かぶれの世界(新)

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今、誰を救うべきか

2008-04-09 20:58:24 | 社会・経済

米国の大手証券会社ベア・スターンズ救済劇はまことに劇的だった。以来その妥当性を巡って各方面で何かと議論を呼んでいる。その後何が起こったのか追跡する報道を見ると、同社の緊急支援は金融システムを守るため必須であったことが概ね追認されている。

これは、連邦準備銀行(FRB)が今まで以上に金融市場に直接介入するという強い姿勢、即ち、万難を排して金融恐慌を阻止するというバーナンキ議長の明確な意思の現れであった。これを境に市場は徐々に落ち着きを取り戻してきたように私には思える。だが、現状の金融不安を払拭するにはまだ乗り越えなければならない大きな山がある。

救済は経済的には妥当だが

一時的な下降局面はあっても負債デフレの悪循環を食い止めてくれるという安心かが市場に広まった。2002年小泉内閣がメガ銀行救済に公的資金投入を決定後、市場の雰囲気が一変した。金融システムに対する信頼が回復し、その後不良債権の処理が進み株式市場が5年にわたり上昇するきっかけとなったのを思い出す。まさに潮の目が変わった。

それはバブル崩壊10年後のことだった。米国の場合、サブプライム問題が表面化後1年内の素早い対応だった。現時点で潮の目が変わったとまで断言できる状況に無いが、少なくともFRBの強いメッセージは明確に市場に伝わった。 

だが、最良の経済施策は必ずしも最良の政治決定を保証しない。300億ドル(3兆円)という巨額の税金を使われる一般の米国人にとっては、必ずしも納得がいくものとはいえなかった。彼らは、FRBは何故住宅を失った市民でなく、ウォール街を救済しているのか、と問いかけている。

42日の両院合同委員会ではバーナンキ議長に厳しい質問が相次いだと報告されている。それに対し、ベア・スターンズの破綻は広範な金融不安を招くもので待ったなしの対応が必須だった、支援は全額回収する、住宅所有者への支援は議会が決めることだと証言したと報じられている。

つまりこの難局を乗り切る為には、金融政策と財政政策を同時に進める必要がある。言い換えると「私はやるべき事をやった、次は議会がやる番だ」と言いたかったのだろう。

道徳的には許せない

FRBの素早い決断が全ての人に支持されているわけではない。それは必ずしも一般大衆だけではない、経済界からも批判が聞かれる。ウォール街にはベア・スターンズの破綻は自業自得として放っておいた方がよかったのではと思う関係者も多いという。

同社は昨夏、傘下のヘッジファンド2社の破綻でサブプライム市場の崩壊のきっかけを作り、世界を信用不安に陥れた主犯だ。ベアが破綻すれば世界市場の暴落は避けられないだろうが、少なくとも市場の底には近づけただろうと指摘する専門家もいるとビジネスウィーク誌は伝えている。

だが手強い反対は議会からだ。米国議会には公的資金注入には根強い反対論がある。例えば、住宅ローン最大手のカントリーワイド社を買収する銀行バンカメの買収計画が証券取引委員会に提出され、CEOと社長に夫々10億円と9億円の株式配当があることが最近明らかになった。

このモジロCEOとサンボル社長は、サブプライム危機の責任を取って辞任したシティやメリルリンチの元CEOらとともに危機を招いた疑いを持たれており、市民が住宅売却の危機に追い込まれるなか、巨額の報酬を受領していた点が問題視されている。(CNN3/30

特に大統領選を控え民主党内には銀行救済より、個的資金を使って個人のローンをサポートせよという声が強い。しかし一方で、ろくに審査しないで貸した住宅ローン会社と同様に、返す当てもないのにサブプライムローンを借りた人達を易々と救っていいのかという疑問が返ってくる。

マケイン共和党大統領候補はこのような声を代表している。つまり、貸し手、借り手のどちらの救済にも消極的で、当事者間で債務を整理すべきだという立場をとっている。草の根の声とも言うべきこの自己責任の精神は、声高ではないが広範な支持を得ているように私には感じる。(蛇足ながら、日本のメディアなら「被害者イコール正義」みたいな単純な図式を越えられないだろう。)

道徳と経済の両立

金融システムの救済は道徳的善悪を云々する時期を過ぎていると私は思うがが、米国の一般の人達がたった1年で状況を正しく認識して公的資金の注入に理解するのか微妙な時期にあると私は感じる。日本との大きな違いは、メディアを含めてFRBへの信頼の大きさだろう。

日本ではバブル崩壊後、破綻した住専への公的資金注入は国民の理解を得ることが出来なかった。もう後が無い所まで追い込まれて初めて覚悟した。長い間不良債権処理を先送りし、未だにその後遺症が残っている。当時の日本と比べ米国は極めて早い速度で処理をしている。

これは国民の道徳的な感情を無視して物事は進まない証左とも言える。速度が早いが故の問題が起こる。機が熟するのを待って国民の理解を得てやるのが政治的には正しいが、日本の様に問題先送りして林檎の芯まで腐らせる訳には行かない。だが、短時間に道徳(政治)と経済を両立させる解を見つけるのは至難の業だ。

バリー・アイケングリーンUCB教授は効果的で政治的にも受け入れられる金融システムへの資本注入方法を財務省や議会が考え出すまでは、FRBの下支えが必要、だが包括的な救済策をまとめるには時間がかかると指摘している。課題は大きい。住宅所有者、投資家、納税者が、どのように巨額の損失を負担し合うのかを決めなくてはならない。(ビジネスウィーク誌)

損を分け合うと言っても、身に覚えの無い納税者まで負担することになる政府救済策がそう簡単に纏まるはずがない。現時点ではそういうしかないだろうと私も思う。震源地のサブプライム問題はまだ収束していないし、救済策の負担配分が決まるまで個人消費は低迷を続けると見られている。

最後に、救済策ばかりに夢中になり、根本的な原因となったサブプライムローンの不適切な融資慣行、証券化金融商品の不適切なリスク評価、損失飛ばしを許した投資目的会社などを規制して「会計の透明性を高める」施策を忘れてしまうと、市場への信頼が完全に回復する事はないだろう。■

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