オバマ大統領が直面する最大の難題は何か、それは深刻な不況に陥った経済の回復と、イラクからアフガンへシフトさせて対テロ戦争を、制御可能な領域に持っていくことだと見られている。だが、やりようによっては彼の政権基盤を痛撃する問題が他にもある。
上記の二つの難題はまだ手だてがあるが、解が無いかもしれない難題が後に控えている。それは、米国版団塊世代の高齢化だ。移民やヒスパニックの高出生率で人口増が続く米国でも、高齢化の波から避けては通れない。実は、新興国でも時間の問題、高齢化は今世紀の地球規模の問題になるのは間違いない(伝染病か戦争しかこの予測を変えられない)。
高齢化を代表する先進国は日本だ。日本は既に高齢化社会を卒業し、正真正銘の高齢社会になったが、残念なことにその取り組みは政局の中に埋没し、先々どちらに向かうのか不透明だ。
一方、まだ時間の余裕があると思われる米国だが、日本語版ニューズウィーク(1/28)の記事「ベビーブーマーという重荷」によれば、記事自体は目立たないページに押しやられているが、事態はそれほど容易ではない。私にはショッキングな内容だった。以下に要約を紹介する。
米国の65歳以上の高齢者は現在8人に1人、2030年までに5人に1人に増えるという。高齢化社会では若者より高齢者が政治的に優遇される、換言するとアメリカ社会は「未来ではなく過去に投資する」というリスクを冒そうとしている、と記事は指摘している。米国の場合、社会保障を国家予算だけで見てはいけない。
端的な例は、自動車産業の危機は実は世代間の対立であるという。即ち、自動車産業の退職者の年金や医療費の一部負担は経営を圧迫し破綻間際に追い込まれる要因となったが、同時にそれは、若い世代の賃金や福利厚生が減らされたことを意味する。
同じことが国レベルでも起こる。米国のべビーブーム世代(朝鮮動乱後で日本よりやや後に来る厚みのある世代)が退職する近い将来、高齢者の為の3大制度(高齢者社会保障/医療保険・低所得者医療保険)を賄う為大幅な増税が予測される。社会保障費は既に08年度に1.3兆㌦で連邦予算の40%を占めており、このままではオバマの選挙公約は財源が確保できてないという。
今後、若者たちの稼ぎは高齢者に吸い取られると、誠に刺激的な言葉で記事は説明している。財源難でオバマは両世代への公約の片方しか守ることは出来ない。高齢者は団結し権益を守ろうとし、一方、情熱はあるがばらばらで纏まらない若者に勝ち目がなさそうと記事は結んでいる。
この記事を読んでいささか驚いたのは、オバマを大統領に導いた最大の貢献者である若者が敗者になると予測していることだ。大統領選で20‐40代の投票が多い州でオバマが勝利していたのは記憶に新しい。日本は高齢者が政治的に極めて強いが、若者の政治意識が高く人口も多い米国でも、世代間の戦いで高齢者が優勢だとは思わなかった。
悪いことに、オバマ陣営で共に選挙を戦ってきた元上院院内総務のダッシェル氏が、脱税の疑いで労働福祉長官を辞退した。ヒラリー元大統領夫人が一敗地にまみれた医療保険制度改革のことは前にも書いたが、新政権では経験豊かなダッシェル氏が担当することになっていた。扱いを誤ると中期的には大統領の支持基盤が揺らぐことになる恐れがあり、後任人事が注目される。
ここまで書くと、それでは日本はどうなのか、世界はどうなのか、最後に議論してみたい。日本の高齢者は既に20%を超え2030年に米国が到達する高齢社会にある。40%以上の所帯は65歳以上の高齢者がいる。毎日亡くなる人の半分は80歳以上だそうだ。
2050年頃には世界全体が高齢社会に入ると予測されている。つまり高齢化レースは日本が韓国や欧州など先頭グループのトップを争い、米国や中国といえども遅れてその傾向を辿り、その後にも多くの新興国が続いている。それは、世代間の利益配分をめぐる戦いが世界各地で起こることを意味する。
資本主義と共産主義が戦った冷戦とは全く違う形だが、どの国の制度が効率的に機能し社会を活性化するか競争が起こる。そういう視点から医療保険改革を注目してみたい。日本はバブル崩壊と同じく高齢社会に逸早く入ったが、世界が追随する手本に成れそうも無い気がする。後追いの方が安いコストで実現可能だが、先頭集団にいる日本は想像力が一番の頼りになることだ。■