「Meet the Collection ―アートと人と、美術館」 横浜美術館

横浜美術館
「Meet the Collection ―アートと人と、美術館」
2019/4/13~6/23



1989年11月、横浜のみなとみらい地区にオープンした横浜美術館は、今年で開館30周年を迎えました。

それを期して開催されているのが、「Meet the Collection ―アートと人と、美術館」で、1万2千点にも及ぶ同館のコレクションのうち、絵画、彫刻、版画、写真、映像ほか、全400点超の作品が展示されていました。

いわゆる優品展として端的に作品を羅列しただけでなく、「LIFE:生命のいとなみ」や「WORLD:世界のかたち」としたテーマの設定、及び束芋、淺井裕介、今津景、菅木志雄の4名の現代作家をゲストに迎えているのも、大きな特徴と言えるかもしれません。


鏑木清方「遊女」 1918年

うち1人が束芋で、2015年に制作した「あいたいせいじょせい」の映像インスタレーションを出展していました。またそこでは「こころをうつす」として、「情念に囚われた女性たち」(解説より)を描いた日本画を展示していて、特に鏑木清方が充実していました。「遊女」や「春宵怨」などが目を引くのではないでしょうか。


山村耕花「謡曲幻想 隅田川・田村」 1930年

山村耕花の「謡曲幻想 隅田川・田村」も目立っていました。能に取材した四曲一双の大作の屏風絵で、右に子に引き離され、物狂いと化して舞う女性を描いていました。どこか装飾性を伴った樹木や花の表現も魅惑的かもしれません。


淺井裕介「いのちの木」 2019年 ほか

淺井裕介が美術館の一室を、植物や動物、そして鳥のモチーフで埋め尽くしました。それが「いのちの木」と題したドローイングで、土やペンキを用いて建物に塗りこめたものでした。


手前:ハンス・アルプ「成長」 1938年

その中に並ぶのが、淺井が制作の端緒としたという、ミロやエルンスト、それにクレーやヴォルスなどの作品でした。またアルプの「成長」越しに見やる、「いのちの木」も面白いのではないでしょうか。


「Meet the Collection ―アートと人と、美術館」会場風景

淺井は美術館に10日間ほど滞在して作品を完成させたそうです。まさかこれほどのスケールの大きなドローイングとは思いませんでした。


米田知子「教室1(遺体仮安置所をへて、震災資料室として使われていた)」 2004年

特に充実したコレクションで知られる写真も数多く出展されていました。アンリ・カルティエ=ブレッソンやロバート・キャパの名作が並ぶ中、目を引いたのが、米田知子による阪神・淡路大震災の被災地を写した連作でした。ここで米田は、震災の直後をモノクローム、そして10年後の光景をカラーで捉えていました。


「Meet the Collection ―アートと人と、美術館」会場風景

今津景は横浜美術館のコレクションでも有数のシュルレアリスム作品を選定し、タンギーやエルンスト、それにダリなどの絵画や彫刻を、自作の「Repatriation」と邂逅させました。


今津景「Repatriation」 2015年

左右にデルヴォーほか平面の作品が並び、中央のステージに彫刻、そして奥に今津の「Repatriation」が連なる光景からして見どころと言えるかもしれません。


ジョニル・オターソン「眠りの国」 1988年

なおここではジョニル・オターソンの「眠りの国」も出展されていましたが、必ずしも公開頻度が高いとは言えないコレクションに出会えるのも、今回の展覧会の魅力の1つでした。


菅木志雄「環空立」 1999年

菅木志雄が美術館の内外に大規模なインスタレーションを展開しました。うち館内のホワイエと吹き抜け状の展示室に広がるのが「環空立」で、20年前の1999年、ここ横浜美術館で開催された菅の個展、「菅木志雄ースタンス」に出品されたものでした。いわば再構築となります。


菅木志雄「環空立」 1999年

「環空立」の傍らには、菅の近年の作品も展示されていました。木で構築された作品は、ともすれば重厚な構えを見せる美術館内に介在して、新たな場を築いていたのではないでしょうか。


菅木志雄「環空立」 1999年

上下に展開し、奥行きを伴っては、幾重にも四角形を築く木のフレームを互いに行き来しては、変化する景色を楽しみました。


「Meet the Collection ―アートと人と、美術館」会場風景

イサム・ノグチの「真夜中の太陽」を中核に、ダリやマグリット、はたまた田中敦子の作品が前後した、「ひろがる世界」と題した展示室でも、作品同士が意外な出会いを見せていたかもしれません。


「Meet the Collection ―アートと人と、美術館」会場風景

繰り返しになりますが、総出展数400点にも及ぶ全館規模の展覧会です。時間に余裕を持ってお出かけ下さい。



コレクションや30年間の活動について振り返るコーナーもありました。平成元年に開館した横浜美術館は、言うまでもなく平成の歴史の歩みと重なります。

拙ブログの記録を辿ると、私が横浜美術館の展覧会の感想を初めて書いたのは、2004年の「ノンセクト・ラディカル 現代の写真3」でした。ただおそらくその少し前の展覧会にも足を運んでいたような気もします。開館当初からではありませんが、気がつけば長らく通いました。

私として今も強く印象に残っているのが、2005年の「李禹煥展 余白の芸術」でした。この時は展示だけでなく、本人のレクチャーや菅木志雄の対談などのイベントに参加したことを覚えています。コンクリート剥き出しの展示室に並ぶ「関係項」や、壁に直接描かれた「照応」などが生み出す場そのものに、どことなく魅力を覚えたものでした。

近年でも「ヌード展」や「石田尚志展」、「蔡國強展」、それに「村上隆のスーパーフラット・コレクション」など、面白かった展覧会をあげればきりがありません。今後とも変わらずに追いかけていきたいと思いました。


GW中に行って来ましたが、館内には余裕がありました。また一部の映像を除き、ほぼ全ての作品の撮影も可能です。


菅木志雄「散境端因」 1998年

6月23日まで開催されています。おすすめします。

「Meet the Collection ―アートと人と、美術館」 横浜美術館@yokobi_tweet
会期:2019年4月13日(土)~6月23日(日)
休館:木曜日(5月2日を除く)、5月7日(火)。
時間:10:00~18:00
 *毎週金曜・土曜は20時まで。
 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1100(1000)円、大学・高校生700(600)円、中学生500(400)円、小学生以下無料、65歳以上1000円
 *( )内は20名以上の団体料金。要事前予約。
 *6月2日(日)は観覧無料。
 *毎週土曜日は高校生以下無料。(要学生証)
住所:横浜市西区みなとみらい3-4-1
交通:みなとみらい線みなとみらい駅5番出口から徒歩5分。JR線、横浜市営地下鉄線桜木町駅より徒歩約10分。
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