都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「シャルル=フランソワ・ドービニー展」 東郷青児記念損保ジャパン日本興亜美術館
東郷青児記念損保ジャパン日本興亜美術館
「シャルル=フランソワ・ドービニー展 バルビゾン派から印象派への架け橋」
2019/4/20~6/30
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/02/f7/b5193913a6063f4dd330c6eba725e5e5.jpg)
東郷青児記念損保ジャパン日本興亜美術館で開催中の「シャルル=フランソワ・ドービニー展」を見てきました。
19世紀のフランスの画家、シャルル=フランソワ・ドービニー(1817〜1878)は、主に水辺の風景を描き続け、のちの印象派の画家の「指針」(解説より)となりました。
そのドービニーの国内初となる回顧展で、海外のコレクションを中心にドービニーの作品60点と、コローやクールベ、ドーミエらの作品20点の合わせて約80点ほどが一堂に会しました。
はじまりはドービニーと同時代の画家でした。ドービニーが画家として活動をはじめた1830年代頃、のちにバルビゾン派と呼ばれた画家が、パリ郊外のフォンテーヌブロー周辺に集まり、自然の光景をありがままに描き出しました。うち印象に深いのが、ヴィクトール・デュプレの「水飲み場の動物たち」で、画面の半分以上を占める広い空の下、牛たちが水を飲む姿を表していました。また水面は陽の光を受けたのか、白く輝いていました。デュプレは1840年代にドービニーと知り合い、バルビゾン派の中ではロマン主義的な傾向が強い画家として知られています。
コローもドーミエと深く交流した画家の1人でした。うち「地中海沿岸の思い出」は、うっすらとピンク色の明かりに包まれる中、人が海を望む高台でいる光景を表していて、樹木は風に吹かれるのか、やや揺れているようにも見えました。どこか幻想的な様子も、コローならではの表現と言えるかもしれません。
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シャルル=フランソワ・ドービニー「聖ヒエロニムス」 1840年 アミアン、ピカルディー美術館
ドービニーは当初、アカデミックな画家として生きることを志し、1836年からイタリアへ旅行すると、歴史風景画などを描きました。そのうちの一枚が「聖ヒエロニムス」で、深き山間にて半身を露わにした聖人が、両手を開き、空を仰ぐ姿を表しました。この歴史風景画とは、キリスト教や神話の主題を風景に描いたもので、当時、「低俗」(解説より)とされた風景画の中では、比較的高貴な存在として扱われていました。
しかしドービニーは自身の歴史風景画がコンクールで評価されなかったことから、のちに宗教や神話の主題を廃し、自然そのものを描くようになりました。そして1843年にはフォンテーヌブローに滞在し、バルビゾン派の画家と交流したとされています。
1850年代を通してサロンに作品を発表したドービニーは、国家の買い上げなどにより、同年代終盤までには写実の風景画家として広く知られるようになりました。しかし時に批評家らによって、「荒描き」や「未完成」といった批判も受けました。印象派を先取りした画風も見られるドービニーを世の中が評価するには、もう少し時間が必要だったのかもしれません。
ドービニーは旅する画家でもありました。とりわけ1857年にアトリエ船「ボタン号」を手に入れると、シャンパーニュ地方やシャラント県などを旅し、オランダへも出かけました。また2代目の大きな船を購入した1868年以降は、セーヌ川を降り、英仏海峡にまで出かけることもありました。そしてドービニーは旅先で、ブータンやモネなどの印象派の若い画家と出会い、影響を与えました。実際、モネは船をアトリエに使うことをドービニーから倣ったことで、川面の近いところから描く視線を新たに手にしたそうです。
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シャルル=フランソワ・ドービニー「ボッタン号」 1869年頃 フランス、個人蔵
そのアトリエ船を捉えたのが、「ボッタン号」で、川に浮かぶ帆を張った小舟の中に、ドービニーらしき人物が、スケッチする姿を描いていました。またボタン号の旅を物語化した版画集「船の旅」も興味深い連作で、旅の光景を戯画的に表していました。全16点からなる作品でしたが、ドービニーと遺族の意向より、再版を防止するため、全て揃って貸し出されることはありません。よって今回はドービニー美術館所蔵の15枚が公開されていました。
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シャルル=フランソワ・ドービニー「アトリエ船(版画集 船の旅)より」 1862年 個人蔵
オワーズ川もドービニーの愛した風景の1つでした。「オワーズ河畔の釣り人と洗濯する女性」が魅惑的ではないでしょうか。朝方なのか、僅かな朱に染まる空を背景に、静かに流れるオワーズの川を捉えていて、緑に覆われた河畔には洗濯に勤しむ女性の姿も垣間見えました。まさに長閑な自然そのもので、何ら特徴的な景観はありませんが、平穏な日常の中での幸せが滲み出ているように感じられてなりませんでした。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/32/58/07c8a5b9eb718360b576d0f05df753eb.jpg)
シャルル=フランソワ・ドービニー「ポルトジョアのセーヌ川」 1868年頃 フランス、個人蔵
晩年のドービニーは、体調不良による療養を繰り返しながらも、旅を続けては自然を描き、サロンへの出品も続けました。次第に画面は影を帯びて暗くなり、タッチを残すような色彩の中に点景として人の姿を表していて、印象派の画風へと近づいていきました。
「山間風景、コートレ」は岩の転がる山肌を、水が飛沫を当てて落ちる光景を正面から描いていて、力強いまでの筆触はクールベの画風を思わせる面がありました。また「ヨンヌ河畔の風景」も、曇り空の下、滔々と水をたたえたヨンヌ川を表していて、空も水面も流れるような筆の跡が確かに残されていました。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/46/ae/b2a89ca03d60193ecca06e084652d4a4.jpg)
バルビゾン派関連の展示では見る機会も少なくないドービニーでしたが、国内初の回顧展だけに、さすがに質量ともに充実していました。現時点での決定版として差し支えありません。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/62/98/24d78b12abf0be05d789682195a1a360.jpg)
気がつけば隣接地で建設中の新美術館もかなり組み上がって来ました。既に案内があるように、同美術館では2020年5月の開館を目指して、移転建設工事が行われています。現在の42階で開催される展覧会も、次の「みんなのレオ・レオーニ展」で最後となりました。
「新美術館の開館(2020年予定)に伴う美術館の移転について」公益財団法人損保ジャパン日本興亜美術財団
なお本展は昨年の山梨県立美術館を皮切りに、ひろしま美術館、そして東郷青児記念損保ジャパン日本興亜美術館で開催されて来た巡回展です。東京での展示を終えると、鹿児島市立美術館(会期:2019/7/19~9/1)、三重県立美術館(会期:2019/9/10~11/4)で開催されます。
同館では今年度より全ての展覧会において高校生以下が無料となりました。6月30日まで開催されています。おすすめします。
「シャルル=フランソワ・ドービニー展 バルビゾン派から印象派への架け橋」 東郷青児記念損保ジャパン日本興亜美術館
会期:2019年4月20日(土)~6月30日(日)
休館:月曜日。
*但し4月29日、5月6日は開館、翌火曜日も開館。
時間:10:00~18:00
*6月25日(火)~30日(日)は19時まで。
*入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1300(1100)円、大学生900(700)円、高校生以下無料。
*( )は20名以上の団体料金。
住所:新宿区西新宿1-26-1 損保ジャパン日本興亜本社ビル42階
交通:JR線新宿駅西口、東京メトロ丸ノ内線新宿駅・西新宿駅、都営大江戸線新宿西口駅より徒歩5分。
「シャルル=フランソワ・ドービニー展 バルビゾン派から印象派への架け橋」
2019/4/20~6/30
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/02/f7/b5193913a6063f4dd330c6eba725e5e5.jpg)
東郷青児記念損保ジャパン日本興亜美術館で開催中の「シャルル=フランソワ・ドービニー展」を見てきました。
19世紀のフランスの画家、シャルル=フランソワ・ドービニー(1817〜1878)は、主に水辺の風景を描き続け、のちの印象派の画家の「指針」(解説より)となりました。
そのドービニーの国内初となる回顧展で、海外のコレクションを中心にドービニーの作品60点と、コローやクールベ、ドーミエらの作品20点の合わせて約80点ほどが一堂に会しました。
はじまりはドービニーと同時代の画家でした。ドービニーが画家として活動をはじめた1830年代頃、のちにバルビゾン派と呼ばれた画家が、パリ郊外のフォンテーヌブロー周辺に集まり、自然の光景をありがままに描き出しました。うち印象に深いのが、ヴィクトール・デュプレの「水飲み場の動物たち」で、画面の半分以上を占める広い空の下、牛たちが水を飲む姿を表していました。また水面は陽の光を受けたのか、白く輝いていました。デュプレは1840年代にドービニーと知り合い、バルビゾン派の中ではロマン主義的な傾向が強い画家として知られています。
コローもドーミエと深く交流した画家の1人でした。うち「地中海沿岸の思い出」は、うっすらとピンク色の明かりに包まれる中、人が海を望む高台でいる光景を表していて、樹木は風に吹かれるのか、やや揺れているようにも見えました。どこか幻想的な様子も、コローならではの表現と言えるかもしれません。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/03/b5/a74728a87f7725e929eb7c81f6bc9266.jpg)
シャルル=フランソワ・ドービニー「聖ヒエロニムス」 1840年 アミアン、ピカルディー美術館
ドービニーは当初、アカデミックな画家として生きることを志し、1836年からイタリアへ旅行すると、歴史風景画などを描きました。そのうちの一枚が「聖ヒエロニムス」で、深き山間にて半身を露わにした聖人が、両手を開き、空を仰ぐ姿を表しました。この歴史風景画とは、キリスト教や神話の主題を風景に描いたもので、当時、「低俗」(解説より)とされた風景画の中では、比較的高貴な存在として扱われていました。
しかしドービニーは自身の歴史風景画がコンクールで評価されなかったことから、のちに宗教や神話の主題を廃し、自然そのものを描くようになりました。そして1843年にはフォンテーヌブローに滞在し、バルビゾン派の画家と交流したとされています。
1850年代を通してサロンに作品を発表したドービニーは、国家の買い上げなどにより、同年代終盤までには写実の風景画家として広く知られるようになりました。しかし時に批評家らによって、「荒描き」や「未完成」といった批判も受けました。印象派を先取りした画風も見られるドービニーを世の中が評価するには、もう少し時間が必要だったのかもしれません。
ドービニーは旅する画家でもありました。とりわけ1857年にアトリエ船「ボタン号」を手に入れると、シャンパーニュ地方やシャラント県などを旅し、オランダへも出かけました。また2代目の大きな船を購入した1868年以降は、セーヌ川を降り、英仏海峡にまで出かけることもありました。そしてドービニーは旅先で、ブータンやモネなどの印象派の若い画家と出会い、影響を与えました。実際、モネは船をアトリエに使うことをドービニーから倣ったことで、川面の近いところから描く視線を新たに手にしたそうです。
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シャルル=フランソワ・ドービニー「ボッタン号」 1869年頃 フランス、個人蔵
そのアトリエ船を捉えたのが、「ボッタン号」で、川に浮かぶ帆を張った小舟の中に、ドービニーらしき人物が、スケッチする姿を描いていました。またボタン号の旅を物語化した版画集「船の旅」も興味深い連作で、旅の光景を戯画的に表していました。全16点からなる作品でしたが、ドービニーと遺族の意向より、再版を防止するため、全て揃って貸し出されることはありません。よって今回はドービニー美術館所蔵の15枚が公開されていました。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/23/7b/5dff58024122c9f58875c123fc521f39.jpg)
シャルル=フランソワ・ドービニー「アトリエ船(版画集 船の旅)より」 1862年 個人蔵
オワーズ川もドービニーの愛した風景の1つでした。「オワーズ河畔の釣り人と洗濯する女性」が魅惑的ではないでしょうか。朝方なのか、僅かな朱に染まる空を背景に、静かに流れるオワーズの川を捉えていて、緑に覆われた河畔には洗濯に勤しむ女性の姿も垣間見えました。まさに長閑な自然そのもので、何ら特徴的な景観はありませんが、平穏な日常の中での幸せが滲み出ているように感じられてなりませんでした。
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シャルル=フランソワ・ドービニー「ポルトジョアのセーヌ川」 1868年頃 フランス、個人蔵
晩年のドービニーは、体調不良による療養を繰り返しながらも、旅を続けては自然を描き、サロンへの出品も続けました。次第に画面は影を帯びて暗くなり、タッチを残すような色彩の中に点景として人の姿を表していて、印象派の画風へと近づいていきました。
「山間風景、コートレ」は岩の転がる山肌を、水が飛沫を当てて落ちる光景を正面から描いていて、力強いまでの筆触はクールベの画風を思わせる面がありました。また「ヨンヌ河畔の風景」も、曇り空の下、滔々と水をたたえたヨンヌ川を表していて、空も水面も流れるような筆の跡が確かに残されていました。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/46/ae/b2a89ca03d60193ecca06e084652d4a4.jpg)
バルビゾン派関連の展示では見る機会も少なくないドービニーでしたが、国内初の回顧展だけに、さすがに質量ともに充実していました。現時点での決定版として差し支えありません。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/62/98/24d78b12abf0be05d789682195a1a360.jpg)
気がつけば隣接地で建設中の新美術館もかなり組み上がって来ました。既に案内があるように、同美術館では2020年5月の開館を目指して、移転建設工事が行われています。現在の42階で開催される展覧会も、次の「みんなのレオ・レオーニ展」で最後となりました。
「新美術館の開館(2020年予定)に伴う美術館の移転について」公益財団法人損保ジャパン日本興亜美術財団
なお本展は昨年の山梨県立美術館を皮切りに、ひろしま美術館、そして東郷青児記念損保ジャパン日本興亜美術館で開催されて来た巡回展です。東京での展示を終えると、鹿児島市立美術館(会期:2019/7/19~9/1)、三重県立美術館(会期:2019/9/10~11/4)で開催されます。
同館では今年度より全ての展覧会において高校生以下が無料となりました。6月30日まで開催されています。おすすめします。
「シャルル=フランソワ・ドービニー展 バルビゾン派から印象派への架け橋」 東郷青児記念損保ジャパン日本興亜美術館
会期:2019年4月20日(土)~6月30日(日)
休館:月曜日。
*但し4月29日、5月6日は開館、翌火曜日も開館。
時間:10:00~18:00
*6月25日(火)~30日(日)は19時まで。
*入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1300(1100)円、大学生900(700)円、高校生以下無料。
*( )は20名以上の団体料金。
住所:新宿区西新宿1-26-1 損保ジャパン日本興亜本社ビル42階
交通:JR線新宿駅西口、東京メトロ丸ノ内線新宿駅・西新宿駅、都営大江戸線新宿西口駅より徒歩5分。
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