「六本木クロッシング2019展:つないでみる」 森美術館

森美術館
「森美術館15周年記念展 六本木クロッシング2019展:つないでみる」
2019/2/9~5/26



森美術館で開催中の「六本木クロッシング2019展:つないでみる」を見てきました。

2004年より3年に1度、日本の現代アートシーンを「定点観測」(公式サイトより)すべく開かれてきた「六本木クロッシング」も、今回で6回目を迎えました。

冒頭から特大の猫を模したオブジェが姿を現しました。それが飯川雄大の「デコレータークラブ―ピンクの猫の小林さん」で、ピンク色の丸い顔をした高さ5メートル超にも及ぶ猫が、さも行く手を遮るかのように立っていました。


飯川雄大「デコレータークラブ―ピンクの猫の小林さん」 2019年

ともかく目が引く作品のゆえに、思わずスマホカメラを向けてましたが、どうやっても全体像を捉えられません。実のところ、飯川はあえて全体を写せないように計算して、作品を設置していました。何故ならば、「情報過多の社会において、真実や全体を俯瞰する難しさ」(解説より)を提示しているからだそうです。あえて撮影可(一部を除く)の展示に問いを投げかけた、作家の強いメッセージが感じられました。


青野文昭「なおす・代用・合体・連置 ベンツの復元から 東京/宮城」 2018年

破壊や再生、それに修復などをテーマとする青野文昭は、故障して松島の貝塚の傍に放置された車を元に立体を制作しました。しかし端的に車といえども、家具や日用品なども介在していて、もはや原型は一部に留まっているに過ぎません。そこには車や持ち主の歴史、さらに貝塚の場所の意味などが表現されているそうです。


平川紀道「datum」 2019年

平川紀道は「datum」において、夕陽を写した連続写真の画素を用い、画像情報のみに表示して、多様なデータとしてのイメージを変化させて映しました。確かにいずれのシーンも初めこそ夕陽であることが分かるものの、すぐに風景が解体し、半ば色や光のみに変化していて、抽象的でかつ複雑なパターンのみが浮かび上がっていました。


林千歩「人工的な恋人と本当の愛」 2016/2019年

林千歩の「人工的な恋人と本当の愛」も目立っていたかもしれません。ここで林は社長室に見立てた部屋に、陶芸教室を営むAIロボットのアンドロイド社長と、人間の女性の生徒が恋に落ちる物語を作り上げました。古びたモニターを前に、上を向いて物思いに耽る社長の表情も面白いのではないでしょうか。


磯谷博史「花と蜂、透過する履歴」 2018年 「母親の子、祖母の孫」 2019年

美術館の既存の柱を利用したのが磯谷博史の「母親の子、祖母の孫」で、写真では分かりにくいかもしれませんが、ビルを支える太い柱に、無数の真鍮製のチェーンが巻かれていました。一部に母親と祖母のネックレスも使われていて、全長で2600メートルにも及ぶそうです。また柱のそばには、蜂蜜入りの瓶の中に集魚灯を浮かべた「花と蜂、透過する履歴」が置かれていました。オレンジ色に淡く染まる光の美しさも魅力と言えるかもしれません。


目「景体」 2019年

何かと人気のアーティストチームの「目」も見逃せません。タイトルは「景体」で、海の波を見渡しつつ、まるで時間を止めたかのように一つの塊と化したインスタレーションでした。窓から外の光を受けつつ、波は黒く染まりながら固まっていて、異様なまでの存在感を見せていました。どことなく恐怖感を覚えたのは私だけではないかもしれません。


花岡伸宏 展示風景

木や鉄、衣服やキャンバスなど、多様な素材を組み合わせて1つの空間を築いた花岡伸宏にも目がとまりました。そこには仏像を思わせるオブジェや、人間の頭部の半分のみを象った木彫などが、さも互いに関係しあうように置かれていました。かつて仏像彫刻などを学んだ花岡は、木彫と既製品を組み合わせた作品を制作していて、中には一度完成した作品を解体し、新たに再構築して作品とすることもあるそうです。


毒山凡太郎「君之代ー斉唱」 2019年

毒山凡太郎は「君之代ー斉唱」において、台湾の高齢者に、日本の統治時代についてのインタビューと、日本の唱歌を合唱する様子を映像に表現しました。一方で、東日本大震災に伴う原発事故により仮設住宅で生活する人々とのワークショップを示した「あっち」では、参加者が自ら制作したお面をかぶり、戻れない故郷の方向を指していました。なお毒山自身も、原発事故で一変した福島での体験をきっかけに、作品の制作を始めたアーティストでした。


竹川宣彰「猫オリンピック:開会式」 2019年

ひょっとすると会場で一番人気を博していたかもしれません。竹川宣彰は「猫オリンピック」で、1300匹にも及ぶ猫のオブジェが競技場に集う様子を表していて、その周りも猫の立体や彫刻が取り囲んでいました。


竹川宣彰「猫オリンピック:開会式」 2019年

一見すると祝典的で華やいだ作品に見えるかもしれませんが、ここには交通事故で亡くなった竹川の愛猫も含まれていて、オリンピックの熱狂に隠された政治の諸問題への憤りや、愛猫の死をどう受け入れるかについての戸惑いなども表現されているそうです。


佐藤雅晴「Calling(ドイツ編、日本編)」 2009-2014年 再編集:2018年

ひっきりなしに電話のベルが鳴り響いていました。それがデジタルアニメーションなどの手法を用い、映像を制作してきた佐藤雅晴の「Calling(ドイツ編、日本編)」でした。2つの国の24シーンから成る作品で、いずれも誰もない花屋の店頭や事務室、エレベーターホール、そしてバーカウンターなどで、ただただ寂しく鳴る携帯と固定電話を映していました。


杉戸洋「トリプル・デッカー」 2019年

このほか杉戸洋やヒロスムの大掛かりな彫刻も見応えがあったのではないでしょうか。また一転しての瞑想的な空間を築いていた、前田征紀のインスタレーションにも魅せられました。


津田道子「王様は他人を記録するが」 2019年

今回のクロッシング展では、シリーズ初の試みとして、森美術館の3名のキュレイターが合同でキュレーションを行なったそうです。そこに1970年から80年代生まれの日本の25組のアーティストが参加しました。


今年2月からの長丁場の展覧会ですが、気がつけば会期末を迎えていました。なお会期最終日前日の5月25日(土)は、「六本木アートナイト2019」開催に伴い、翌朝6時まで開館時間が延長されます。



5月26日まで開催されています。

「森美術館15周年記念展 六本木クロッシング2019展:つないでみる」 森美術館@mori_art_museum
会期:2019年2月9日(土)~5月26日(日)
休館:会期中無休。
時間:10:00~22:00
 *但し火曜日は17時で閉館。
 *「六本木アートナイト2019」開催に伴い、5月25日(土)は翌朝6時まで開館延長。
 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1800円、学生(高校・大学生)1200円、子供(4歳~中校生)600円、65歳以上1500円。
住所:港区六本木6-10-1 六本木ヒルズ森タワー53階
交通:東京メトロ日比谷線六本木駅より地下コンコースにて直結。都営大江戸線六本木駅より徒歩10分。都営地下鉄大江戸線麻布十番駅より徒歩10分。

注)写真はいずれも「クリエイティブ・コモンズ表示 - 非営利 - 改変禁止 4.0 国際」ライセンスでライセンスされています。
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