「ヨコハマトリエンナーレ2017」(後編) 横浜市開港記念会館地下

横浜市開港記念会館地下
「ヨコハマトリエンナーレ2017 島と星座とガラパゴス」
8/4~11/5



中編(横浜赤レンガ倉庫1号館)に続きます。「ヨコハマトリエンナーレ2017 島と星座とガラパゴス」を見てきました。

「ヨコハマトリエンナーレ2017」(中編) 横浜赤レンガ倉庫1号館

赤レンガ倉庫から開港記念会館の間に無料バスはありません。よって徒歩で移動する必要があります。象の鼻テラスから、神奈川県庁の裏手をゆっくり歩いて10分ほどでした。さほど時間はかかりません。

開港記念会館は地下フロアのみが会場です。出展作家も柳幸典のただ一人でした。



階段を降りるとトリエンナーレの受付があります。ほぼ真っ暗闇で、慣れるまでは足元も安定しません。順路は一方向で、行く手を鏡が誘っていました。



突如、ゴジラが現れました。その名も「Project God-zilla」です。大きな目をぎょろりと光らせています。身体は無数の瓦礫で出来ていて、中には角材が積み上がり、家具がひっくり返ってもいました。そして「遮」と記された放射性廃棄物を入れる袋もありました。否応なしに3.11の大津波と、福島の原子力事故を思い起こさせます。そもそもゴジラ自体もビキニ環礁の核実験で生まれた生物でした。

このゴジラに出会ったのは2度目でした。というのも、柳はヨコハマトリエンナーレにおいて、昨年冬にBankArt Studio NYKで開催した個展、「ワンダリング・ポジション」を再構築しているからです。リメイクと呼んでも良いかもしれません。かの時は鏡の迷路を抜けた先で現れましたが、今回は冒頭に登場しました。



その鏡には終始、朱色に燃え上がる太陽が映し出されています。前回は振り返ると太陽が追ってきましたが、ここでは必ず目の前の鏡に太陽が現れます。視線から外せません。結果的に何度か鏡の角を曲がると、太陽本体が現れましたが、手前に結界があり、たどり着くことは出来ませんでした。



さらにあわせて場内には日本国憲法第9条をモチーフにしたLEDのインスタレーションも展示しています。真っ暗がりに放たれた赤い光は何やら不気味でもありました。



「ワンダリング・ポジション」のスケールには到底及びませんが、世界観は十分に味わえるのではないでしょうか。大正6年の創建の歴史的建造物の地下の雰囲気ともよく合っていました。

全会場とも写真の撮影が可能です。前回は一部に制限がありましたが、今回は全ての作品の撮影が出来ます。ただしフラッシュ、動画、三脚での撮影は出来ません。(作品単体も原則不可。)

結果的に12時半頃に横浜美術館へ入り、赤レンガ倉庫、開港記念会館と巡って、全て見終えたのは17時過ぎでした。

トリエンナーレ期間中は、「BankART Life V」、「黄金町バザール2017」でも、同時にアートプログラムが行われています。ともにセット券で見ることが出来ます。私は改めて後日に行く予定です。

ペースには個人差がありますが、移動などを含めると、全てのプログラムをまわるには1日掛かりになるかもしれません。前回より作家数が減り、ややこじんまりとしていた印象がありましたが、そもそもの出展数が膨大です。時間に余裕を持ってお出かけください。


私が見たのは会期の3週目でしたが、さほど混雑していませんでした。どの会場もスムーズに観覧出来ます。

11月5日まで開催されています。

*「ヨコハマトリエンナーレ2017」 関連エントリ
前編:横浜美術館/中編:横浜赤レンガ倉庫1号館/後編:横浜市開港記念会館地下/BankART LifeⅤ~観光/黄金町バザール2017

「ヨコハマトリエンナーレ2017 島と星座とガラパゴス」@yokotori_) 横浜美術館@yokobi_tweet)、横浜赤レンガ倉庫1号館@yokohamaredbric)、横浜市開港記念会館地下
会期:8月4日(金)~11月5日(日)
休館:第2・4木曜日(8/10、8/24、9/14、9/28、10/12、10/26)。
時間:10:00~18:00
 *10/27(金)、10/28(土)、10/29(日)、11/2(木)、11/3(金・祝)、11/4(土)は20時半まで開場。
  *入場は閉場の30分前まで。
料金:
 鑑賞券 一般1800円、大学・専門学生1200円、高校生800円。中学生以下無料。
 セット券 一般2400円、大学・専門学生1800円、高校生1400円。中学生以下無料。
 *同時に20名以上のチケットを購入する場合は各200円引。
 *セット券で「BankART Life V」、「黄金町バザール2017」のパスポートと引換え。
 *チケットを提示すると会場間無料バスに乗車可。
住所:横浜市西区みなとみらい3-4-1(横浜美術館)、横浜市中区新港1-1-1(横浜赤レンガ倉庫1号館)、横浜市中区本町1-6(横浜市開港記念会館地下)
交通:みなとみらい線みなとみらい駅3番出口から徒歩3分(横浜美術館)、みなとみらい線馬車道駅または日本大通り駅から徒歩6分(横浜赤レンガ倉庫1号館)、みなとみらい線日本大通り駅から徒歩1分(横浜市開港記念会館地下)。

注)「ヨコハマトリエンナーレ2017」の会場写真はいずれも「クリエイティブ・コモンズ表示・非営利 - 改変禁止 2.1 日本」ライセンスでライセンスされています。
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「ヨコハマトリエンナーレ2017」(中編) 横浜赤レンガ倉庫1号館

横浜赤レンガ倉庫1号館
「ヨコハマトリエンナーレ2017 島と星座とガラパゴス」
8/4~11/5



前編(横浜美術館)に続きます。「ヨコハマトリエンナーレ2017 島と星座とガラパゴス」を見てきました。

「ヨコハマトリエンナーレ2017 島と星座とガラパゴス」(前編)

横浜美術館から無料バスに乗ると、赤レンガまでは10分弱ほどです。バスは2号館側のターミナルに到着します。その先に建つ1号館の2階と3階がトリエンナーレの会場でした。



小沢剛が「帰って来た」シリーズの新作を展示しています。同シリーズは歴史上の人物を題材に、事実とフィクションを重ね、物語を構築する映像を主とした作品です。モデルは横浜生まれの岡倉天心で、インド・コルカタでの足跡を辿っています。音楽、看板絵とも、現地の音楽家や職人が制作したそうです。かの地の雰囲気が伝わるかのようでした。



クリスチャン・ヤンコフスキーのインスタレーションに魅せられました。舞台はワルシャワで、屋外のモミュメントの前には、屈強な重量挙げの選手が並んでいます。そして司会が現れ、何やら催促するような素振りを見せました。すると重量挙げの選手が一斉にモミュメントを持ち上げ始めました。皆、真剣そのもののです。持ち上げれば拍手喝采、プロジェクトは成功しました。何とも奇異で滑稽な光景ではないでしょうか。思わず笑ってしまいました。



横浜の公共彫刻をマッサージ師が診断する試みも面白いのではないでしょうか。さらにマッサージ器具を利用しながら身体訓練も体験することも出来ました。「身体と公共建築の関係性を問う」と解説にありますが、アイデアも表現も、新奇でかつ個性的です。楽しめました。



宇治野宗輝が迫力のあるインスタレーションを展開しています。名付けて「プライウッド新地」です。ステージには巨大な木箱のほか、テレビや扇風機などの家電、さらにドリルなどの工具などが複雑に組み合わされています。改造されたエレキギターもありました。一体、何が始まるのでしょうか。



ライブです。ギターが音を奏で、先の家電などが動き、その音がアンプで増幅されては、音楽にリミックスします。さらに演奏の各場面を大型のスクリーンでも展開し、光、音楽、映像を融合した一大スペクタクルとも呼べるライブが進行していきます。



各々の家電や工具がプレイヤーです。ドドドというドリルの音も轟きました。各々が想像つかない音を鳴らしながら、互いに合わせ、さらに新たな音楽を作りあげます。リズムは時に激しく、臨場感は十分でした。思わず肩でリズムを取りたくなるほどでした。



ヨーロッパのロードマップを用いたのがキャシー・プレンダーガストでした。ご覧のように、たくさんの机の上にロードマップが載っています。全部で100冊ありました。



しかしマップは黒塗りで、一体、どの地点の地図なのかわかりません。都市や町村以外の全てを塗りつぶしています。つまり星のような白い粒がそれ以外の領域に当たるのでしょうか。全体の形をヨーロッパの地形に見立てています。人間の活動の軌跡が示されていました。



青山悟は祖父の描いた絵画を参照して刺繍を制作しました。表を向くのが祖父の絵画で、少女の姿などを印象派風に描いています。



裏が青山の刺繍でした。ここに作家は女性政治家を象っています。刺繍というメディアの持つ女性性に着目しているそうです。いつもながらに精緻極まりない作品です。遠目では刺繍かすら分からないかもしれません。



中国のドン・ユアンは祖母の家を絵画で再現しました。造りは伝統的な民家で、幼い頃から長らく作家が通ったものの、今年、区画整理のために解体されてしまうそうです。その思い出を残すためのものかもしれません。



それにしても再現度が半端ありませんでした。窓、家具、蛍光灯、カーペット、ソファはおろか、写真、テレビ、置物、カレンダー、さらには食卓上の食事までの全てを描いています。



家の中で重要な地位を占める祭壇の部屋もありました。祭壇上ではろうそくの炎が絵画の中で揺らめいています。これほど徹底して絵画化するとは凄まじい労力です。画家の執念を感じるほどでした。

赤レンガ倉庫でハイライトに位置付けたいのが、ラグナル・キャルタンソンの「ザ・ビジターズ」です。9つのスクリーンによる映像のインスタレーションでした。



舞台は大きな邸宅の室内です。とはいえ、初めは全てのスクリーンが映されているわけでもなく、各々の関係も曖昧で、そもそも同じ建物の中であるのかも分かりません。



しばらくすると人が現れ、各々に楽器を持ち始めました。音楽のスタートです。ただし9つに部屋に分かれているために、直接的に互いの音楽を合わせることは出来ません。重要なのがヘッドフォンです。そこから聴こえるほかの奏者の音を頼りに、9人で1つの音楽を作っていきます。



初めはバラバラに奏でられる音も、次第に繋がり、いつしか美しいハーモニーを築き上げました。その様子は感動的ではないでしょうか。なお音楽がフィナーレを迎えたのち、メンバーが邸宅から出て行きますが、すぐにフェードアウトしません。さらにラストのシーンが現れます。それがまた効果的で、冒頭の展開とも見事に繋がりました。今回のトリエンナーレの「孤立」と「接続」のテーマを、最も端的に表した作品と言えるかもしれません。上映は約1時間ありますが、最初から最後まで鑑賞されることをおすすめします。


赤レンガ倉庫会場の出展アーティストは13名程度と、横浜美術館の半分以下に過ぎません。しかしながら個々に充実した作品が多く、想像以上に見応えがありました。密度の点においては美術館を上回っていたかもしれません。



赤レンガ倉庫の次は、最後の会場、横浜市開港記念会館へ向かいました。

後編(横浜市開港記念会館地下)へと続きます。

「ヨコハマトリエンナーレ2017」(後編) 横浜市開港記念会館地下

*「ヨコハマトリエンナーレ2017」 関連エントリ
前編:横浜美術館/中編:横浜赤レンガ倉庫1号館/後編:横浜市開港記念会館地下/BankART LifeⅤ~観光/黄金町バザール2017

「ヨコハマトリエンナーレ2017 島と星座とガラパゴス」@yokotori_) 横浜美術館@yokobi_tweet)、横浜赤レンガ倉庫1号館@yokohamaredbric)、横浜市開港記念会館地下
会期:8月4日(金)~11月5日(日)
休館:第2・4木曜日(8/10、8/24、9/14、9/28、10/12、10/26)。
時間:10:00~18:00
 *10/27(金)、10/28(土)、10/29(日)、11/2(木)、11/3(金・祝)、11/4(土)は20時半まで開場。
  *入場は閉場の30分前まで。
料金:
 鑑賞券 一般1800円、大学・専門学生1200円、高校生800円。中学生以下無料。
 セット券 一般2400円、大学・専門学生1800円、高校生1400円。中学生以下無料。
 *同時に20名以上のチケットを購入する場合は各200円引。
 *セット券で「BankART Life V」、「黄金町バザール2017」のパスポートと引換え。
 *チケットを提示すると会場間無料バスに乗車可。
住所:横浜市西区みなとみらい3-4-1(横浜美術館)、横浜市中区新港1-1-1(横浜赤レンガ倉庫1号館)、横浜市中区本町1-6(横浜市開港記念会館地下)
交通:みなとみらい線みなとみらい駅3番出口から徒歩3分(横浜美術館)、みなとみらい線馬車道駅または日本大通り駅から徒歩6分(横浜赤レンガ倉庫1号館)、みなとみらい線日本大通り駅から徒歩1分(横浜市開港記念会館地下)。

注)「ヨコハマトリエンナーレ2017」の会場写真はいずれも「クリエイティブ・コモンズ表示・非営利 - 改変禁止 2.1 日本」ライセンスでライセンスされています。
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「ヨコハマトリエンナーレ2017」(前編) 横浜美術館

横浜美術館
「ヨコハマトリエンナーレ2017 島と星座とガラパゴス」(前編)
8/4~11/5



「ヨコハマトリエンナーレ2017 島と星座とガラパゴス」へ行ってきました。

今年で6回目を迎えた「ヨコハマトリエンナーレ」。会場は3つです。昨年と同様に横浜美術館に主会場に据え、横浜赤レンガ倉庫1号館、横浜市開港記念会館にて、「接続」と「孤立」とテーマに、38組のアーティストが作品を展開しています。

タイトルは「島と星座とガラパゴス」です。一体、どのような展示が行われているのでしょうか。まずは横浜美術館の会場から見てきました。



美術館の建物を巨大な赤いボートが覆っています。アイ・ウェイウェイによるインスタレーションです。ボートはいずれも救命用でした。さらによく見るとエントランス支柱にも無数の救命胴衣が巻き付けられていることが分かりました。



実際に難民が着用していた胴衣だそうです。アイ・ウェイウェイは欧州に拠点を移した2015年以降、各地の難民問題に目を向け、一連のインスタレーションを発表しました。



館内へ進んでまず目に飛び込んで来たのは、大きな竹製のオブジェでした。インドネシアのバンドンで活動するジョコ・アヴィアントの「善と悪の境界はひどく縮れている」です。太い竹を幾重にも練り上げては、巨大なねじりハチマキのような立体物を築き上げています。中央に開口部があり、中に入って行き来することも出来ました。日本のしめ縄に着想を得ているそうです。竹はインドネシアの家屋や日用品としてよく使われる伝統的な素材でもあります。



展示室へのアプローチを築き上げたのがマップオフィスでした。1996年に結成されたモロッコ人とフランス人によるアーティストユニットで、現在は香港を拠点に活動しています。



島や領海などをリサーチし、政治や社会の問題に向き合いながら、階段上のテラスに群島をイメージしたサウンドインスタレーションを展開しています。やや取っ付きにくい面はありましたが、美術館内にビーチのような空間を現出させていました。



その上で待ち構えるのがミスターのキャラクターです。キューバで生まれた作家は、日本のガラパゴス的なオタクカルチャーなどに注目し、絵画やオブジェに表現しました。時に無造作に作品が配されているからか、都市の雑踏にでも踏み入れたかのような錯覚に陥ります。電線やコンビニの店頭などの見慣れた光景の中に、たくさんの少女のキャラクターや萌え絵が、半ば散乱していました。



遠目では作品の存在が分からないかもしれません。ホワイトキューブに銅線を張ったのがプラバワティ・メッパイルでした。金細工師の家系に生まれた作家は、伝統とミニマルの手法を用い、空間へ新たな価値を与えました。大変に繊細な作品です。視線を変えると空間の印象自体も変化します。しばらく見上げながら楽しみました。



一つのネックレスが地球の長い歴史を物語ります。ケイティ・パターソンです。ネックレスの素材は化石で、全部で170個もつなぎ合わせています。備え付けの虫眼鏡で細部を見ると、一つ一つの色や質感が全て異っていることが分かりました。どれほどの地域、また場所から採取された化石なのでしょうか。



なお作家は地質や天文学などの自然科学を表現として取り込んでいます。もう一点の「すべての死んだ星」は、過去に観測された超新星の天球図でした。何らかの模様を描くかのように星が点々と連なっています。人智の及ばない宇宙的スケールの世界を、一つの平面作品へ置き換えていました。



パリで活動するタチアナ・トゥルヴェのテーマは「家」です。確かに建築物らしき模型が置かれていますが、どれも扉や窓はおろか、壁も部分部分にしか存在し得ず、本来的な家の機能を有していません。「有機的」と解説にありましたが、むしろ幾何学的なオブジェのようでした。いずれも背が低く、否応なしに視線は床面の方向へと誘われます。あえて最も天井高のある展示室で作り上げられた「新しい家々」(解説より)は、人の生活をどう変えていくのでしょうか。



パンダの着ぐるみやTシャツやクッションなどの日用品が並んでいます。ロブ・プルイットです。いずれもオークションサイトのeBay上で、作家が日々アップしているという商品の実物でした。ネット上のフリーマーケットを可視化する試みとも言えるかもしれません。



もう一点の「スタジオ・カレンダー」も面白い作品でした。カレンダーにたくさんの絵が記されていますが、これは作家がオバマ元大統領の在職した8年間、日々ひたすらに描き続けたものだそうです。ニュース写真を元にした作品は全2922枚にも及びます。何という根気なのでしょうか。一つの歴史を築き上げていました。



マレーシアのアン・サマットは、同国に伝統的な織物をモチーフにした作品を展示しています。色はとても鮮やかですが、細部に目をこらすとフォークや調理器具のような素材も編み込まれていることが分かります。中にはガーデニング用品やパソコンの基盤などもありました。



名付けて「酋長シリーズ」です。作品には性別があり、社会における性差の問題についても言及しているそうです。全体と細部の双方に見入りました。



直方体のジェルのオブジェが現れました。ザ・プロペラ・グループ、トゥアン・アンドリュー・グエンによる「AK-47 vs M.16」です。ジェルは無色透明で、ほぼ中央に何かが貫通したかのような穴が開いています。解説を読むまでは、一体、何で生じた穴なのか分かりませんでした。

答えは銃弾です。ソ連とアメリカがベトナム戦争で用いた銃弾を、このジェルブロックの中で衝突させています。それにより出来た穴です。映像で銃弾が中で衝突する様子を見ることも出来ます。凄まじい威力です。武器による破壊の恐ろしさをひしひしと感じました。



写真家の畠山直哉の展示が充実していました。とりわけ目を引くのが故郷、陸前高田の連作でした。かの震災の津波により、建物も人命も根こそぎ奪われてしまった同地の風景をパノラマ的に捉えています。



しかしその荒涼たる大地の中にも、虹がかかり、菜の花が群生する姿を見ることも出来ます。ただひたすらに美しい。そこに畠山の故郷再生への願いが込められているのかもしれません。



同じく震災に向き合ったのが瀬尾夏美です。作家は2011年3月、ボランティアで被災地に出向き、多くの人々に出会っては、一人一人の体験を絵や言葉にして表現しました。



風間サチコも充実しています。お馴染みの木版画と大型の立体作品での展開です。風刺を帯びた作品からは、作家自身の鋭い社会、権力批判の精神が垣間見えるのではないでしょうか。そのスタンスはトリエンナーレという場においても失われていませんでした。



木下晋の鉛筆画に迫力がありました。足や腕、それに手などを大画面のケント紙に描いています。血管が浮き上がり、皺にまみれた手などからは、モデルの生きた長い年月が感じられました。鉛筆のみでこれほど表現力を持ち得た作品は、なかなかほかに見当たりません。凄みがありました。



あえてハイライトを挙げるとすれば、ワエル・シャウキーの映像三部作「十字軍芝居」にあるかもしれません。巨大なスクリーンで展開されるのは人形芝居です。冒険物語などを織り交ぜながら、中世のイスラムとキリスト教徒の物語を壮大なスケールで描いています。



中世におけるキリスト教の聖戦も大きなテーマです。テーマも興味深く、人形劇自体も精緻に組み上げられています。上映時間は約2時間です。全ての鑑賞を希望される方は時間に余裕を持って出かけるのが良さそうです。



その人形劇の手前で、驚くべきほどに深遠な空間を作り上げたのはマーク・フスティニアーニでした。ずばり「トンネル」です。ご覧のように地下鉄か坑道を思わせる半円のトンネルが遠くの彼方にまで伸びています。行く手を確認することは出来ません。

しかしここは美術館です。そもそも無限に伸びるトンネルなどありえません。実際、作品の裏手にまわってみたところ、奥行きはせいぜい1メートルに過ぎませんでした。結論からすれば鏡を利用したシンプルな仕掛けですが、トリッキーな視覚体験はなかなかスリリングでした。



なおフスティニアーニはもう1つ、館内に無限の「穴」を掘っています。覗き込むと足がすくむかのようでした。



突如、大きな電線の束や変圧器、それに冷蔵庫などが現れました。ザオ・ザオの「プロジェクト・タクラマカン」です。ウイグル生まれのザオは、かの砂漠へ冷蔵庫を運んでは、皆でビールを飲むというプロジェクトを行いました。シルクロードの歴史や同地の孤立した現況に目を向けているようです。



一際、人気を集めていたのがパオラ・ピヴィのカラフルな動物のオブジェでした。いずれも熊で、緑や紫の毛を付けています。二頭の熊が対峙する様子はまるで相撲のようです。とても可愛らしく、写真映えもします。しかしタイトルが「I and I(芸術のために立ち上がらねば)」などと謎めいていました。何か深い意図があるのかもしれません。



光のアーティスト、オラファー・エリアソンは、意外にもワークショップ形式での展示でした。作家はランプを組み立てる行為を通して、様々な人と交流し、現代社会の課題について考える場を提供しているそうです。



エチオピアの孤児救済のため、ファッションブランドと提携して制作した作品も展示されています。単にオブジェだけでなく、エリアソンの関心の在り処や、近年の活動も知ることが出来ました。

ラストは「ヨコハマラウンジ」として、トリエンナーレの構想メンバーの発言や提案などが紹介されています。そのうち興味深いのは、スプツニ子!による「Why Are We? Project」でした。



ネットの検索エンジンのサジェスト機能に着目して、各国や地域を表すキーワードをピックアップするプロジェクトです。例えば日本で一番多いのは「why is japan so safe」です。やはり安全のイメージが共有されているのでしょう。一方でドイツは「why is germany so powerful」であり、メキシコは「why is mevico so poor」でした。それぞれの国情を反映しているのかもしれません。そしてこのpoorが殊更に多いことに気づきました。世界の根深い貧困の問題が浮かび上がっています。



横浜美術館会場を一通り鑑賞したのちは、美術館裏手からのシャトルバスで、次の会場、赤レンガ倉庫1号館を目指しました。


中編(横浜赤レンガ倉庫1号館)へ続きます。

「ヨコハマトリエンナーレ2017」(中編) 横浜赤レンガ倉庫1号館

*「ヨコハマトリエンナーレ2017」 関連エントリ
前編:横浜美術館/中編:横浜赤レンガ倉庫1号館/後編:横浜市開港記念会館地下/BankART LifeⅤ~観光/黄金町バザール2017

「ヨコハマトリエンナーレ2017 島と星座とガラパゴス」@yokotori_) 横浜美術館@yokobi_tweet)、横浜赤レンガ倉庫1号館@yokohamaredbric)、横浜市開港記念会館地下
会期:8月4日(金)~11月5日(日)
休館:第2・4木曜日(8/10、8/24、9/14、9/28、10/12、10/26)。
時間:10:00~18:00
 *10/27(金)、10/28(土)、10/29(日)、11/2(木)、11/3(金・祝)、11/4(土)は20時半まで開場。
  *入場は閉場の30分前まで。
料金:
 鑑賞券 一般1800円、大学・専門学生1200円、高校生800円。中学生以下無料。
 セット券 一般2400円、大学・専門学生1800円、高校生1400円。中学生以下無料。
 *同時に20名以上のチケットを購入する場合は各200円引。
 *セット券で「BankART Life V」、「黄金町バザール2017」のパスポートと引換え。
 *チケットを提示すると会場間無料バスに乗車可。
住所:横浜市西区みなとみらい3-4-1(横浜美術館)、横浜市中区新港1-1-1(横浜赤レンガ倉庫1号館)、横浜市中区本町1-6(横浜市開港記念会館地下)。
交通:みなとみらい線みなとみらい駅3番出口から徒歩3分(横浜美術館)、みなとみらい線馬車道駅または日本大通り駅から徒歩6分(横浜赤レンガ倉庫1号館)、みなとみらい線日本大通り駅から徒歩1分(横浜市開港記念会館地下)。

注)「ヨコハマトリエンナーレ2017」の会場写真はいずれも「クリエイティブ・コモンズ表示・非営利 - 改変禁止 2.1 日本」ライセンスでライセンスされています。
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「千年の甍(いらか)ー古代瓦を葺く」 ギャラリーエークワッド

ギャラリーエークワッド
「竹中大工道具館企画展 千年の甍(いらか)ー古代瓦を葺く」 
8/21~10/6



ギャラリーエークワッドで開催中の「竹中大工道具館企画展 千年の甍(いらか)ー古代瓦を葺く」を見てきました。 

日本の伝統的な瓦は、千年以上もの昔から、風雨に耐えては建物を守り続けてきました。

そうした古代の瓦に着目したのが、「千年の甍(いらか)ー古代瓦を葺く」です。確かに入口からして控えるのはたくさんの瓦でした。古代瓦をつくる、ないし葺くをテーマに、職人の技に触れながら、古代瓦の世界を紹介していました。



さて冒頭、まず現れるのが屋根です。当然ながら瓦は屋根葺き用の建材です。屋根なくしては本来の用途をなしません。


「奈良時代の屋根」

屋根の左端と右端に注目です。というのも左は現代で、右が奈良時代の形でした。つまり左右で1000年以上も時代の異なる屋根を比較しているわけです。


「現代の屋根」

しかし左右とも表面の形に変化がありません。よほど古代より技術が確立していたのでしょうか。実のところ殆ど同じでした。ただ下地や固定方法が異なります。奈良時代は瓦を土で固定し、下地の割板を垂木に縄で縛っていました。一方で現代は、土を使わずに桟で釘打ちにし、漆喰で瓦を固定した上で、銅線で下地と結びつけています。地震の多い土地柄もあるのかもしれません。より屋根を軽くするための工夫がなされています。


「薬師寺玄奘三蔵院経蔵の鬼瓦」 1989年 ほか

瓦にはいくつかの種類があります。うち1つが鬼瓦でした。飾りの瓦だけあり、造形はまさにデコラティブです。鬼が口を開ける姿を象っています。


「薬師寺西塔裳階の軒瓦」 1981年(復元)

展示品は法隆寺や薬師寺の古代瓦の復元です。瓦職人の山本清一氏が制作しました。山本氏は松本城や姫路城、それに東大寺大仏殿の修理などでも瓦造りを手がけてきたそうです。


「原土(もとつち) 愛知県安城市三河安城町 2017年3月採取 ほか

後半は古代瓦をつくる、そして葺くのコーナーでした。これがかなり細かく丁寧に形成プロセスを追っています。何せ始まりは土でした。粘土を足で踏んでは直方体に成形し、一度切断します。そして瓦一枚分の厚みに整えていきます。いずれも足作業、手作業でした。


「平瓦の製作道具」

形作りに用いられる道具も多く展示されていました。平瓦、丸瓦のための桶や仕上台、それに木槌などが並んでいました。


「丸瓦の製作道具」

瓦を作った後は、いよいよ葺きの作業に入ります。参照するのは平城宮跡の大極殿復元工事、ないし薬師寺食堂新築工事です。まず葺く前に原寸図を描き、瓦を選定します。そして平瓦、丸瓦の順に葺いた後に、屋根に現れた稜線をふさぐための棟を積み上げます。すると完成です。工程は思いの外に複雑でした。つくるにも葺くにも、職人の丹念な仕事がなくては、良い瓦、屋根は出来ないのかもしれません。


「金槌」ほか

道具自体の美しさにも目を見張ります。金槌、丸鑿、釿(ちょうな)などは実際に用いられたものです。さらに手書きの原寸図も精巧でした。


「瓦を葺いてみよう」コーナー

最後に面白いコーナーがありました。それが「瓦を葺いてみよう」です。何と実際の瓦を用いて葺く作業を体験することが出来ます。


「瓦を葺いてみよう」コーナー

早速、私も備え付けの軍手をはめ、瓦を手にしました。想像以上の重さです。これを実際に屋根で作業するのは相当に大変なのではないでしょうか。


「瓦を葺いてみよう」コーナー

手引きに沿って平瓦を並べ、その隙間に丸瓦を置きます。そして完成です。如何でしょうか。あくまでも簡易的な展示に過ぎませんが、まさか本物の瓦に直で触れられるとは思いませんでした。

新神戸にある竹中大工道具館による企画展です。ややレアな瓦オンリーの展覧会です。予想以上に楽しめました。


古代瓦「仮並べ」

日曜、祝日はお休みです。お出かけの際はご注意下さい。


「唐招提寺金堂の鴟尾」 2003年(復元)

会場内の撮影も可能でした。10月6日まで開催されています。

「竹中大工道具館企画展 千年の甍(いらか)ー古代瓦を葺く」 ギャラリーエークワッド
会期:8月21日(月)~10月6日(金)
休廊:日曜・祝日。
時間:10:00~18:00。*最終日は17時まで。
料金:無料。
住所:江東区新砂1-1-1 竹中工務店東京本店1階。
交通:東京メトロ東西線東陽町駅3番出口徒歩3分。
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「ニッポンの国宝100」創刊号 小学館

小学館より刊行された「週刊 ニッポンの国宝100」創刊号を読んでみました。

「週刊 ニッポンの国宝100 1 阿修羅/風神雷神図屏風/小学館」

文化財保護法により「世界文化の見地から価値の高いもので、たぐいない国民の宝たるもの」として規定された国宝。現在、1108件の建造物と美術工芸品が指定されています。


「週刊 ニッポンの国宝100」
http://www.shogakukan.co.jp/pr/kokuhou100/

その国宝から選りすぐりの100件を紹介するのが「ニッポンの国宝」です。各巻2件での展開です。毎週火曜日に発売され、来年の9月までの1年間、全50巻が刊行されます。

創刊号を飾るのが阿修羅と風神雷神図屏風でした。かつて話題となった阿修羅展や大琳派展の例を挙げるまでもなく、ともに美術工芸品の国宝として人気を集めています。



まず目を引いたのは誌面の写真が美しいことでした。特に名作ギャラリーが充実しています。阿修羅では顔や両手の細部までを見事に捉えていました。私もかつて阿修羅展でこの仏像を見ましたが、さすがに肉眼ではここまで迫ることは出来ません。



国宝を掘り下げるのが国宝鑑賞術です。阿修羅、風神雷神図屏風ともに5つのポイントをピックアップし、造形の特徴などを解説しています。なお阿修羅では背面の写真もありましたが、これも興福寺で見ることは叶いません。まさに書籍ならでは鑑賞と言えるのではないでしょうか。



原寸も一つのキーワードです。「ニッポンの国宝100」では、阿修羅はもとより、風神雷神図屏風の一部を、原寸大のサイズで見せています。阿修羅の顔が思いの外に小さく感じたのは私だけでしょうか。また風神雷神の雷神も原寸で見ると、細部の線描の豊かなニュアンスなどが良く分かります。墨線の滲みや塗り残しも一目瞭然でした。



対決や比較のコーナーは国宝へ新たな視点をもたらします。例えば阿修羅では「国宝 世界VS日本」としてミケランジェロのダビデ像と比べていました。当然ながら時代も地域もまるで異なる両像です。見比べることなど思いもつきませんが、マニアックな部分にまで踏み込んでいるからか、かなり読み応えがありました。東西の美意識の違いなども浮かび上がっていたかもしれません。



一方の風神雷神屏風では、琳派三変奏こと、宗達、光琳、抱一画を比較しています。時代が下るにつれて、より人間味を増すような両神の姿を見ることが出来ました。また風神雷神を襖へ描いた其一に触れているのも嬉しいところでした。



専門性を持ち得ながらも、全体的にかなり親しみやすい構成となっているのも特徴です。より斬新なのが国宝解体新書でした。阿修羅では6本の腕のみに着目し、その造形や印相、はたまた動きを3面に連なるページで紹介しています。いわばページには腕しか載っていません。こうした取り上げられ方はいまだかつてあったのでしょうか。先のダビデ比較ならぬ、「ニッポンの国宝」ならではのコンテンツだと感心しました。



「行こう国宝の旅」などの旅に関するページも思いの外に充実しています。宗達や海北友松に縁のある建仁寺が見開きで特集されていたほか、国宝を有する東寺や薬師寺などの寺院も紹介されていました。拝観や作品の公開情報も記載されているので、京都や奈良への旅行を組むのにも有用かもしれません。

「未来の国宝・MY国宝」の連載も面白いのではないでしょうか。第一回では美術史家の山下裕二先生が、大阪の金剛寺の「日月山水図屏風」(重要文化財)を「未来の国宝」として取り上げています。コラムを参照しながら、国宝の行く末について考えるのも面白いかもしれません。



さて約40ページの「ニッポンの国宝100」ですが、手にした際、予想以上に分厚いのに驚きました。理由は付録です。創刊号のみの特別付録として「鳥獣人物戯画柄トラベルケース」が付いています。



これがかなり実用的でした。ハードカバーで耐久性もあり、中にはポケットやホルダーがたくさん付いています。チケットやメモ帳はもちろん、スマートフォンやパスポートも収納出来るのではないでしょうか。旅行云々ではなく、普段使いにも問題ありません。


これほど盛りだくさんで500円です。(創刊号特別価格。2巻以降は680円。)端的に安い。お得感がありました。

それにしても国宝イヤー、秋の国宝展のみならず、「ニッポンの国宝」を含め、様々な企業や団体が、国宝に関するタイアップやイベントを行っています。

「ニッポンの国宝」を中心とした「国宝応援プロジェクト」については、下記のエントリにまとめました。

「国宝応援プロジェクト」が進行中です(はろるど)

今後、国宝への関心は高まっていくのでしょうか。と、当時に国宝から広がる多様な展開についても注目したいところです。



小学館「ニッポンの国宝100」の創刊号、「阿修羅/風神雷神図屏風」は、9月5日に刊行されました。

「週刊ニッポンの国宝100」@kokuhou_project) 小学館
内容:国宝の至高の世界を旅する、全50巻。国宝とは「世界文化の見地から価値の高いもので、たぐいない国民の宝たるもの」(文化財保護法)国宝を知ることは、日本美術を知ること。そして、まさに日本のこころを知る旅だともいえます。「週刊 ニッポンの国宝100」では、現在指定されている1108件の中からとくに意義深い100点を選び、毎号2点にスポットを当てその魅力を徹底的に分析します。
価格:創刊記念特別価格500円。2巻以降680円(ともに税込)。
仕様:A4変形型・オールカラー42ページ。
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豊田市美術館へ行ってきました

1995年に開館した、豊田市美術館を設計したのは、建築家の谷口吉生です。


豊田市美術館
http://www.museum.toyota.aichi.jp

谷口の美術館建築として有名なのは、東京国立博物館の法隆寺宝物館や、京都国立博物館の平成知新館などです。私は特に法隆寺宝物館が好きで、同館を見て以来、いつか同じ谷口の建てた豊田市美術館を見たいと思っていました。

ちょうど奈良美智展が開催中です。しかも同展は巡回がありません。これはチャンスとばかりに、豊田市美術館へ行くことにしました。



最寄り駅は豊田市の中心に位置する名鉄豊田市駅、ないし愛知環状鉄道新豊田駅でした。駅から南へ歩き、飯田街道を超え、急な坂をあがると入口が見えてきます。途中、殆ど歩いている人を見かけなかったので、もしや空いているのかと思いましたが、多くの方はマイカーで来られているようでした。



駅側の入口は建物の裏手に当たります。まずは正面入口方向へまわることにしました。すると想像以上に広大な庭が開けていました。

美術館の庭をデザインしたのは、アメリカ人のピーター・ウォーカーです。谷口とは丸亀駅前広場にて協働し、ニューヨークの911メモリアルを手がけるなど、世界各地でランドスケープデザイナーとして活動しています。



庭は2段式で、「円と四角、幾何学と不定形の対立する要素」(解説より)によって構成されています。2段式とは2層構造です。正面入口前が1段目、そして美術館の2階に面したスペースが2段目に当たります。(写真の位置は1段目)実のところ初めは2段構成とは分かりませんでした。



その1段目で特徴的なのが芝生と砂利の市松模様です。その脇を長い石畳が伸びています。さらにソル・ルウィットやリチャード・セラの彫刻が配置されていました。建物同様、一見、シンプルな造りに思えるかもしれませんが、見る方向、立ち位置によって、景色はかなり変化します。



1段目の庭を歩いたあとは、一度、館内に戻りました。人気の奈良さんの個展だけあり、特にファミリーで賑わっていました。



1階にはエントランスホール、ギャラリー、ミュージアムショップのほか、3つの展示室とギャラリーがあります。2階には2つの展示室と、漆芸家の高橋節郎の作品を展示する高橋節郎館があり、3階には3つの展示室が続くという構成でした。



館内は清潔感のある白でほぼ統一されています。外光を取り込んだ吹き抜けには開放感がありました。大小に様々な展示室が連続している上、明暗にも変化があるからか、進むたびに常に異なる景色が開けてきます。また展示室通路から豊田の街並みも見渡せました。これほど感覚を随所で刺激する谷口建築を体験したのは初めてでした。



2階入口外に広がるのが彫刻テラスでした。ここで展開するのが、ダニエル・ビュランの「色の浮遊/3つの破裂した小屋」です。美術館の建築的特徴を強調すべく構想されたそうですが、鏡、ないし黄色や青色を配したオブジェは、確かに建物や空間を際立たせていました。



ビュレンの色に変化した空間を抜けると、一転して物静かな空間が現れました。高橋節郎館です。漆芸家の高橋は、昭和59年に豊田で開かれた展覧会を切っ掛けに、同市へ多くの作品を寄贈しました。それを公開するための施設として建てられました。なお同館内は常設に相当するため、作品と展示室の撮影も可能でした。



館内は2層構造で、3つの展示室が続いています。漆芸品のみかと思いきや、高橋の描いた墨彩画や漆版画も展示されていました。



グランドピアノやハープなどの楽器も目を引きます。これも高橋が装飾をなした作品だそうです。艶やかでした。



休憩スペースのガラス越しには金子潤のオブジェも見えます。ともかく目に入る光景がいちいち美しい。私の拙い写真では伝わりませんが、ため息がもれるほどでした。

彫刻テラス、及び高橋館の前に開けるのが、庭の2段部分でした。うちかなりのスペースを占めるのが人工池でした。



1段目の市松模様の庭と同様、池は不定形で、直線と曲線が連続する構造になっています。水面には建物が緩やかに映り込み、垂直線を強調したファサードを引き立てていました。この池越しの光景が外観上、最も美しく見えるかもしれません。



池を抜けると木立の中を和風の建物が現れました。茶室の「童子苑」です。木造の数寄屋造りで、谷口が設計しました。その名はかつて一帯が童子山と呼ばれていたことに由来するそうです。



「童子苑」の前の庭にまた趣があります。植栽で遮られているため、美術館の姿は伺えません。独立した和風の庭園で、美術館側とは一変した景色が広がっていました。



苑内では立札席茶会として、テーブルと椅子でお茶をいただくことも出来ます。呈茶料金は一服350円で、お茶に和菓子が付いていました。美術館の建物からは少し離れているからか、茶室は空いていて、静かな環境でお茶を味わえました。



もともと美術館の敷地は豊田を治めていた挙母藩の居城があったそうです。小高い丘は一体を支配するのに都合が良かったのでしょうか。現在も当時の石垣が残り、隅櫓も復元されています。また別の城にあった書院の「又日亭(ゆうじつてい)」も移築されました。



建物が良いと噂には聞いていましたが、率直なところ、これほど素晴らしいとは思いませんでした。暑い夏の1日でしたが、建物内外を何度か行き来しては楽しみました。

「豊田市美術館」@toyotashibi
休館:月曜日。
 *但し祝日にあたる場合は開館。ほか臨時休館日あり。
時間:10:00~17:30
 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般300(250)円、高校・大学生200(150)円、中学生以下無料。
 *常設展示観覧料。高橋節郎館も観覧可。企画展は別途必要。
 *( )内は20名以上の団体料金。
住所:愛知県豊田市小坂本町8-5-1
交通:名鉄線豊田市駅、愛知環状鉄道新豊田駅より徒歩15分。
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2017年9月に見たい展覧会

8月の東京の日照時間は、約40年ぶりに史上最短の記録を更新しました。確かに何かと雨の日が続き、時に夏とは思えないような肌寒いこともありました。そのため野外のイベントは苦戦したそうですが、屋内の科学館などは、例年よりも集客した施設も多かったそうです。一概に括れませんが、美術館はどうだったのでしょうか。

先月で印象的だったのは、一にも二にも谷口建築が素晴らしかった豊田市美術館でした。もちろん開催中の「奈良美智展」も充実していました。さらに旧給食センターという独特の空間を巧みに利用した「引込線」や、5年ぶりに行われたサントリー美術館の「おもしろびじゅつワンダーランド」の取り組みにも感心させられました。一方で、神奈川県立近代美術館葉山館の「萬鉄五郎展」に行く機会を逸してしまったのは心残りでした。(萬鉄五郎展は9月3日まで開催。)

9月は多くの展覧会が始動します。今月中に見たい展覧会をリストアップしてみました。

展覧会

・「柳宗悦と『手仕事の日本』を旅する」 日本橋高島屋(~9/11)
・「荒木経惟 センチメンタルな旅 1971ー2017ー」 東京都写真美術館(~9/24)
・「畠中光享コレクション インドに咲く染と織の華」 渋谷区立松濤美術館(~9/24)
・「引込線2017」 旧所沢市立第2学校給食センター(~9/24)
・「月岡芳年 月百姿」 太田記念美術館(9/1~9/24)
・「館蔵品展 江戸の花鳥画」 板橋区立美術館(9/2~10/9)
・「駒井哲郎展」 埼玉県立近代美術館(9/12~10/9)
・「池田学The Penー凝縮の宇宙」 日本橋高島屋(9/27~10/9)
・「浅井忠の京都遺産ー京都工芸繊維大学美術工芸コレクション」 泉屋博古館分館(9/9~10/13)
・「国宝 鶴岡八幡宮古神宝」 鎌倉国宝館(9/1~10/15)
・「上村松園ー美人画の精華」 山種美術館(8/29~10/22)
・「ほとけを支えるー蓮華・霊獣・天部・邪鬼」 根津美術館(9/14~10/22)
・「ボストン美術館浮世絵名品展 鈴木春信」 千葉市美術館(9/6~10/23)
・「馬の美術150選ー山口晃『厩圖2016』完成披露」 馬の博物館(9/9~10/29)
・「黄金町バザール2017」 黄金町エリアマネジメントセンター(~11/5)
・「マックス・クリンガー版画展」 神奈川県立近代美術館葉山館(9/16~11/5)
・「天下を治めた絵師 狩野元信」 サントリー美術館(9/16~11/5)
・「江戸の琳派芸術」 出光美術館(9/16~11/5)
・「生誕120年 東郷青児展 抒情と美のひみつ」 東郷青児記念損保ジャパン日本興亜美術館(9/16~11/12)
・「丸木スマ展ーおばあちゃん画家の夢」 丸木美術館(9/9~11/18)
・「フランス人間国宝展」 東京国立博物館(9/12~11/26)
・「運慶展」 東京国立博物館(9/26〜11/26)
・「フェリーチェ・ベアトの写真 人物・風景と日本の洋画」 DIC川村記念美術館(9/9~12/3)
・「驚異の超絶技巧!ー明治工芸から現代アートへ」 三井記念美術館(9/16~12/3)
・「シャガール 三次元の世界」 東京ステーションギャラリー(9/16~12/3)
・「安藤忠雄展ー挑戦」 国立新美術館(9/27~12/18)
・「田原桂一『光合成』with 田中泯」 原美術館(9/9~12/24)

ギャラリー

・「川俣正ー工事中 再開」 アートフロントギャラリー(~9/24)
・「田中武展 NAN-PUK」 日本橋高島屋美術画廊X(9/6~9/25)
・「春木麻衣子「vision | noisiv」 TARONASU(~9/30)
・「板東優 ポートレイトから始まる線の果て」 ポーラ・ミュージアム・アネックス(~10/1)
・「レイモン・ドゥパルドン写真展」 シャネル・ネクサス・ホール(~10/1)
・「千年の甍ー古代瓦を葺く」 ギャラリーA4(~10/6)
・「野口里佳 海底」 タカ・イシイギャラリー東京(9/9~10/7)
・「窓学展ー窓から見える世界」 スパイラルガーデン(9/28~10/9)
・「鏡と穴ー彫刻と写真の界面 vol.4 小松浩子」 ギャラリーαM(9/9~10/14)
・「高田唯展 遊泳グラフィック」 クリエイションギャラリーG8(9/19~10/19)
・「青山悟展 News From Nowhere」 ミヅマアートギャラリー(9/20~10/21)
・「かみ展 コズミックワンダーと工藝ぱんくす舎」 資生堂ギャラリー(~10/22)
・「中西夏之展」 SCAI THE BATHHOUSE(9/15~10/28)
・「組版造形 白井敬尚」 ギンザ・グラフィック・ギャラリー(~11/7)
・「超絶記録!西山夘三のすまい採集帖」 リクシルギャラリー(9/7~11/25)

いずれも注目したいのは日本美術です。まずは千葉市美術館にて「鈴木春信展」がはじまります。



「ボストン美術館浮世絵名品展 鈴木春信」@千葉市美術館(9/6~10/23)

江戸時代中期、錦絵誕生の頃に人気を博した浮世絵師、鈴木春信。作品を見る機会こそ少なくありませんが、網羅的な展覧会は多く開かれていません。


千葉市美術館でも約15年ぶりとなる春信展です。世界第1級とも称されるボストン美術館のコレクションが約150点ほど出展されます。早々に出かけるつもりです。

この秋、東京で最も人気を集める展覧会になるかもしれません。東京国立博物館で「運慶展」が開催されます。



「運慶展」@東京国立博物館(9/26~11/26)

現存する運慶作31体のうち、22体も揃う一大展覧会です。史上最大とうたうのもあながち誇張ではありません。公式Twitter(@unkei2017)などのWEB上のプロモーション活動も積極的ですが、公式サイト内の「運慶学園」のコンテンツが思いの外に充実していました。そちらで予め運慶について学んでおくのも良いかもしれません。


春には同じく慶派の仏師、快慶の回顧展もありました。私も見てきました。春の快慶、秋の運慶とあわせて楽しみたいところです。

本格的に元信を取り上げる初めての展覧会だそうです。サントリー美術館にて「天下を治めた絵師 狩野元信」がはじまります。



「天下を治めた絵師 狩野元信」@サントリー美術館(9/16~11/5)

狩野派の始祖、正信の子に生まれた元信は、狩野派を工房組織としても整備し、日本最大の画派へと至る礎を築き上げました。


今回は元信作だけでなく、先人の作品や中国絵画を参照し、幅広い観点から業績を振り返ります。確かに単独での元信展は記憶にありません。日本美術ファン注目の展覧会になりそうです。

それでは今月もどうぞ宜しくお願いします。
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