◆ちゃんとしゃべれ!治納由気(はるなゆき)◆

変な日本語、敬語もどき、崩れていく日本語、そして、正しい日本語とハムスター。

「精神的に楽にさせてあげたい」って?

2012-09-26 19:08:10 | 気になる言葉、具体例
                              って、思ってるかなぁ

 変な日本語メモを見ていたら、「~してもらう」「~してくれる」「~してあげる」が単純に「~させてもらう」「~させてくれる」「~させてあげる」になってしまっている表現、それも、ちょっと考えさせられる例を見付けました。本当はこれとは違う例を探していたんですけれどね、この際だ、前回の続きを書きます。
 「お父さんは息子をボクサーにさせたいんだね」、これは、どういう人が言ったのか覚えていませんが、このお父さん以外のだれかです。芸能人の「~せていただいて」が脳に染み付いて何となく「させて」と言わなければいけないような気がする、つい「させて」と言ってしまう、そんなところでしょうけれど、「息子を音楽家にしたい」「息子をオリンピック選手にしたい」と言うのが普通ですよね。
 親は子どもに期待しています。世界的な音楽家になってほしいとか、オリンピックでメダルを取ってほしいとか、あれこれ望むことがあって、その実現のために必要な環境を整えて応援しているのなら、お父さんは息子を○○にしたいと思っているわけで、「お父さんは息子をボクサーにしたいんだね」と言えばいいのです。
 そもそも芸能人が「~せていただいて」と言うのは謙虚さをアピールしたいからで、そうでないとすれば、何も考えないで周りに合わせているだけ。「謙虚な人の言葉」と「度の過ぎたアピール」の違いは明らかです。後者の影響を受けているというのは残念なことですが、それ以上に、素直に、的確に表現できない、素直に言えるほどの自信もない、信念もない、そんな気がしてなりません。
 「精神的に楽にさせてあげたい」と言ったのは一般の人だと思うのですが、これ、どう思いますか? 楽をする、楽をさせる、楽になる、どうぞお楽に、楽にする、楽な姿勢、楽に歩ける。先日、久しぶりに健診を受けたのですが、看護師さんから何度か「はい、楽にして~」と言われました。
 「楽にする」は、余計な力を抜く、くつろぐ、といった意味ですね。例えば「その辺に座って楽にしてて」とか「上着を脱いで楽にするといいよ」とか、相手にそうするように勧めることはできますが、自分が相手を直接「楽にする」とは言いにくいような気がします。「楽にしてやる」なんて言われたら怖いし(゜゜)。
 とはいえ、ひどい肩凝りをマッサージや鍼灸といった治療で「楽にしてあげる」と施術者が言う、ストレスで精神的に荒れているのを「楽にしてあげる」とカウンセラーが言う、○は△疾患の患者の◇を楽にする、そういった言い方はあるかもしれませんね。三つ目のは医療関係のディクテーションをやっていたときに何度か聞いた記憶があります。だとすると、「精神的に楽にさせてあげたい」ではなく「精神的に楽にしてあげたい」と言えばいいということになりますが、どうですか。
 では、今度は「精神的に楽にさせてあげたい」の意味を考えてみましょう。「~させてあげる」は「~することを許してあげる」という意味で、息子「僕の好きにさせてくれよ」、母「好きにさせてあげましょうよ」、父「好きにすればいい」、こういう場面を思い浮かべましたが、これは息子の気まま・勝手を許すということですね。でも、「精神的に楽にすることを許してあげたい」は変です。
 というわけで、「楽にさせてあげたい」は誤りということになりますが、「楽にしてあげたい」はなかなか言えないセリフですよ。「楽にさせて」でも「楽にして」でもなく、精神的に楽になるように配慮する、手助けするということで、「精神的に楽になるようにしてあげたい」が最も自然なのではないでしょうか(⌒・⌒)。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 「笑顔にさせてくれる」って? | トップ | 「きっかけになってくださっ... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

気になる言葉、具体例」カテゴリの最新記事