この3ヶ月は母の入退院で東京と田舎の間を何度か行き来したので、どんな本を読んだか余り記憶に残っていない。目録を見ると印象に残るような本を読まなかったともいえる。落ち着いて読書する余裕が無かった。
今回は若干軽量級だが二人のユニークな著者を紹介する。ある意味、二人とも著書の特徴は予言者的な論理展開で、今日の困難な状況を鋭く予測したように私には思える。読者が沢山いることを感じさせる本だった。
これは私の一方的な印象だが、一般にいわゆる学者先生の著作は過去を理路整然と系統だって解説するが、現在や未来がきちんと見えない。余り得意ではないような印象がある。
彼らはその反対でアプローチは異なるが、共通するのは過去と現在を見て分析するが、大事なのはそれでもってどう未来を予測するか、そこに全エネルギーを集中しているように感じる。一人はオーソドックスな、もう一人はエキセントリックな論理を展開し結論を導く。
最初に「ロウアーミドルの衝撃」(大前研一)だ。リーマンショック後に顕著になった消費トレンドを2年前に先取りしているように感じる。著者のものの見方や捉え方は、色々な角度から物事を見たもので、それを分析し導き出す仮説はとても説得力がある。
一方で、副島隆彦氏の2冊の本は突然根拠無く陰謀論が出てきたり、時に下品と感じるほどに乱暴な論理展開で、読んでて飛躍を感じることもある。しかし、著者の繰り出す個々の主張や予測は具体的なデータに基づき鋭い。経済学者より的を得た予測をしているように私には感じる。
(2.0+)利と義と 江藤淳 1983 TBSブリタニカ 昭和56年刊の復刻版で、明治時代の人間像を福沢諭吉や星享などの「利」を説く人材がいたことの意味と、それ以前の儒教的「義」と比して論じている。「利」の国家作りに成功した明治後期から、漱石の「それから」の主人公大助のような「役に立たない」人達が現われ、目的を失った国家の姿を解説している。「坂の上の雲」的見方だ。だが、その後に何故昭和憲法誕生の経緯を付け足したのかとんと理解できない。
(1.5)生き方 稲森和夫 2004 サンマーク出版 今日を懸命に生きると明日が見えてくるとか、長期経営計画は立てたことが無いとか、宗教臭さが鼻につく。ツマミ食いされた感はあるものの、中国の古典とか仏教の死生観は、自らの行き方を振り返らせるものがある。
(2.0+)日本型ポピュリズム 大嶽秀夫 2003 中公新書 日本のポピュリズムは細川政権に始まり、以降小泉政権までの大衆迎合的性格を議論、米国のレーガン政権との違いや田中真紀子の分析、今日の小沢一郎の統制的な党内コントロールを予感させるくだりは興味深い。しかし、ポピュリズムの一方を担うマスコミの分析が不十分で、折角の力作も片手落ちの印象がある。
(1.5)世界の日本人ジョーク集 早坂隆 中公新書 気楽に読める日本人論。海外と付き合う時この典型的な日本人像に見えないよう努力した自分を思い出した。
(1.5)イラク戦争・日本の運命・小泉の運命 立花隆 2004 講談社 2002-4に掲載された月刊「現代」の記事を纏めたもので、イラク戦争と小泉改革を色々な角度から批評したもの。著者の立位置とか思想を展開する時、「ゲッペルス以来の大衆洗脳」とか「憲法改正が小泉の大目標」とか安易と思われる決め付けが、本書の価値を下げ真面目に読もうという意欲を下げさせる。
(2.0-)新聞は生き残れるか 中馬清福 2003 岩波書店 朝日新聞のインサイダーが書いた新聞の危機だが、商品(記事)も経営も期待したより突っ込み不足。飛躍的に部数が増えた高度成長時代の記述は面白いが、それが今日の新聞の苦境の原因と私は感じる。テクノロジーとのかかわりも平板的。ただ、日本のクオリティペーパーの当事者が何を感じているか伺え参考になる。
(2.0)病気にならない生き方 新谷弘実 2005 サンマーク出版 10ヶ月間で27版になっているから人気の書なのだろう。健康は体内に多くのエンザイム(酵素)を取り込むかが重要と著者の仮説を展開。肉・魚や牛乳・ヨーグルトなどから茶・コーヒーを減らし、良い水を飲み植物を食べよと説く。日本人の長寿命は牛乳・ヨーグルトを取るようになったからという公式な見方とどちらが正しい?
(1.5)暴走老人! 藤原知美 2007 文藝春秋 新鮮で興味あるテーマ。先ず、我慢が出来ず切れ易い老人の事例を紹介し、原因としてインターネット・携帯などの新技術が作り出す新しいマナーについて行けてない、デズニーのマニュアル文化が作った感情労働による丁寧化のサービス産業への広がりを示唆するが、論理展開も根拠となるデータが不足し思いつきのように感じる。
(2.0+)熟年性革命報告 小林照幸 2000 文春新書 自らの体験やインタビューと公知の調査結果をベースに、性欲は食欲と同じで年齢で減退せず、むしろ高齢者の生活全体を充実させると説く。いささか驚くだが啓蒙的な内容。老齢国家に向う我国でもっと真剣に研究されるべきテーマ。
(2.0-)連鎖する大暴落 副島隆彦 2008 徳間書店 リーマンショックに先立つベアスターンズの政府救済直後に書かれたもので、サブプライム危機の実態と破綻、シティバンクの窮状とゴールドマンサックスの一人勝ち、ドル暴落からオバマ大統領まで予測している。驚くばかりの予測精度だが、ロックフェラーの陰謀とか論理が乱暴で眉唾に感じる。しかし予測は大当たりだ。
(2.0-)恐慌前夜 副島隆彦 2008 祥伝社 リーマンショック勃発したその日に出版された、まさにタイムリーな書名だ。いささか品の無い言葉使いで極端な決め付けもあるが、適切な状況把握とその後の展開の予測は極めて印象的である。一流の経済学者やアナリストにない鋭さを感じる。
(1.5)マネー動乱 田村賢治 2008 日本経済新聞 リーマンショック1ヶ月後に出版されたが、データの羅列に終わり、世界を震撼させる危機に発展するのを予感させる迫力に欠ける。輸出国からドルが米国に還流し再投資されるドル基軸通貨システムの夫々の金融部品・機能と歴史的説明は網羅的で参考になる。
(2.5)ロウアーミドルの衝撃 大前研一 2006 講談社 少子高齢化と並行して中の下クラス(年収300-600万円)が急増し、このクラスが日本の消費構造を変えると色々な視点から論じている。図らずも大不況の中で合理的消費が進む現状と重ね合わせると面白い。格差拡大よりプラス面から捉える見方が前向きでよいが、著者の上から目線が多少引っ掛かる。
(1.0+)ウォルマートの真実 西山和宏 2002 ダイヤモンド社 Kマートが破綻後に書かれ、ウォルマートの強みは取引先、流通とカテゴリー管理を総合した膨大なITによる合理化と粗利益率を20%以下に抑える低価格戦略。専門家には中途半端、読み物としてもつまらない。
(1.0-)ドル帝国の崩壊 マイケル・コヤマ 2008 イーストプレス ドル暴落でぼろ儲けを狙う陰謀と基軸通貨の新体制を目指す国際チームの戦いを描く近未来小説。荒唐無稽で紙の無駄使い。
(2.0-)資産運用のからくり 安間伸 2003 東洋経済 複雑な投資税制を金融商品毎に素人向けに解説したもので、自民党政権時代に業界の要求を取り入れツギハギの複雑な税制を理解する上で参考になる。本書の底流にある考え方はレーガン時代に税制を簡素化した発想の延長線上にあり、それは今でも有効である。
私が最も興味を持って読んだのは、実は現在進行中の政権交代後の政治がどう変化するか理解する助けになることを期待した「日本型ポピュリズム」(大武秀夫)だった。若干期待外れだったのは、書かれた時期からテーマに限りがあった為で、続編が書かれれば是非読んでみたい。■