都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「藝大コレクション展 2019」 東京藝術大学大学美術館
東京藝術大学大学美術館
「藝大コレクション展 2019」
2019/4/6〜5/6(第1期)、5/14〜6/16(第2期)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/60/26/334ef4321b4d48bfaff918be5ec50b79.jpg)
東京藝術大学大学美術館で開催中の「藝大コレクション展 2019」を見てきました。
東京藝術大学は、前身の東京美術学校以来の学生や卒業生の作品など、数多くの美術資料を、約3万件ほど収蔵してきました。
その一部を公開するのが「藝大コレクション展」で、いわゆる世に知られた名作のみならず、これまでに展示される機会の少なかった作品も紹介していました。
中でも目玉と言えるのが、文人画家の池大雅が、1年間の富士の景観を表した「富士十二景図」の全点展示でした。40歳の頃、妻の玉瀾のために描いたとされていて、全12幅のうち7幅を藝大、そして4幅を兵庫の滴翠美術館が所蔵していたものの、残りの1幅が長らく所在不明となっていました。しかし昨年、最後の1幅が発見されたため、今回、全12幅が揃って展示されました。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/3f/20/34261f470576b9a05bb610ad34a12ffa.jpg)
池大雅「富士十二景図 九月 緑陰雑紅」 江戸時代(18世紀)
再発見されたのは、「九月 緑陰雑紅」で、空に高くそびえる富士山を背に、山と松と紅葉の樹木、及び鳥居のある岬、または鬱蒼と生い茂る木立を細かなタッチで示していました。
「富士十二景図」で興味深いのは、各幅によって、水墨や南画、あるいは西洋の印象派を連想させる画風など、作品のトーンが異なっていることでした。全体の統一感よりも、個々に際立ったタッチを比べることで、大雅の多様な芸風を知ることが出来るかもしれません。
なお「九月 緑陰雑紅」は修復により滲みが除去され、画面も明らかでしたが、残りの11幅は、雨垂れのような滲みがほぼ全面を覆っていました。その原因は、現在、詳しく分かっていませんが、表装の上下は汚れていないことから、表装以前の屏風装の段階で付いたと考えられているそうです。なかなか修復には労力がかかると思われますが、ほかの11幅もいつしか色を取り戻せればと願ってなりませんでした。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/16/51/4173c8b7c4f76e18a857755389b177e4.jpg)
牧野義雄「テームス河畔」 制作年不詳
さて池大雅の連作と並び、もう1つ注目していたのが、主に明治から大正にかけてイギリスに学んだ画家の作品でした。うち魅惑的なのが、牧野義雄の「テームス河畔」で、日没後、淡い青に染まったテムズの川辺にてくつろぐ人々の姿を描いていました。遠景をにじませる「シルクベール技法」を用いていましたが、霧のかかったロンドンの夜の冷ややかな空気感を見事に表していました。
南薫造の「夜景」も幻想的な一枚で、遠くにドックの並ぶ水辺の景色を、淡いグレーの色彩で包み込むように描いていました。ホイッスラーのノクターンとの関連も指摘されていましたが、実際に画家は学生時代にホイッスラー画に学び、イギリスに出向くと、旧邸を訪ねたそうです。
有名な画家に知られざる作品があるのも見逃せません。その一つが高橋由一の「上海日誌」で、同地を訪ねた由一が、上海の街や人々の姿を事細かにスケッチした絵日記でした。また赤い煙突のあるコテージ風の建物を描いた、富本憲吉の「音楽家住宅設計図案」も面白いのではないでしょうか。今でこそ陶芸家として名高い富本ですが、東京美術学校では建築や室内装飾を専攻していて、ロンドンではアーツ・アンド・クラフツの作品とも接していました。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/0d/44/83b2022b5113915557275af3196ed4a7.png)
高橋由一「鮭」 1877年頃 重要文化財
もちろん奈良時代の国宝「絵因果経」や、ともに重要文化財である高橋由一「鮭」や狩野芳崖の「悲母観音」など、お馴染みの名品も出展されています。地下の一室での展示でしたが、思いがけないほど見応えがありました。
最後に会期の情報です。「藝大コレクション展」は2期制です。途中の休館期間を挟み、大幅な展示替えがあります。
「藝大コレクション展 2019」 東京藝術大学大学美術館
第1期:2019年4月6日(土)〜5月6日(月・休)
第2期:2019年5月14日(火)〜6月16日(日)
池大雅の「富士十二景図」の全点展示は第1期のみの公開です。観覧の際はご注意ください。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/52/92/9f98560d334c090e3385494144b552dc.jpg)
美術館に隣接する陳列館では、自由出品の現代美術展、「東京インディペンデント」も開催中です。(5月5日の午後2時閉館)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/55/c0/6289ca87c81602c33c76a1ba147567f5.jpg)
「東京インディペンデント」会場風景
1階と2階に所狭しと作品が並べられていて、半ばカオスと化していましたが、いわゆる有名な現代美術家のみならず、思わぬ作品に足を止められることも少なくありません。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/28/db/00c9497f6fbe4bbd5fca167dd354b25c.jpg)
「東京インディペンデント」会場風景
「東京インディペンデント」は間もなく会期終了となりますが、「藝大コレクション展」と合わせて見るのも面白いのではないでしょうか。
なお「藝大コレクション展」の第2期では、明治時代に世界へ工芸品の図案を送り出した「起立工商会社」や、松岡映丘や小村雪岱などの東京美術学校の日本画家の風景画が紹介されるそうです。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/03/88/6ec74892e52c52cb17c12575ca3b5d3f.jpg)
6月16日まで開催されています。
「藝大コレクション展 2019」 東京藝術大学大学美術館
会期:第1期、2019年4月6日(土)〜5月6日(月・休)第2期、5月14日(火)〜6月16日(日)
休館:月曜日。但し4月29日、5月6日は開館。及び展示替え期間。
時間:10:00~17:00 *入館は16時半まで。
料金:一般430(320)円、大学生110(60)円、高校生以下無料。
*( )内は20名以上の団体料金。
住所:台東区上野公園12-8
交通:JR線上野駅公園口より徒歩10分。東京メトロ千代田線根津駅より徒歩10分。京成上野駅、東京メトロ日比谷線・銀座線上野駅より徒歩15分。
「藝大コレクション展 2019」
2019/4/6〜5/6(第1期)、5/14〜6/16(第2期)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/60/26/334ef4321b4d48bfaff918be5ec50b79.jpg)
東京藝術大学大学美術館で開催中の「藝大コレクション展 2019」を見てきました。
東京藝術大学は、前身の東京美術学校以来の学生や卒業生の作品など、数多くの美術資料を、約3万件ほど収蔵してきました。
その一部を公開するのが「藝大コレクション展」で、いわゆる世に知られた名作のみならず、これまでに展示される機会の少なかった作品も紹介していました。
中でも目玉と言えるのが、文人画家の池大雅が、1年間の富士の景観を表した「富士十二景図」の全点展示でした。40歳の頃、妻の玉瀾のために描いたとされていて、全12幅のうち7幅を藝大、そして4幅を兵庫の滴翠美術館が所蔵していたものの、残りの1幅が長らく所在不明となっていました。しかし昨年、最後の1幅が発見されたため、今回、全12幅が揃って展示されました。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/3f/20/34261f470576b9a05bb610ad34a12ffa.jpg)
池大雅「富士十二景図 九月 緑陰雑紅」 江戸時代(18世紀)
再発見されたのは、「九月 緑陰雑紅」で、空に高くそびえる富士山を背に、山と松と紅葉の樹木、及び鳥居のある岬、または鬱蒼と生い茂る木立を細かなタッチで示していました。
「富士十二景図」で興味深いのは、各幅によって、水墨や南画、あるいは西洋の印象派を連想させる画風など、作品のトーンが異なっていることでした。全体の統一感よりも、個々に際立ったタッチを比べることで、大雅の多様な芸風を知ることが出来るかもしれません。
なお「九月 緑陰雑紅」は修復により滲みが除去され、画面も明らかでしたが、残りの11幅は、雨垂れのような滲みがほぼ全面を覆っていました。その原因は、現在、詳しく分かっていませんが、表装の上下は汚れていないことから、表装以前の屏風装の段階で付いたと考えられているそうです。なかなか修復には労力がかかると思われますが、ほかの11幅もいつしか色を取り戻せればと願ってなりませんでした。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/16/51/4173c8b7c4f76e18a857755389b177e4.jpg)
牧野義雄「テームス河畔」 制作年不詳
さて池大雅の連作と並び、もう1つ注目していたのが、主に明治から大正にかけてイギリスに学んだ画家の作品でした。うち魅惑的なのが、牧野義雄の「テームス河畔」で、日没後、淡い青に染まったテムズの川辺にてくつろぐ人々の姿を描いていました。遠景をにじませる「シルクベール技法」を用いていましたが、霧のかかったロンドンの夜の冷ややかな空気感を見事に表していました。
南薫造の「夜景」も幻想的な一枚で、遠くにドックの並ぶ水辺の景色を、淡いグレーの色彩で包み込むように描いていました。ホイッスラーのノクターンとの関連も指摘されていましたが、実際に画家は学生時代にホイッスラー画に学び、イギリスに出向くと、旧邸を訪ねたそうです。
有名な画家に知られざる作品があるのも見逃せません。その一つが高橋由一の「上海日誌」で、同地を訪ねた由一が、上海の街や人々の姿を事細かにスケッチした絵日記でした。また赤い煙突のあるコテージ風の建物を描いた、富本憲吉の「音楽家住宅設計図案」も面白いのではないでしょうか。今でこそ陶芸家として名高い富本ですが、東京美術学校では建築や室内装飾を専攻していて、ロンドンではアーツ・アンド・クラフツの作品とも接していました。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/0d/44/83b2022b5113915557275af3196ed4a7.png)
高橋由一「鮭」 1877年頃 重要文化財
もちろん奈良時代の国宝「絵因果経」や、ともに重要文化財である高橋由一「鮭」や狩野芳崖の「悲母観音」など、お馴染みの名品も出展されています。地下の一室での展示でしたが、思いがけないほど見応えがありました。
最後に会期の情報です。「藝大コレクション展」は2期制です。途中の休館期間を挟み、大幅な展示替えがあります。
「藝大コレクション展 2019」 東京藝術大学大学美術館
第1期:2019年4月6日(土)〜5月6日(月・休)
第2期:2019年5月14日(火)〜6月16日(日)
池大雅の「富士十二景図」の全点展示は第1期のみの公開です。観覧の際はご注意ください。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/52/92/9f98560d334c090e3385494144b552dc.jpg)
美術館に隣接する陳列館では、自由出品の現代美術展、「東京インディペンデント」も開催中です。(5月5日の午後2時閉館)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/55/c0/6289ca87c81602c33c76a1ba147567f5.jpg)
「東京インディペンデント」会場風景
1階と2階に所狭しと作品が並べられていて、半ばカオスと化していましたが、いわゆる有名な現代美術家のみならず、思わぬ作品に足を止められることも少なくありません。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/28/db/00c9497f6fbe4bbd5fca167dd354b25c.jpg)
「東京インディペンデント」会場風景
「東京インディペンデント」は間もなく会期終了となりますが、「藝大コレクション展」と合わせて見るのも面白いのではないでしょうか。
なお「藝大コレクション展」の第2期では、明治時代に世界へ工芸品の図案を送り出した「起立工商会社」や、松岡映丘や小村雪岱などの東京美術学校の日本画家の風景画が紹介されるそうです。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/03/88/6ec74892e52c52cb17c12575ca3b5d3f.jpg)
6月16日まで開催されています。
「藝大コレクション展 2019」 東京藝術大学大学美術館
会期:第1期、2019年4月6日(土)〜5月6日(月・休)第2期、5月14日(火)〜6月16日(日)
休館:月曜日。但し4月29日、5月6日は開館。及び展示替え期間。
時間:10:00~17:00 *入館は16時半まで。
料金:一般430(320)円、大学生110(60)円、高校生以下無料。
*( )内は20名以上の団体料金。
住所:台東区上野公園12-8
交通:JR線上野駅公園口より徒歩10分。東京メトロ千代田線根津駅より徒歩10分。京成上野駅、東京メトロ日比谷線・銀座線上野駅より徒歩15分。
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