都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「The Nature Rules 自然国家:Dreaming of Earth Project」 原美術館
原美術館
「The Nature Rules 自然国家:Dreaming of Earth Project」
2019/4/13~7/28
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/2b/b7/0de6a9b8edfdac5fb88a892d8c1b31f1.jpg)
原美術館で開催中の「The Nature Rules 自然国家:Dreaming of Earth Project」のプレスプレビューに参加してきました。
韓国と北朝鮮の間に横たわる「38度線」こと非武装地帯(DMZ)は、1953年の朝鮮戦争終結後、南北の緩衝地帯として人の立ち入りが一切禁止されてきました。
しかし長らく無人であったことから、自然の楽園と化し、今では101種の絶滅危惧種を含む5000種以上の生き物が育まれています。そして38度線の生態系を守り、全ての生き物の共生をアートの観点から考えようとするアーティストがいました。
それが韓国の崔在銀で、作家は自らの理想とする自然の治める国、すなわち「自然国家」を築くべく、2014年から「大地の夢プロジェクト(Dreaming of Earth Project)」を立ち上げました。以来、韓国のみならず、世界の20組のアーティストや建築家らが賛同してきたそうです。
その「大地の夢プロジェクト」が日本で初めて可視化されました。会場では、それぞれのアーティストが、プロジェクトの実現のために提案した方法を、作品や図面、また映像などによって紹介していました。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/40/3e/5d15695c1b87c95a56826865557a379c.jpg)
坂茂「竹のパサージュ」 2019年
建築家の坂茂も崔の思想に共鳴した人物の1人でした。坂は、非武装地帯内に全長20キロにも及ぶ空中庭園を構想し、そのために築かれる回廊、すなわち「竹のパサージュ」の2分の1スケールのモデルを美術館の庭園に設置しました。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/10/64/be0e74c94075d6649ba4ae00b08ed987.jpg)
坂茂「竹のパサージュ」 2019年
坂は自然環境に馴染むよう、パサージュの主構造に竹を採用し、地面から離すことで、人の自然への介入を防ぐと考えました。さらに地雷から身を守る意味も持ち得ています。
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スタジオムンバイ「Tazia」 2019年
また空中庭園に点在する12の東屋を、川俣正やイ・ブル、李禹煥、それにスタジオムンバイらが模型や素描で提案しました。中でも、細い竹と糸を組み上げ、聖人を祝福するための記念碑として築き上げる、スタジオムンバイ「Tazia」が目をひくのではないでしょうか。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/6c/be/a0dd21eb2d51b70e96c5ad97c27448b4.jpg)
スン・ヒョサン「鳥の修道院」 2017年
韓国の建築家のスン・ヒョサンは、非武装地帯に生きる鳥が羽を休めるためのスペースとして、「鳥の修道院」を提案しました。自然に覆われた同地域には、植物だけでなく、鳥を含めた多様な動物が生息しています。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/76/fd/13cab84bd0f6996fe9f42a1a5fafa63d.jpg)
チョウ・ミンスク「DMZ 生命と知識の地下貯蔵庫」 2019年
ヴェネチア・ビエンナーレで共同キュレーターを務め、国際建築展の金獅子賞を受賞をした経験もあるチョウ・ミンスクも、「大地の夢プロジェクト」のために大規模なプランを構想しました。それが「DMZ生命と知識の貯蔵庫」で、南北にまたがる鉄原(チョルウォン)で発見されたトンネルを再利用して築く、種子や知識を保存するための貯蔵庫、いわばシードバンクでした。なおトンネルは長さ3.5キロに及んでいます。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/40/ae/f6d591dd93fd0b138405f28e6b3cc278.jpg)
崔在銀「To Call by Name」 2019年
もちろん崔在銀もプロジェクトに関した作品を出展していました。うち「To Call by Name」は、非武装地帯の101種の絶滅危惧種の名を記したインスタレーションで、上には瓶が吊られ、中には展覧会の4日前に入れられたという豆が芽を吹いていました。なおその後、庭に植え替えられ、今では花を咲かせたそうです。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/12/19/3b72ebafd799d5df8661b3de7cb22803.jpg)
崔在銀「hatred melts like snow」 2019年
一面の床に置かれた「hatred melts like snow」も崔の手によるもので、素材は非武装地帯に敷設された鉄条網を鋳潰した鉄でした。崔は現実の境界線を打ち破るべく、まずは鉄条網を溶かすことを考えたそうです。会場内では誰もが自由に上に乗って行き来することも可能でした。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/7d/a7/ca93051b8479e6a23659be1818beae35.jpg)
崔在銀「hatred melts like snow」 2019年
実際のところ、今も非武装地帯には300万個とも言われる地雷が埋設されている上、南北間における政治的隔たりは大きく、すぐさま実現に向けて動くとは思えません。そもそも崔自身も「今すぐに実現するかどうかは問題ではない。」と語っていました。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/54/81/b86a26d45c451c254d75d2ed5c44f3b2.jpg)
スタジオアザースペシーズ:オラファー・エリアソン アンド セバスチャン・ベーマン「水滴のパビリオン」 2017年(着想)/2019年(模型制作)
しかし非武装地帯の自然を守り、ひいては南北の境界を打ち払おうとする崔の意思は揺らぐことありません。崔の平和への強い希求と、各アーティストの提案した壮大なビジョンに心を揺さぶられるものを感じました。
7月28日まで開催されています。
「The Nature Rules 自然国家:Dreaming of Earth Project」 原美術館(@haramuseum)
会期:2019年4月13日(土)~7月28日(日)
休館:月曜日。但し4月29日、5月6日、7月15日を除く。5月7日、7月16日は休館。
時間:11:00~17:00。
*水曜は20時まで。入館は閉館の30分前まで
料金: 一般1100円、大高生700円、小中生500円
*原美術館メンバーは無料、学期中の土曜日は小中高生の入館無料。
*20名以上の団体は1人100円引。
住所:品川区北品川4-7-25
交通:JR線品川駅高輪口より徒歩15分。都営バス反96系統御殿山下車徒歩3分。
注)写真は報道内覧会時に主催者の許可を得て撮影したものです。
「The Nature Rules 自然国家:Dreaming of Earth Project」
2019/4/13~7/28
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/2b/b7/0de6a9b8edfdac5fb88a892d8c1b31f1.jpg)
原美術館で開催中の「The Nature Rules 自然国家:Dreaming of Earth Project」のプレスプレビューに参加してきました。
韓国と北朝鮮の間に横たわる「38度線」こと非武装地帯(DMZ)は、1953年の朝鮮戦争終結後、南北の緩衝地帯として人の立ち入りが一切禁止されてきました。
しかし長らく無人であったことから、自然の楽園と化し、今では101種の絶滅危惧種を含む5000種以上の生き物が育まれています。そして38度線の生態系を守り、全ての生き物の共生をアートの観点から考えようとするアーティストがいました。
それが韓国の崔在銀で、作家は自らの理想とする自然の治める国、すなわち「自然国家」を築くべく、2014年から「大地の夢プロジェクト(Dreaming of Earth Project)」を立ち上げました。以来、韓国のみならず、世界の20組のアーティストや建築家らが賛同してきたそうです。
その「大地の夢プロジェクト」が日本で初めて可視化されました。会場では、それぞれのアーティストが、プロジェクトの実現のために提案した方法を、作品や図面、また映像などによって紹介していました。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/40/3e/5d15695c1b87c95a56826865557a379c.jpg)
坂茂「竹のパサージュ」 2019年
建築家の坂茂も崔の思想に共鳴した人物の1人でした。坂は、非武装地帯内に全長20キロにも及ぶ空中庭園を構想し、そのために築かれる回廊、すなわち「竹のパサージュ」の2分の1スケールのモデルを美術館の庭園に設置しました。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/10/64/be0e74c94075d6649ba4ae00b08ed987.jpg)
坂茂「竹のパサージュ」 2019年
坂は自然環境に馴染むよう、パサージュの主構造に竹を採用し、地面から離すことで、人の自然への介入を防ぐと考えました。さらに地雷から身を守る意味も持ち得ています。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/59/90/c942dff6ea912452228bea8ad35a756e.jpg)
スタジオムンバイ「Tazia」 2019年
また空中庭園に点在する12の東屋を、川俣正やイ・ブル、李禹煥、それにスタジオムンバイらが模型や素描で提案しました。中でも、細い竹と糸を組み上げ、聖人を祝福するための記念碑として築き上げる、スタジオムンバイ「Tazia」が目をひくのではないでしょうか。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/6c/be/a0dd21eb2d51b70e96c5ad97c27448b4.jpg)
スン・ヒョサン「鳥の修道院」 2017年
韓国の建築家のスン・ヒョサンは、非武装地帯に生きる鳥が羽を休めるためのスペースとして、「鳥の修道院」を提案しました。自然に覆われた同地域には、植物だけでなく、鳥を含めた多様な動物が生息しています。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/76/fd/13cab84bd0f6996fe9f42a1a5fafa63d.jpg)
チョウ・ミンスク「DMZ 生命と知識の地下貯蔵庫」 2019年
ヴェネチア・ビエンナーレで共同キュレーターを務め、国際建築展の金獅子賞を受賞をした経験もあるチョウ・ミンスクも、「大地の夢プロジェクト」のために大規模なプランを構想しました。それが「DMZ生命と知識の貯蔵庫」で、南北にまたがる鉄原(チョルウォン)で発見されたトンネルを再利用して築く、種子や知識を保存するための貯蔵庫、いわばシードバンクでした。なおトンネルは長さ3.5キロに及んでいます。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/40/ae/f6d591dd93fd0b138405f28e6b3cc278.jpg)
崔在銀「To Call by Name」 2019年
もちろん崔在銀もプロジェクトに関した作品を出展していました。うち「To Call by Name」は、非武装地帯の101種の絶滅危惧種の名を記したインスタレーションで、上には瓶が吊られ、中には展覧会の4日前に入れられたという豆が芽を吹いていました。なおその後、庭に植え替えられ、今では花を咲かせたそうです。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/12/19/3b72ebafd799d5df8661b3de7cb22803.jpg)
崔在銀「hatred melts like snow」 2019年
一面の床に置かれた「hatred melts like snow」も崔の手によるもので、素材は非武装地帯に敷設された鉄条網を鋳潰した鉄でした。崔は現実の境界線を打ち破るべく、まずは鉄条網を溶かすことを考えたそうです。会場内では誰もが自由に上に乗って行き来することも可能でした。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/7d/a7/ca93051b8479e6a23659be1818beae35.jpg)
崔在銀「hatred melts like snow」 2019年
実際のところ、今も非武装地帯には300万個とも言われる地雷が埋設されている上、南北間における政治的隔たりは大きく、すぐさま実現に向けて動くとは思えません。そもそも崔自身も「今すぐに実現するかどうかは問題ではない。」と語っていました。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/54/81/b86a26d45c451c254d75d2ed5c44f3b2.jpg)
スタジオアザースペシーズ:オラファー・エリアソン アンド セバスチャン・ベーマン「水滴のパビリオン」 2017年(着想)/2019年(模型制作)
しかし非武装地帯の自然を守り、ひいては南北の境界を打ち払おうとする崔の意思は揺らぐことありません。崔の平和への強い希求と、各アーティストの提案した壮大なビジョンに心を揺さぶられるものを感じました。
約300万個の地雷が埋められ、自然の王国と化した朝鮮半島の非武装地帯(DMZ)。この未来や平和を考える展覧会『The Nature Rules 自然国家:Dreaming of Earth Project』が、原美術館で開催中です。https://t.co/8ZHXR1lZqs pic.twitter.com/WzIUags0R3
— Pen Magazine (@Pen_magazine) 2019年5月24日
7月28日まで開催されています。
「The Nature Rules 自然国家:Dreaming of Earth Project」 原美術館(@haramuseum)
会期:2019年4月13日(土)~7月28日(日)
休館:月曜日。但し4月29日、5月6日、7月15日を除く。5月7日、7月16日は休館。
時間:11:00~17:00。
*水曜は20時まで。入館は閉館の30分前まで
料金: 一般1100円、大高生700円、小中生500円
*原美術館メンバーは無料、学期中の土曜日は小中高生の入館無料。
*20名以上の団体は1人100円引。
住所:品川区北品川4-7-25
交通:JR線品川駅高輪口より徒歩15分。都営バス反96系統御殿山下車徒歩3分。
注)写真は報道内覧会時に主催者の許可を得て撮影したものです。
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