先週起きた中川前財務大臣の辞任報道の、腑に落ちないこと、腑に落ちること、について私の経験を交えて少し触れてみたい。
中川前財務大臣の辞任劇は、問題会見の見るに耐えない映像が世界に流れ日本ブランドを著しく傷つけた。又、支持率低下で悩む盟友の麻生首相を一層窮地に追い込んだ。イタリアの国宝とも言うべき博物館での乱行がその後報じられ、中川氏の政治生命はほぼ絶たれた。
何故そんな馬鹿なことをしたのかというより、大臣の周りには常に多くの人たちがいたはずなのに、何故誰一人として彼の醜態を止めなかったのかと、疑問を感じた人が多いはずだ。この事件は海外で起こった為の情報不足とは言い切れない、詳細情報の伝わり方にも私は疑問を感じた。
特に気になるのが、例の酩酊記者会見事件の前に、中川氏はG7の昼食会を抜け出し、市内のレストランで随行記者とワインを飲んだとの指摘だ。記者会見の醜態を繰り返し放映するメディアが、その原因となったと思われるワインの席に同席し一緒に飲んだ馴染みの記者に証言させないというのは、一体どういう了見か。
大臣辞任の原因に関ったか、若しくは少なくとも傍にいた記者が、黙して語らないのは全く理解できない。一国の大臣の進退に関り、更に首相の任命責任を問われる事件の現場に居合わせて、プロの記者が何も語らないとすれば、報道人の責任を果たしていないと私は思う。
彼等は大臣担当の番記者といわれる類の記者で、所謂インナーサークルの仲間として扱われ、優先して情報を入手可能な立場にいたはずだ。これら随行記者は、報道人としての責任を果たすより、インナーサークルの不文律を優先したと考えられる。
この件についてはよく引き合いに出される、日本独自の「記者クラブ」の閉鎖性から生じた問題ではないだろうか。フリーランスの記者である上杉隆氏によれば、記者クラブは日本の新聞・テレビ・通信社の記者しか所属できないギルド(同業者組合)であり、この記者クラブを通してしか官庁や政府及び自治体の組織・要人などを取材できないという。
そうした日本固有の強固なギルドに属する記者たちと、実は取材される側の政治家の多くもギルドの構成要員で、「持ちず持たれずの関係」にあるらしい。担当政治家が出世すると記者も社内で出世する。独自にスクープを獲っても、他紙の追随がないことに不安を覚え虎の子のネタを思わずリークしてしまう、インナーサークルの結束の固さを、上記上杉氏は指摘している。
記者は、中川前大臣の醜態に至る経過をリークせず、インナーサークルの一員として大臣を守った積りかも知れない。或いは、同席して一緒にワインを飲んだからリークしようが無かったのだろうか。こういう記者が書いた記事をまともに信用できないというのが、私が海外のニュースメディアを時々チェックする最大の理由だ。
今回の事件に直接関係ないが、G7のようなハイレベルの国際会議では、同行する女性記者を集めて飲食する習慣があるという。国内での「取材される側と取材する側の緊張関係」が、旅先、特に海外に行くと、突如「お友達関係」になるのは何も政治家と記者の関係だけではない。 民間企業に勤めた私の経験では、この関係の変化が何となくわかる気がする。若い時、海外出張すると国内では遥か雲上人と思っていた重役と、食事の席に呼ばれ親しく口を利く機会が出来た。そこに女性が参加すると雰囲気が変わった経験もある。海外では日本人同士が自然と日本村を作り、そこで日本人女性が優先して扱われる風景を見かけた。女性記者と発想は同じ?■