内閣支持率低下がトレンドに
鳩山政権が発足以来、3ヶ月が経過した。新政権の評価を控える猶予期間100日ルールはとっくに無視され拙速な評価もあった。だが、3ヶ月も経つと政権特有の骨格や力関係などが明確になり、新内閣の問題点を指摘しても的外れではなくなってきたと感じる。
一昨日のNHK放送等最近のメディアの世論調査によれば、内閣支持率が初期の70-80%という高支持率を維持できず低落幅が徐々に大きくなる傾向が明らかになってきた。このトレンドが続けば、更に支持率を下げ来年始めには50%を切るのは避けられないようだ。
本当の問題は、内閣支持率低下が続いても不思議ではない材料が揃っていることだ。つまり、鳩山内閣は当初の国民の期待に応えられず、一部に失望感が深まりつつあることだ。その視点から3ヶ月目の鳩山政権の評価分析を私なりにしてみたい。
希望を与えた政策決定プロセス
HowとWhatに分けて議論したい。先ずはHowだ。政権の政策決定プロセス、つまりどうやって政策を決めるかのショーケースとして、事業仕分けは国民に大きな期待を与えた。今日でも鳩山政権が50%以上の支持率を保っているのは、この事業仕分けに代表される透明でオープンなプロセスのお陰だ。
そこで国民の聞きたい議論が交わされ新鮮な驚きを与えた。だがその後の展開は必ずしも透明でも国民が望んだものでもなかった。現在までの報道を見る限り、政治主導という政策決定は迷走し、3党連合プラス小沢幹事長が鍵を握っていることが明らかになってきた。少なくとも今の所は。
個別政策は現実に直面して迷走
次はWhat、つまり政策そのものだ。新政権が成し遂げた主要な政策は郵政民営化の見直しとモラトリアム法案だけ、普天間問題で迷走を続け日米関係を傷つけ、マクロ経済政策は皆無で世界から取り残され、謳い文句だった脱官僚は遅々として進まず後退姿勢が目立つ。基本となる政策の優先順位付けが明確でないのが迷走の原因だ。
言い換えれば、民主党に投票した大多数の国民の期待に応える前に、1%前後の国民しか支持しない党の政策を優先して実現しようとしているように私には思える。国民が望んだ長年の自民党政治の垢を取り去るとした約束した、脱官僚・無駄使いの撲滅・子供手当て等は不透明なままだ。党内の色々な立場からの意見を纏めて落としどころを見つける役割がこの政権にはない。
ポイントオブノーリターン
私は先ず公平で透明な政策決定プロセスが確立されれば、多少のギクシャクはあっても長い目で見れば民主党政権に任せるほうが国民にとって良い選択になると考えていた。しかし、今100日も経たないうちにその信頼が揺らいでいると感じる。と言うのは、我国がポイントオブノーリターンの近くまで来ていると思うからだ。
その一つには、普天間基地問題が先送りされこれ以上日米関係が悪化すれば、両国トップの信頼関係に傷を付けた。更に悪化すると、元に戻すことなど出来なくなり、最終的に我が国の安全保障が脅かされることになると懸念するからだ。「トラストミー」と言って翌日それを否定する発言をしたのは最悪で、少なくとも個人的な関係は大きく傷ついたのは間違いない。信用できない男と烙印を押されたも同然だ。これが大統領の任期中ずっと続くと思うと我が国の損失は極めて大きい。
二つ目は、世界から取り残されいまや「民主党不況」とまで言われる日本経済は、国を代表する輸出産業の多くが一斉に海外展開を早めており、一旦雇用が失われるともう元には戻らないからだ。雇用を生み我が国を支えていく輸出企業が逃げ出した上に、新たなリスクに立ち向かう挑戦者を元気付け報いてやる政策がなく、企業家精神を育てる土壌が劣化していく感じだ。
司令塔の役割を果たさないリーダー
未だに司令塔になるべき鳩山首相が一体何を考えているのか分からない。普天間問題や財源問題で発言のブレが目立ち、意思決定できず右往左往する様子が連日報道され、リーダーとしての資質に疑いが生じている。「決めないと言う決断」をしたと揶揄する海外メディアの記事を見て、何でこんなこと言われなきゃいけないのか情けないと思う。
結果として大臣が夫々の省の考えをバラバラに発言し収拾が付かなくなり政治主導が機能しなくなっている。それが又、小沢幹事長待ちの姿勢になり氏の突出振りが目立つという悪循環になっている。鳩山氏を支える官房長官の実力不足も責任の一端がある。このままでは来年度予算を纏め切れるのかと皆が不安を持った時、救世主が何を捨てて何を拾うか提案を持って現われた。
小沢的手法の見えない怖さ
いまや小沢幹事長が実質上の実権を持ち、更に拡大してく勢いだ。その水平線のかなたに見える黒雲は、彼が政策の一貫性より権力志向が勝っている様に見られることだ。それは新政権の政策決定プロセスの透明化とは相容れず、いつか矛盾が噴出し政局になる可能性があると私は予測する。だが、それでも密室政治の自民党政権時代に比べればまだマシな部分があるのも事実だ。
一部で指摘されている米国から中国へ重点のシフトは、長期的に見て妥当かどうか懸念がある。正直私には分からない。中国の経済力は圧倒的な魅力だが、共産党独裁体制維持が全てに優先する国だ。過ちを犯すことはあっても自由主義という普遍的思想を国是とする米国との関係を悪化させることが、長期的には我が国の価値観を傷つけることにならないだろうか。小沢氏が圧倒的権力を手にした時、どこに向かうのか線引きが曖昧な怖さを感じる。
支持率は下がり、縮小均衡が続く
内閣支持率はジリ貧、今後も下がり続けるだろう。市場について言えば既に信任を失った。世界の主要国が株価を回復した中で、海外の投資家は日本市場から引き上げ、日本の一人負け状態だ。日本を牽引する輸出産業は海外拠点にシフトし始めた。派遣を禁止しても肝心の雇用が減ったままだ。
かつて「経済が悪化し米国の信頼を失った政権は長続きしない」と言われてきた。今回はどうか、却って小沢支配が強まることになるという見方に私も同意する。その究極が、自民党政権時代に最大派閥の意向で首相を次々と交代させ危機を乗り切った構図で、これが復活しそうな勢いだ。3ヶ月間で誰が鳩山氏の代わりになるか見えてきた。
内閣の支持率は低下するが、民主党の支持率は一定値を維持する構図が実現すれば、小沢氏が実権を握り首相を取り替えるお馴染みのパターンが再現することになろう。彼のプライオリティは、選挙に勝ち続ける安定した集票マシーンの構築にあり、その為の政策が優先されることは間違いない。
最後に世界の中での日本はどういう位置付けになるだろうか。民主党政権が4年間続くとして、その間我が国は縮小均衡の傾向が止まらず、経済的なキープレイヤーのポジションを失うのは避けられないだろう。だが、来るべき高齢社会の辿る道としてそれが一概に悪いと言えないかもしれない。先々もっと惨めな思いをする可能性はある、実験はまだ始まったばかりだ。■