク市)
「ブロンクス・フロアーズ」も、マッタ=クラークが友人らとともに空き家へ侵入して制作しました。床や壁の一部を四角く切り抜くことで、階下が奈落として現れる一方、天井は貫かれ、「1つの空間からもう1つの空間へと視界が生み出され」(解説より)ました。

「スプリッティング:四つの角」 1974年 サンフランシスコ近代美術館
ビルディング・カットで最大級の立体作品、「スプリッティング:四つの角」が、初めて日本へやって来ました。やはり「ブロンクス・フロワーズ」と同様、空き家を切断していて、建物に約2.5センチ間隔で2本の線を引き、電動のこぎりで線を貫いては、隙間の素材を取っ払いました。

「スプリッティング」 1974年 東京国立近代美術館
さらに土台のブロックを除き、ジャッキで支え、また後ろ側を下へ降ろすなど、単に切断といえども、かなり複雑なプロセスを行なっていました。破壊とは異なり、切断は、建物や空間を再構築する取り組みでもあります。空き家などの打ち捨てられた建物を、切断によって、また異なった空間へと転化させていると言えるかもしれません。
マッタ=クラークは、時に人々や物が行き交う、ストリートを舞台として活動しました。都市空間に潜む「隙間や余剰」(解説より)に着目し、作品を制作しました。

「ごみの壁」 1970年/2018年
その1つが「ごみの壁」で、まさに街で集めて来たゴミを、木製の型枠にはめ込んでは、石膏などで固めた作品でした。実際には、パフォーマンスの舞台として使用され、最後は取り壊し、ゴミのコンテナへと捨てられました。

「ごみの壁」 1970年/2018年
それを東京で再制作した作品が、美術館の前庭に展示されていました。テレビや携帯電話、時計にパソコン、さらにタイヤやゲーム機などが、セメントなどで固められていました。早稲田大学建築学科の学生と共同で制作されたそうです。

「フレッシュキル」 撮影:1971年/編集:1972年 ステタン島フレッシュキルズごみ埋立地(ニューヨーク州 ニューヨーク市)
一方で、本来的に機能を持っていたものを、ゴミへと変えたのが、「フレッシュキル」でした。マンハッタンの南、ステタン島にあった、ごみ埋立地を舞台としていて、マッタ=クラークの運転する小型トラックが、ブルドーザーに衝突し、さらに今度はブルドーザーによってスクラップとされ、埋め立てられるという作品でした。

「フレッシュキル」 撮影:1971年/編集:1972年 ステタン島フレッシュキルズごみ埋立地(ニューヨーク州 ニューヨーク市)
これが驚くほど迫力のある映像でした。車がぶつかり、ブルドーザーによって、じわじわと、それでいて木っ端微塵にスクラップにされる光景は、確かに「暴力的」(解説より)ながらも、もはやスリリングと言えるのではないでしょうか。思わず手に汗を握るほどでした。

「クロックシャワー」 1973年/74年 ブロードウェイ346番地、マンハッタン(ニューヨーク州 ニューヨーク市)
時にユーモアを感じる点があるのも、マッタ=クラークの魅力であるのかもしれません。一例が「クロックシャワー」で、マッタ=クラークは、ニューヨーク市所有のビルの時計台でパフォーマンスを行いました。それは、時計台に登っては、歯を磨き、シェービングクリームでひげを剃り、泡に包まれて横になった後、水のシャワーを浴びるものでした。

「クロックシャワー」 1973年/74年 ブロードウェイ346番地、マンハッタン(ニューヨーク州 ニューヨーク市)
日常的な動作を、時計台の上で行う様は、何とも滑稽で、「ばかばかしさ」(解説より)とありましたが、笑ってしまうほどでした。

「ゴードン・マッタ=クラーク展」会場風景
1978年5月、マッタ=クラークは結婚するも、その年の8月に、僅か35歳の若さで亡くなってしまいます。膵臓がんだったそうです。

「オフィス・バロック」模型(縮尺1:8) 2018年
常に街へと繰り出し、切断し、またパフォーマンスをし続けたマッタ=クラークに、奇妙なまでの共感を覚えたのは私だけでしょうか。早く亡くなったのは残念ではありますが、マッタ=クラークの生きた、1970年代のニューヨークのダイナミズムが伝わるような展示と言えるかもしれません。「プレイグラウンド(公園)」をコンセプトとした会場構成も効果的でした。

「フード」の記録 1972年
マッタ=クラークが運営に参加した、レストラン「フード」に関する資料もありました。料理の消化のプロセスから、都市のコミュニティにも関心があったそうです。

「ゴードン・マッタ=クラーク展」会場風景
会場内の撮影も出来ました。
9月17日まで開催されています。おすすめします。
「ゴードン・マッタ=クラーク展」 東京国立近代美術館(@MOMAT60th)
会期:6月19日(火)~9月17日(月・祝)
休館:月曜日。
*但し7/16、9/17は開館。7/17(火)は休館。
時間:10:00~17:00
*毎週金曜・土曜日は21時まで開館。
*入館は閉館30分前まで
料金:一般1200(900)円、大学生800(500)円、高校生以下無料。
*( )内は20名以上の団体料金。
*リピーター割引:使用済み入場券を持参すると、2回目以降は特別料金(一般500円、大学生250円)で入場可。
*本展の観覧料で当日に限り、「MOMATコレクション」も観覧可。
場所:千代田区北の丸公園3-1
交通:東京メトロ東西線竹橋駅1b出口徒歩3分。
「ゴードン・マッタ=クラーク展」
6/19~9/17

東京国立近代美術館で開催中の「ゴードン・マッタ=クラーク展」を見てきました。
1970年代にニューヨークを中心に活動したゴードン・マッタ=クラークは、取り壊し前の建物を切断する「ビルディング・カット」などで活動し、没後40年の今もなお、人気を集めています。
意外にもアジア初の大規模な回顧展です。写真、資料、映像など、約200点にて、ゴードン・マッタ=クラークの制作を紹介していました。

「サーカスまたはカリビアン・オレンジ」 1978年 イースト・オンタリオ通り235番地(イリノイ州シカゴ)
ともかく切断に次ぐ切断でした。「サーカスまたはカリビアン・オレンジ」は、結果的にマッタ=クラークが最後に手がけたビルディング・カットで、シカゴ現代美術館が、隣接する住宅を別館に改修する際、作家にプロジェクトを依頼しました。

「無題(ベラス・アルテスの切断)」 1971年 チリ国立美術館
「無題(ベラス・アルテスの切断)」は、チリの国立美術館を舞台にしていて、マッタ=クラークは、屋根に穴あけ、空間を切り開いては、光を取り込む試みをしました。マッタ=クラークの切断した建物は、ほぼ全て失われましたが、殆ど唯一の現存する作品とも言われています。
そもそも1970年代のニューヨークは、戦後の開発により、古いコミュニティが失われ、不況下の元、市の財政破綻とともに、特に貧困層の住環境が悪化していました。そうした中、マッタ=クラークは、時に無断で打ち棄てられた建物の中に入っては、家屋の床や壁を切るビルディング・カットをはじめました。何でも廃屋となった倉庫に侵入し、壁面に大きな穴を開けた「日の終わり」の制作の際は、ニューヨーク市から逮捕状が出たそうです。

「ブロンクス・フロアーズ」 1972〜1973年 マンハッタン、ブルックリン、ブロンクス(ニューヨーク州 ニューヨーク市)
「ブロンクス・フロアーズ」も、マッタ=クラークが友人らとともに空き家へ侵入して制作しました。床や壁の一部を四角く切り抜くことで、階下が奈落として現れる一方、天井は貫かれ、「1つの空間からもう1つの空間へと視界が生み出され」(解説より)ました。

「スプリッティング:四つの角」 1974年 サンフランシスコ近代美術館
ビルディング・カットで最大級の立体作品、「スプリッティング:四つの角」が、初めて日本へやって来ました。やはり「ブロンクス・フロワーズ」と同様、空き家を切断していて、建物に約2.5センチ間隔で2本の線を引き、電動のこぎりで線を貫いては、隙間の素材を取っ払いました。

「スプリッティング」 1974年 東京国立近代美術館
さらに土台のブロックを除き、ジャッキで支え、また後ろ側を下へ降ろすなど、単に切断といえども、かなり複雑なプロセスを行なっていました。破壊とは異なり、切断は、建物や空間を再構築する取り組みでもあります。空き家などの打ち捨てられた建物を、切断によって、また異なった空間へと転化させていると言えるかもしれません。
マッタ=クラークは、時に人々や物が行き交う、ストリートを舞台として活動しました。都市空間に潜む「隙間や余剰」(解説より)に着目し、作品を制作しました。

「ごみの壁」 1970年/2018年
その1つが「ごみの壁」で、まさに街で集めて来たゴミを、木製の型枠にはめ込んでは、石膏などで固めた作品でした。実際には、パフォーマンスの舞台として使用され、最後は取り壊し、ゴミのコンテナへと捨てられました。

「ごみの壁」 1970年/2018年
それを東京で再制作した作品が、美術館の前庭に展示されていました。テレビや携帯電話、時計にパソコン、さらにタイヤやゲーム機などが、セメントなどで固められていました。早稲田大学建築学科の学生と共同で制作されたそうです。

「フレッシュキル」 撮影:1971年/編集:1972年 ステタン島フレッシュキルズごみ埋立地(ニューヨーク州 ニューヨーク市)
一方で、本来的に機能を持っていたものを、ゴミへと変えたのが、「フレッシュキル」でした。マンハッタンの南、ステタン島にあった、ごみ埋立地を舞台としていて、マッタ=クラークの運転する小型トラックが、ブルドーザーに衝突し、さらに今度はブルドーザーによってスクラップとされ、埋め立てられるという作品でした。

「フレッシュキル」 撮影:1971年/編集:1972年 ステタン島フレッシュキルズごみ埋立地(ニューヨーク州 ニューヨーク市)
これが驚くほど迫力のある映像でした。車がぶつかり、ブルドーザーによって、じわじわと、それでいて木っ端微塵にスクラップにされる光景は、確かに「暴力的」(解説より)ながらも、もはやスリリングと言えるのではないでしょうか。思わず手に汗を握るほどでした。

「クロックシャワー」 1973年/74年 ブロードウェイ346番地、マンハッタン(ニューヨーク州 ニューヨーク市)
時にユーモアを感じる点があるのも、マッタ=クラークの魅力であるのかもしれません。一例が「クロックシャワー」で、マッタ=クラークは、ニューヨーク市所有のビルの時計台でパフォーマンスを行いました。それは、時計台に登っては、歯を磨き、シェービングクリームでひげを剃り、泡に包まれて横になった後、水のシャワーを浴びるものでした。

「クロックシャワー」 1973年/74年 ブロードウェイ346番地、マンハッタン(ニューヨーク州 ニューヨーク市)
日常的な動作を、時計台の上で行う様は、何とも滑稽で、「ばかばかしさ」(解説より)とありましたが、笑ってしまうほどでした。

「ゴードン・マッタ=クラーク展」会場風景
1978年5月、マッタ=クラークは結婚するも、その年の8月に、僅か35歳の若さで亡くなってしまいます。膵臓がんだったそうです。

「オフィス・バロック」模型(縮尺1:8) 2018年
常に街へと繰り出し、切断し、またパフォーマンスをし続けたマッタ=クラークに、奇妙なまでの共感を覚えたのは私だけでしょうか。早く亡くなったのは残念ではありますが、マッタ=クラークの生きた、1970年代のニューヨークのダイナミズムが伝わるような展示と言えるかもしれません。「プレイグラウンド(公園)」をコンセプトとした会場構成も効果的でした。

「フード」の記録 1972年
マッタ=クラークが運営に参加した、レストラン「フード」に関する資料もありました。料理の消化のプロセスから、都市のコミュニティにも関心があったそうです。

「ゴードン・マッタ=クラーク展」会場風景
会場内の撮影も出来ました。
【美術館】Webマガジン「artscape」にて建築史家の五十嵐太郎さんによるレビューが掲載中、全文読めます→ https://t.co/Bw0T6xpi66 #GMC展 #GordonMattaClark
— 【公式】東京国立近代美術館 広報 (@MOMAT60th) 2018年8月13日
9月17日まで開催されています。おすすめします。
「ゴードン・マッタ=クラーク展」 東京国立近代美術館(@MOMAT60th)
会期:6月19日(火)~9月17日(月・祝)
休館:月曜日。
*但し7/16、9/17は開館。7/17(火)は休館。
時間:10:00~17:00
*毎週金曜・土曜日は21時まで開館。
*入館は閉館30分前まで
料金:一般1200(900)円、大学生800(500)円、高校生以下無料。
*( )内は20名以上の団体料金。
*リピーター割引:使用済み入場券を持参すると、2回目以降は特別料金(一般500円、大学生250円)で入場可。
*本展の観覧料で当日に限り、「MOMATコレクション」も観覧可。
場所:千代田区北の丸公園3-1
交通:東京メトロ東西線竹橋駅1b出口徒歩3分。
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