都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「小瀬村真美:幻画~像(イメージ)の表皮」 原美術館
原美術館
「小瀬村真美:幻画~像(イメージ)の表皮」
6/16~9/2
原美術館で開催中の「小瀬村真美:幻画~像(イメージ)の表皮」を見てきました。
現代美術家の小瀬村真美は、かねてより17世紀の西洋の静物画などを援用した「静物動画」を制作し、時間や空間の構造、それに虚構性など、イメージに対しての様々な考察を続けてきました。
その小瀬村による美術館の初個展です。写真、映像、インスタレーションを問わず、新旧作をあわせて、約30点を出展されていました。
一つの大きな物語を紡ぐかのように展開しているのも、展覧会の大きな特徴と言えるかもしれません。はじまりは「はじまりとおわりの部屋」で、展示作品の「きっかけや残骸」(解説より)が置かれていました。
それらは一見、個々に何ら関わりあうようで、またそうでもないようにも見えるかもしれません。そもそも意味は明らかにされておらず、一周して展示を見終えた際、改めて「点が結ばれる」(解説より)としていました。
続くのが、小瀬村を代表する作品というべき、西洋絵画をモチーフとしたシリーズでした。それらは確かに映像でありながら、絵画とも写真とも似つかぬもので、静止していると思いきや、突如、動き出す場合がありました。
小瀬村は、数ヶ月間で撮影した、数千枚の写真を加工し、時にはデジタルでドローイングを施した上、いわばコマ撮りののようにしてアニメーションに仕上げています。また静物画と同様の構図を、果物や器で再現し、撮影しては、映像に繋ぎ合わせています。それらは実に精巧であるため、今、目にしているのが、そもそも絵画なのか、事物であるのか、分からなくなるほどでした。
17世紀ネーデルラントの画家、コルネリス・デ・ヘームを引用した「餐」では、作品とともに、撮影で用いられたセットも公開されていました。いわば作品の制作プロセスを明らかにする試みで、当然ながらオブジェクトは朽ち果てていました。
「氏の肖像」は、15世紀に描かれた絵画の顔と、実在のモデルの横顔を掛け合わせた作品で、いずれも顔の輪郭を、元の絵の人物に沿うように変形させていました。その様子は、どこか無表情でありながらも、時折、瞬きするなどしていて、さも絵画の人物が世に蘇ったかのようでした。
一転して、海外での滞在経験を作品に表現したのが、「ニューヨークの部屋」でした。ここでは、カメラを振り子に見立て、チェルシーのタウンハウスの一室を映像に仕上げていて、まるで現実の空間が歪み、異次元へと入ったような錯覚にとらわれました。
ラストは「黒い静物画の部屋」でした。中核をなすのは「Drop Off」と題した映像インスタレーションで、広い食卓の上には、楽器、果物、器、グラス、燭台などが置かれていました。必ずしも特定の絵画こそないものの、まさに静物画を思わせる静謐な世界が広がっていました。
しばらく眺めていると、激しいアクションが加わりました。と言うのも、上から突然、皿などの器物が落下し、食卓の上で破損し、さらに他の全てのものもずれ落ちては、下へと崩れていくからでした。ただし動きは非常に遅く、それこそスローモーションを目にしているかのようでした。
結論からすれば、4秒のアクションを、12分まで引き伸ばしたもので、時間と空間を歪ませた、動く静物画というわけでした。しかしながら、そのスピードのゆえか、崩壊のプロセスは、もはや神々しいほどに美しく見えました。全ては、あくまでも、はかなく崩れていきました。
原美術館の内部空間との相性も抜群でした。これほど同館の建物を、作品世界へ引き付けた展示も少ないのではないでしょうか。まるで作品は古くから館内を飾っていたかのようでした。
会期末を迎えました。9月2日まで開催されています。ご紹介が大変に遅くなりましたが、おすすめします。
「小瀬村真美:幻画~像(イメージ)の表皮」 原美術館(@haramuseum)
会期:6月16日(土)~9月2日(日)
休館:会期中無休。
時間:11:00~17:00。
*水曜は20時まで。入館は閉館の30分前まで
料金: 一般1100円、大高生700円、小中生500円
*原美術館メンバーは無料、学期中の土曜日は小中高生の入館無料。
*20名以上の団体は1人100円引。
住所:品川区北品川4-7-25
交通:JR線品川駅高輪口より徒歩15分。都営バス反96系統御殿山下車徒歩3分。
「小瀬村真美:幻画~像(イメージ)の表皮」
6/16~9/2
原美術館で開催中の「小瀬村真美:幻画~像(イメージ)の表皮」を見てきました。
現代美術家の小瀬村真美は、かねてより17世紀の西洋の静物画などを援用した「静物動画」を制作し、時間や空間の構造、それに虚構性など、イメージに対しての様々な考察を続けてきました。
その小瀬村による美術館の初個展です。写真、映像、インスタレーションを問わず、新旧作をあわせて、約30点を出展されていました。
一つの大きな物語を紡ぐかのように展開しているのも、展覧会の大きな特徴と言えるかもしれません。はじまりは「はじまりとおわりの部屋」で、展示作品の「きっかけや残骸」(解説より)が置かれていました。
それらは一見、個々に何ら関わりあうようで、またそうでもないようにも見えるかもしれません。そもそも意味は明らかにされておらず、一周して展示を見終えた際、改めて「点が結ばれる」(解説より)としていました。
続くのが、小瀬村を代表する作品というべき、西洋絵画をモチーフとしたシリーズでした。それらは確かに映像でありながら、絵画とも写真とも似つかぬもので、静止していると思いきや、突如、動き出す場合がありました。
小瀬村は、数ヶ月間で撮影した、数千枚の写真を加工し、時にはデジタルでドローイングを施した上、いわばコマ撮りののようにしてアニメーションに仕上げています。また静物画と同様の構図を、果物や器で再現し、撮影しては、映像に繋ぎ合わせています。それらは実に精巧であるため、今、目にしているのが、そもそも絵画なのか、事物であるのか、分からなくなるほどでした。
17世紀ネーデルラントの画家、コルネリス・デ・ヘームを引用した「餐」では、作品とともに、撮影で用いられたセットも公開されていました。いわば作品の制作プロセスを明らかにする試みで、当然ながらオブジェクトは朽ち果てていました。
「氏の肖像」は、15世紀に描かれた絵画の顔と、実在のモデルの横顔を掛け合わせた作品で、いずれも顔の輪郭を、元の絵の人物に沿うように変形させていました。その様子は、どこか無表情でありながらも、時折、瞬きするなどしていて、さも絵画の人物が世に蘇ったかのようでした。
一転して、海外での滞在経験を作品に表現したのが、「ニューヨークの部屋」でした。ここでは、カメラを振り子に見立て、チェルシーのタウンハウスの一室を映像に仕上げていて、まるで現実の空間が歪み、異次元へと入ったような錯覚にとらわれました。
ラストは「黒い静物画の部屋」でした。中核をなすのは「Drop Off」と題した映像インスタレーションで、広い食卓の上には、楽器、果物、器、グラス、燭台などが置かれていました。必ずしも特定の絵画こそないものの、まさに静物画を思わせる静謐な世界が広がっていました。
しばらく眺めていると、激しいアクションが加わりました。と言うのも、上から突然、皿などの器物が落下し、食卓の上で破損し、さらに他の全てのものもずれ落ちては、下へと崩れていくからでした。ただし動きは非常に遅く、それこそスローモーションを目にしているかのようでした。
結論からすれば、4秒のアクションを、12分まで引き伸ばしたもので、時間と空間を歪ませた、動く静物画というわけでした。しかしながら、そのスピードのゆえか、崩壊のプロセスは、もはや神々しいほどに美しく見えました。全ては、あくまでも、はかなく崩れていきました。
原美術館の内部空間との相性も抜群でした。これほど同館の建物を、作品世界へ引き付けた展示も少ないのではないでしょうか。まるで作品は古くから館内を飾っていたかのようでした。
「小瀬村真美:幻画~像(イメージ)の表皮」@ 原美術館へ。これは良いですね。美術館の空間を作品の世界に引き寄せている。はじまりとおわりの部屋も効果的で、ぐるりと一周、時間が止まるような感覚に引き込まれる。生と死もテーマ。黒い静物画の部屋がマイベストでした。9/2まで。撮影も可。 pic.twitter.com/pBYvcHHXtT
— はろるど (@harold_1234) 2018年8月14日
会期末を迎えました。9月2日まで開催されています。ご紹介が大変に遅くなりましたが、おすすめします。
「小瀬村真美:幻画~像(イメージ)の表皮」 原美術館(@haramuseum)
会期:6月16日(土)~9月2日(日)
休館:会期中無休。
時間:11:00~17:00。
*水曜は20時まで。入館は閉館の30分前まで
料金: 一般1100円、大高生700円、小中生500円
*原美術館メンバーは無料、学期中の土曜日は小中高生の入館無料。
*20名以上の団体は1人100円引。
住所:品川区北品川4-7-25
交通:JR線品川駅高輪口より徒歩15分。都営バス反96系統御殿山下車徒歩3分。
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )