都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「MOTコレクション ただいま / はじめまして」 東京都現代美術館
東京都現代美術館
「リニューアル・オープン展 コレクション展 MOTコレクション ただいま / はじめまして」
2019/3/29~6/16
東京都現代美術館で開催中のコレクション展 MOTコレクション ただいま / はじめまして」を見てきました。
約3年間の改修休館中、東京都現代美術館には、約400点の作品が新たに収蔵されました。
その新収蔵品を中心に、主に2010年代に制作された作品で構成されたのが、「MOTコレクション ただいま / はじめまして」で、約20の作家の作品が個展形式で紹介されていました。
アルナルド・ポモドーロ「太陽のジャイロスコープ」 1988年
かつてエントランスの外に設置されていた彫刻が、展示室の中に姿を現しました。それがアルナルド・ポモドーロの「太陽のジャイロスコープ」で、2つに分割された円盤をリングが取り囲む、直径4メートルにも及ぶ大きな作品でした。中世の天球儀に着想を得たもので、美術館の改修工事に際し、修復が施されたそうです。
ヂョン・ヨンドゥ「古典と現代」 2018年
ヂョン・ヨンドゥは、近隣の清澄白河に住む人々の交流を踏まえ、「古典と新作」を制作しました。全3面の大型スクリーンからなる映像で、語り部の役割を果たす落語家を中心に、人々が思い出を語りつつ、現在の風景などが映されていました。地域を核に、様々な世代の記憶が交錯した、一つの物語が紡がれていたと言えるかもしれません。
棚田康司「雨の像」 2016年
人体の木彫で知られる棚田康司も充実していました。中でも目立つ「雨の像」は、初めて棚田が一木造りで制作した成人の女性像で、インドネシアのバンドゥンでの滞在の経験を元に、同地の女性をモデルとしました。
さかぎしよしおう「14009」 2014年
かねてより石膏を帯状に重ねて作品を作るさかぎしよしおうは、2000年代から磁土、すなわち磁器の原料となる土の用いて、粒状に重ねて焼くオブジェを生み出しました。小さな粒が密に重なる様子は大変に繊細で、どことない脆さがあるとともに、不思議な緊張感も漂っていました。
末永史尚「折り紙モール」 2014年
企画展の「百年の編み手たち」にも出展した末永史尚の作品にも心を惹かれました。「折り紙モール」は、折り紙を切り、輪っかに繋げる飾りの形自体を、半ば色面のパターンに置き換えていて、素材は合板を用いていました。いわば写実としてのモールではなく、現実のイメージとのずれが、頭の中で補正されていく感覚も面白いかもしれません。
「MOTコレクション ただいま / はじめまして」会場風景
南川史門、荻野遼介、五月女哲平、今井俊介らの絵画が一堂に会した展示室も良かったのではないでしょうか。いずれも平面の作家で、表現の在り方は異なるものの、どこか互いに響く、あるいは引き合うように見えるのも興味深いところかもしれません。
今井俊介「untitled」 2017年
とりわけ鮮やかな色彩を伴った今井俊介の絵画に目がとまりました。ストライプやうねりが重なっては、大胆なコントラストを描いていて、平坦な画面に旗が靡くかのような動きも感じられました。
高田安規子・政子「ジョーカー」 2011年
出展中、最も細密な作品かもしれません。双子姉妹のアーティスト・ユニット、高田安規子・政子は、トランプに手刺繍を施し、精緻な模様が織られたペルシャ絨毯へと変貌させました。ともかくトランプの表面に実に細やかに糸が編み込まれていて、よく目を凝らさなければそもそも刺繍であることも分からないほどでした。
ソピアップ・ピッチ「苔の筋」 2017年
カンボジアのソピアップ・ピッチは、竹や藤を素材に、まるでカゴのような立体の作品を制作しました。そのうち「苔の筋」では、表面に樹脂や蜜蝋、さらに顔料などが塗り込まれていて、支持体の竹との間で複雑なテクスチャーを生み出していました。
文谷有佳里「なにもない風景を眺める 2014.4-b AICHI」 2014年
文谷有佳里のドローイングも見逃せません。いずれの作品にも素早く、まるでそれ自体が意思をもって自律するような線が描かれていて、イメージは抽象的ながらも、何らかの一大スペクタクルを前にしたような迫力すら感じられました。
文谷有佳里「なにもない風景を眺める 2016.12.10」 2016年
作家の文谷は、大学で音楽を学び、現代音楽のパフォーマンスを行うなど、身体と音楽に関わってきたそうです。直線に曲線が絡み、互いに反応し合いつつ、また反目するように跳ねる線そのものの魅力に感じ入りました。
いわば「はじめまして」の作品が少なくない中、ラストに「ただいま」と呼びうる作品が待ち構えていました。それが宮島達男の「それは変化し続ける それはあらゆるものと関係を結ぶ それは永遠に続く」でした。
宮島達男「それは変化し続ける それはあらゆるものと関係を結ぶ それは永遠に続く」 1998年
1998年、美術館の展示室に合わせて制作された作品で、1728個にも及ぶ赤色のデジタル・カウンターが、それぞれ異なったスピードで1から9の数字を表示していました。設置以来、約20年近くに渡って、この展示室に置かれていて、もはや現代美術館を代表するコレクションの1つとして捉えて差し支えありません。
長らく永遠の時を刻んでいたデジタル・カウンターも、実のところは経年劣化により、個々のLEDの明るさに個体差が生じるようになったそうです。よって改修による休館中に点検と修理が行われ、再び均一な赤い瞬きを取り戻しました。
宮島達男「それは変化し続ける それはあらゆるものと関係を結ぶ それは永遠に続く」 1998年
この作品を前にすると、かつて現代美術館での様々な思い出がいくつも蘇りました。ひたすらに数字を刻み、明滅を繰り返すカウンターは、これからも多くの来館者に強い印象を与えていくのかもしれません。
サレ・フセイン「アラブ党」 2013年
改修工事前に何度も通った「MOTコレクション展」ですが、今回は新収蔵品を中心とした内容だけに、かなりの新鮮味が感じられました。ここ十年来における、日本の作家を中心とした、アートシーンの一側面を辿るような展示と言えるかもしれません。
一部の作品を除き、撮影も可能です。企画展「百年の編み手たち」とともに、お見逃しなきようおすすめします。
*関連エントリ
「百年の編み手たち-流動する日本の近現代美術」 東京都現代美術館(はろるど)
6月16日まで開催されています。
「リニューアル・オープン展 コレクション展 MOTコレクション ただいま / はじめまして」 東京都現代美術館(@MOT_art_museum)
会期:2019年3月29日(金)~6月16日(日)
休館:月曜日。但し4月29日、5月6日は開館。5月7日(火)は休館。
時間:10:00~18:00
*毎週金曜・土曜は20時まで。
*入館は閉館の30分前まで。
料金:一般500(400)円、大学・専門学校生400(320)円、高校生・65歳以上250(200)円、中学生以下無料。
*( )内は20名以上の団体料金。
*企画展 百年の編み手たちとのセット券あり。
住所:江東区三好4-1-1
交通:東京メトロ半蔵門線清澄白河駅B2出口より徒歩9分。都営地下鉄大江戸線清澄白河駅A3出口より徒歩13分。
「リニューアル・オープン展 コレクション展 MOTコレクション ただいま / はじめまして」
2019/3/29~6/16
東京都現代美術館で開催中のコレクション展 MOTコレクション ただいま / はじめまして」を見てきました。
約3年間の改修休館中、東京都現代美術館には、約400点の作品が新たに収蔵されました。
その新収蔵品を中心に、主に2010年代に制作された作品で構成されたのが、「MOTコレクション ただいま / はじめまして」で、約20の作家の作品が個展形式で紹介されていました。
アルナルド・ポモドーロ「太陽のジャイロスコープ」 1988年
かつてエントランスの外に設置されていた彫刻が、展示室の中に姿を現しました。それがアルナルド・ポモドーロの「太陽のジャイロスコープ」で、2つに分割された円盤をリングが取り囲む、直径4メートルにも及ぶ大きな作品でした。中世の天球儀に着想を得たもので、美術館の改修工事に際し、修復が施されたそうです。
ヂョン・ヨンドゥ「古典と現代」 2018年
ヂョン・ヨンドゥは、近隣の清澄白河に住む人々の交流を踏まえ、「古典と新作」を制作しました。全3面の大型スクリーンからなる映像で、語り部の役割を果たす落語家を中心に、人々が思い出を語りつつ、現在の風景などが映されていました。地域を核に、様々な世代の記憶が交錯した、一つの物語が紡がれていたと言えるかもしれません。
棚田康司「雨の像」 2016年
人体の木彫で知られる棚田康司も充実していました。中でも目立つ「雨の像」は、初めて棚田が一木造りで制作した成人の女性像で、インドネシアのバンドゥンでの滞在の経験を元に、同地の女性をモデルとしました。
さかぎしよしおう「14009」 2014年
かねてより石膏を帯状に重ねて作品を作るさかぎしよしおうは、2000年代から磁土、すなわち磁器の原料となる土の用いて、粒状に重ねて焼くオブジェを生み出しました。小さな粒が密に重なる様子は大変に繊細で、どことない脆さがあるとともに、不思議な緊張感も漂っていました。
末永史尚「折り紙モール」 2014年
企画展の「百年の編み手たち」にも出展した末永史尚の作品にも心を惹かれました。「折り紙モール」は、折り紙を切り、輪っかに繋げる飾りの形自体を、半ば色面のパターンに置き換えていて、素材は合板を用いていました。いわば写実としてのモールではなく、現実のイメージとのずれが、頭の中で補正されていく感覚も面白いかもしれません。
「MOTコレクション ただいま / はじめまして」会場風景
南川史門、荻野遼介、五月女哲平、今井俊介らの絵画が一堂に会した展示室も良かったのではないでしょうか。いずれも平面の作家で、表現の在り方は異なるものの、どこか互いに響く、あるいは引き合うように見えるのも興味深いところかもしれません。
今井俊介「untitled」 2017年
とりわけ鮮やかな色彩を伴った今井俊介の絵画に目がとまりました。ストライプやうねりが重なっては、大胆なコントラストを描いていて、平坦な画面に旗が靡くかのような動きも感じられました。
高田安規子・政子「ジョーカー」 2011年
出展中、最も細密な作品かもしれません。双子姉妹のアーティスト・ユニット、高田安規子・政子は、トランプに手刺繍を施し、精緻な模様が織られたペルシャ絨毯へと変貌させました。ともかくトランプの表面に実に細やかに糸が編み込まれていて、よく目を凝らさなければそもそも刺繍であることも分からないほどでした。
ソピアップ・ピッチ「苔の筋」 2017年
カンボジアのソピアップ・ピッチは、竹や藤を素材に、まるでカゴのような立体の作品を制作しました。そのうち「苔の筋」では、表面に樹脂や蜜蝋、さらに顔料などが塗り込まれていて、支持体の竹との間で複雑なテクスチャーを生み出していました。
文谷有佳里「なにもない風景を眺める 2014.4-b AICHI」 2014年
文谷有佳里のドローイングも見逃せません。いずれの作品にも素早く、まるでそれ自体が意思をもって自律するような線が描かれていて、イメージは抽象的ながらも、何らかの一大スペクタクルを前にしたような迫力すら感じられました。
文谷有佳里「なにもない風景を眺める 2016.12.10」 2016年
作家の文谷は、大学で音楽を学び、現代音楽のパフォーマンスを行うなど、身体と音楽に関わってきたそうです。直線に曲線が絡み、互いに反応し合いつつ、また反目するように跳ねる線そのものの魅力に感じ入りました。
いわば「はじめまして」の作品が少なくない中、ラストに「ただいま」と呼びうる作品が待ち構えていました。それが宮島達男の「それは変化し続ける それはあらゆるものと関係を結ぶ それは永遠に続く」でした。
宮島達男「それは変化し続ける それはあらゆるものと関係を結ぶ それは永遠に続く」 1998年
1998年、美術館の展示室に合わせて制作された作品で、1728個にも及ぶ赤色のデジタル・カウンターが、それぞれ異なったスピードで1から9の数字を表示していました。設置以来、約20年近くに渡って、この展示室に置かれていて、もはや現代美術館を代表するコレクションの1つとして捉えて差し支えありません。
長らく永遠の時を刻んでいたデジタル・カウンターも、実のところは経年劣化により、個々のLEDの明るさに個体差が生じるようになったそうです。よって改修による休館中に点検と修理が行われ、再び均一な赤い瞬きを取り戻しました。
宮島達男「それは変化し続ける それはあらゆるものと関係を結ぶ それは永遠に続く」 1998年
この作品を前にすると、かつて現代美術館での様々な思い出がいくつも蘇りました。ひたすらに数字を刻み、明滅を繰り返すカウンターは、これからも多くの来館者に強い印象を与えていくのかもしれません。
サレ・フセイン「アラブ党」 2013年
改修工事前に何度も通った「MOTコレクション展」ですが、今回は新収蔵品を中心とした内容だけに、かなりの新鮮味が感じられました。ここ十年来における、日本の作家を中心とした、アートシーンの一側面を辿るような展示と言えるかもしれません。
MOTコレクション「ただいま/はじめまして」では休館中に新たに収蔵された作品の中から、主に2010年代に制作された作品に焦点を当て、約20作家を数点ずつの個展形式で紹介しています。そのほか、新収蔵された屋外彫刻作品も公開されています。#東京都現代美術館 pic.twitter.com/NCjJgJJhdk
— 美術の窓 (@bimado) 2019年3月28日
一部の作品を除き、撮影も可能です。企画展「百年の編み手たち」とともに、お見逃しなきようおすすめします。
*関連エントリ
「百年の編み手たち-流動する日本の近現代美術」 東京都現代美術館(はろるど)
6月16日まで開催されています。
「リニューアル・オープン展 コレクション展 MOTコレクション ただいま / はじめまして」 東京都現代美術館(@MOT_art_museum)
会期:2019年3月29日(金)~6月16日(日)
休館:月曜日。但し4月29日、5月6日は開館。5月7日(火)は休館。
時間:10:00~18:00
*毎週金曜・土曜は20時まで。
*入館は閉館の30分前まで。
料金:一般500(400)円、大学・専門学校生400(320)円、高校生・65歳以上250(200)円、中学生以下無料。
*( )内は20名以上の団体料金。
*企画展 百年の編み手たちとのセット券あり。
住所:江東区三好4-1-1
交通:東京メトロ半蔵門線清澄白河駅B2出口より徒歩9分。都営地下鉄大江戸線清澄白河駅A3出口より徒歩13分。
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