かぶれの世界(新)

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ターンアラウンド出来ない人達

2010-09-11 23:34:10 | 日記・エッセイ・コラム

毒にも薬にもならないが普段気になっていることを一つ。山の遭難事故の中で、「悪天候とはいえこれほどの経験を積んだ登山家が何故?」と思うような事故が時折報じられる。詳細な事情が分かる前から私は、もしかしたら彼(彼女)等はターンアラウンド出来なかったのではと疑う。

ターンアラウンドとは方向転換、登山の場合だと山登りを諦めて途中のキャンプに戻るか引き返す(ターンバック)場合に使われる。ベストセラーになったエベレスト登山の大量遭難を扱った小説Into Thin Airでは商業登山におけるターンアラウンドの判断がテーマだったと思う。

登山家にとっても残りルートの難易度とその時の天候や体力から、ぎりぎりの判断をするのはそれ程容易ではないようだ。先年起こった北海道登山ツアーの悲劇は、ガイドがターンアラウンド判断を誤まった為だ。先日テレビ番組で紹介されたアルプスの登山ガイドは、途中のチェックポイントに到達するまでの経過時間が規定より遅かったら、ガイドは顧客を下山させるという。

アルプスのように歴史のあるガイド教育がしっかりしているところは別にして、通常は当事者が判断するしかない。アルプスガイドの目標は登頂させることではなく、「登山者を無事に里に戻すこと」というのは、日常生活や経済活動において目的を失い立尽くす私達へのメッセージと感じた。

確かにやりかけた途中でターンアラウンドする難しさは山登りだけではない。先日奥秩父の遭難救助でヘリコプター事故が発生し、その取材で更にテレビ局の二人が遭難した事故はプロとアマチュアが織り成す悲劇だった。悲劇的な多重遭難を避けることは出来なかったのだろうか。

最初にベテランのガイドに率いられたパーティの一人が滑落し死亡した。救急に当った最も優秀といわれるパイロットが操縦するヘリコプターが墜落し搭乗していたクルー全員が死亡した。更に事故取材のため現場に向ったベテラン記者とカメラマンが水死して発見された。

既に心肺停止し時間が経過していたと報じられた老婦人登山のため、ヘリコプターの緊急出動が出動すべきだったか、或いは天候状況を見て引き返す判断はなかったのだろうか。ニュースクルーはガイドの助言で一旦引き返したのに再度山に入ったが、その途中で天候と装備などを考慮してターンアラウンドの判断は出来なかったのだろうか。

別のテレビ番組で、カメラマンはカメラを覗いた途端どこまでも取材対象に迫っていく習性があるという。成る程、この人達はターンアラウンド出来ない人だと思った。ベトナム戦争以来、戦場に赴き銃火に曝され命を失ったカメラマンは多い。私の印象では記者ではなく何故かカメラマンだ。だが、職業が仕向ける習性だけではないかもしれない。

実は私も昔バイクに乗っていた頃、ツアーに出て山道のワインディングで車体を傾けた瞬間にスイッチが入り、里に出るまで理由無く攻める運転をした。四輪しか乗らない今でもハンドルを握るとそういう気分になり、同乗者を怖がらせることがある。気分のターンアラウンドが出来ない。

米国ワシントン州に住んだ時、週末になると近郊のタコマ富士やオリンピック国立公園の山をバックパッキングで歩いた。殆どはテントを背負った単独行なので、冬以外の季節で天候を選んで注意深く行ったが、一旦トレイルヘッドに取り付くと猪突猛進した。早く移動するのもリスクを減らす。

ただ一度だけ遭難の危険を回避したターンアラウンドがあったと思う。それは秋口のタコマ富士で中腹が白くなり始めた頃、シーズンの終わりに西側のハイキングルートを縦走しようとした。麓のロッジには結構ハイカーを見かけたが、軽い装備のデイハイカーが殆どだった。1時間かそこら歩いたところでボタン雪が降り始め、そのうち山道の見分けがつかなくなり始めた。

降雪が酷くなり10-20m先までしか見えなくなったので、適当な木陰を見つけ様子を見ることにした。その間に二組のフル装備のパーティが下山してきたので、行けそうに感じた。だが、雪は益々酷くなり小一時間経って下山することにした。初めてのルートで怖かったこともある。帰りは直前のパーティの足跡も微かに残っている程度で、もう少し遅れたらヤバかったかもしれないと今も思う。

実際は適切な判断が出来るかどうかより、何時が判断の分かれ目となる大事な時かということすら分からないことが多い。総ては後から結果で評価される。それも直後か十年後か分からない。上記のアルプスガイドの番組を見て、教育や訓練で危機を回避することが出来る。初めてなら融通が利かないと批判されても、原則に基づいてターンアラウンドの可否を判断することと思う。■

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