◆ちゃんとしゃべれ!治納由気(はるなゆき)◆

変な日本語、敬語もどき、崩れていく日本語、そして、正しい日本語とハムスター。

「押しも押されぬ会社に」って?

2009-01-14 19:57:52 | ちゃんとしゃべれ!変な日本語
                      押し合いへし合い
 11日(日)に、定型の言い回しに気をつけようということを書きましたが、今日はその続きです。NHKの番組で、渋~い中堅俳優がナレーターとして「年商30億の押しも押されぬ会社に」などという間抜けなセリフを言うのを聞きました( ̄д ̄)! いつも脇役だけど、実力派でしっかりした役者さん、そんなイメージが崩れちゃいましたよ。
 これは、「『ちゃんとしゃべれ!』-スーパースプレッダーに気をつけて-」にも書いたことなのですが、「押しも押されもせぬ」が正しい形で、だれもが認めてくれるという意味です。この「押しも押されぬ会社に」を聞いたのは『ちゃんとしゃべれ!』を出した後ですから、やはりときどき耳に入ってくる、というか、聞く頻度が徐々に高まっているような気がします。
 「押し」も「押され」もせぬ、「年商30億の押しも押されもせぬ会社に」と言って初めて「だれもが認めるりっぱな年商30億の会社に」ということになるのです。ちょっと考えれば分かることですよね、「押されぬ」と言うのなら、その前の「押しも」は何だというのでしょうか。「押さぬ押されぬ」なら分かりますけど、そんなの聞いたことないわぁ~。
 「押しも押されも」、例えば、百人一首に載っている「これやこの、行くも帰るも別れては、知るも知らぬも逢坂の関」という蝉丸の句のように、「~も~も」と繰り返す表現になっているのが正しいわけで、「~たり~たり」もそうですが、このルールから外れる言い方が広がるのは非常に良くないことです。一体なぜこんな中途半端な言い方が広がるのでしょう? 私は今でも「~たり」が気持ち悪くてしかたありませんよ。
 「今や押しも押されぬエースになった」などと言うベテランナレーター。しゃべるのが商売のナレーター、このごろ、画面の隅にナレーターの名前が出ているのをときどき見かけますが、名前なんか出していいの? ろくな日本語しゃべってないよ! 先日、ベテランキャスターの小倉さんまでが「押しも押されぬ」なんて言いましたよ。もともとこの人の日本語はちゃんとしていませんけどね。
 ところで、「箱根八里は馬でも越すが、越すに越されぬ大井川」という馬子唄を聞いたことはありませんか? 江戸時代、橋のない川を渡るには、人足に渡し賃を払って川越えをさせてもらう必要があり、雨で水量が増えればそれすらできず宿場で待機という困ったことになる、いわゆる難所ですね、このことを「越すに越されぬ」と表現したのですが、これとごっちゃになっているのではないでしょうか( ̄_ ̄)。
 聞いたことがある、見たことがある、うろ覚えのフレーズをまねて表現するというとき、定型の言い回しを用いるとき、ふだんいいかげんにしゃべっていると、(「押しも押されもせぬ」+「押すに押されぬ」)÷2=「押しも押されぬ」・・・なんてことになるようですね。もともとの正しい形をしっかり理解してから使うように気をつけましょう。
コメント
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