米国型資本主義の代弁者の変節!?
サブプライム問題から底なしの世界同時不況の深みにはまり、米国発のグローバリゼーションと市場経済が一貫して槍玉に挙げられている。例外もあるが、ニュースバラエティ番組は押しなべて米国型資本主義に厳しい見方をしている。このブログのメインテーマである「米国かぶれ」の根拠が問われて、この数ヶ月で一気に少数派になった気がする。
ニュースキャスターやテレビ評論家だけならまだしも、日経ビジネスオンライン(1/26)で米国型資本主義の元祖にて代弁者と見られていた中谷巌教授が、話題の著書で米国型金融資本主義を批判し、「なぜ私は変節したか」と題してインタビューを受けた記事は無視できない、傾聴に値するもののようだ。(実はまだ本は読んでないが、取りあえずインタビュー記事だけ引用させて頂く。)
価値観の問題と中産階級の弱体化
私流に要点を纏めるとこうなる。「日本経済の活力を奪っていた既得権益を打破した小泉構造改革は正しかったし、今も改革の余地は残っている。だが、新自由主義の発想のもと小さな政府を目指す過程で経済学では扱われない重要な日本の価値観が削ぎ落とされた。
具体的には、所得格差が広がり日本の強みである中産階級の厚みがなくなり、日本社会の一体感を毀損、結果として企業等の競争力を弱めた。基本的に階級社会の発想である米国型資本主義を見直して、平等社会の日本には違ったやり方に改めるべきである。」
中谷氏の指摘は長い経験と深い洞察に基づくもので、テレビコメンテーターの底の浅い感情論と同一視できない。しかし、どのように違ったやり方をするのか(それが実は問題)、少なくとも記事では具体的ではなく且つ体系的でもなかった。現下のグローバル資本主義の金融危機は、基本に戻り見直す機会を与えてくれたが、教授の著作は危機が起こる前に書かれたものだという。
何時の日本に戻るか、それが問題だ
日本型経営システムを特徴付ける雇用慣行は、終身雇用と年功序列であり、社員は市民としてよりも共同体としての企業の一員だった。古くは公害から、80年代のバブル、談合等不祥事も、米国型資本主義など取り入れられる前の、この日本型資本主義が深く関わって起こした問題だ。
バブルに狂った当時のことをちょっと思い出せばいい。日本型雇用システムは、社会の一員であることより組織への忠誠を優先した。そんな会社人間がバブル崩壊後も数々の不祥事を起こした。そこには市民としての意識も責任もない、そんな時代に誰が戻りたいのか。
昨今の議論には構造改革そのものを否定する動きがある。だが、その裏で小泉改革により失われた既得権益を巧妙に回復しようとする狙いがあることを見逃してはならない。見直すべきは見直すべきだが、それに便乗して利権の構造を再構築しようとする動きは阻止すべきだ。
当時と比べてもう一つ違うのは、日本の優良企業がグローバル化し、その利益の大半を海外から得て国内に還元している。海外での雇用の方が多い企業もあるはずで、議論が国内の雇用だけでよいものか。良き日本企業としてより、良き世界企業として転換を図る日がいずれ来る。
危機に瀕した時の米国の復元力
私は今回の金融危機から、米国の没落よりむしろ復元力の凄さを感じた。90年代から現在の経済危機まで日本がやって来た事と比べて、米国の対応の早さ、失敗を修正し最善解に到達する仕組み、危機に当たり偉大な指導者を始め適切な人材を為政者に選ぶことが出来る国だと改めて思った。
米国型金融資本主義が引き起こした問題は深刻だ。早急に手を打たなければならない。日米両国の一連の対応を見ると、米国の対応はバブル崩壊後の日本を10倍早回しのビデオで見ているようだとの論評があるが、私も全く同じ印象を持っている。日本の対応は昨今の政治の停滞を見ると比較する気にもならない。
偉大な指導者を生む仕組み
米国が困難に陥った時偉大な指導者を生み、失敗を徹底的に修正し世界をリードしてきた歴史がある。今回、オバマ大統領を選んだのはまだこのシステムが機能していることを証明したと思う(希望も含め!)。他のどの国の政治システムでも彼のような素性の人間に国家の運営を預けるなど考えられない。最良と思われる人材をリーダーに選び、主要な官僚(今回、約8000人といわれる)を入れ替え、政府や市場の失敗を見直し、徹底して修正する仕組みだ。
日本では悲観論ばかりが報じられるが、私はオバマが偉大な指導者になり米国と世界を救う可能性が十分あると思う。彼が果たして最善解に到達するかは定かではない。しかし、建国の精神に戻れという就任演説は、米国の「混沌から最善解に到達する」精神が高められ新たな方向での回復の可能性を感じた。それは、多少個人的な経験が関係している。
結局、個人的な思い込み?
最後に、私の個人的な経験からの思い込みがこの「かぶれ」を支えていることを紹介したい。米国は自動車・計算機・ITから通販まで次々と新たなビジネス(モデル)を生み出し世界をリードして来た。だが、80年代の日米自動車戦争は米国の製造業の弱体化故の摩擦と見られていた。
だが、90年代半ばに米国のITを組み込んだ経営に直に接する機会があり、80年代の日本製造業の優位性から学び、従来のやり方を聖域無く見直し徹底的に経営効率を求める米国型企業経営に衝撃を受けたことがある。私は、数年後に想像も出来ない形で新たなビジネスモデルが出て景気回復をリードしそうな気がする。これも「大胆占い」程度のいい加減な確度ですが。■