見もの・読みもの日記

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京都レポート(2):近世の花鳥画

2006-07-04 21:40:42 | 行ったもの(美術館・見仏)
○泉屋博古館 平成18年度春季企画展『近世の花鳥画』

http://www.sen-oku.or.jp/

 たまたま、この企画展のTOPページを見て「ん?この絵は若冲ではないか?」と思った。桜とも桃ともつかない、白い花の咲く木の枝に、愛らしい目白が並んでいる。鮮やかな色彩、画面に横溢する生命感が『動植綵絵』によく似ている。「主な展示品」のページに入っていったら、やっぱりそうで、若冲筆『海棠目白図』という紹介があった。しかし、私は、この絵を知らなかった。ええ~大概の若冲作品は知っている自信があったのに。試みに2000年に京博で開かれた若冲展の図録をめくってみたが、載っていない。2003年に泉屋博古館で展示された記録があるようだが、他館へは出品していないのかな。

 結局、この作品のホンモノ見たさに京都旅行を決断してしまった。解説によれば、若冲40代前半、『動植綵絵』に着手する前後の作品だろうという。画面は、上部に海棠、下部に木蓮を描く。どちらも白い花だが、花顎と葉の色調に変化がある。

 ゆったりと湾曲した海棠の枝に「目白押し」状態のメジロが9羽。うち1羽がほぼ真横を向いて、左下に体を傾げている。そのくちばしの先を目で追うと、なぜか仲間に背を向けて、尾を垂れ「瞑目するか」のごときメジロが1羽。一段高い枝では、ジョウビタキがオレンジ色の腹を見せて、画面右寄りのメジロの群れをくちばしで示している。この三者の作る三角形の構図が、そこはかとない緊張感を作り出していて、面白い。群れを外れたメジロは若冲の自画像ではないか、というのは、誰もが想像するところだけど、では、あのジョウビタキは何者なんだろうなあ。

 さて、それ以外の作品も、なかなか見応えがあって面白かった。狩野探幽の『桃鳩図(ももはとず、とルビが振ってあった)』は徽宗筆の写し。原画を尊重しつつ「現実の鳩の姿に近づける配慮」をしている、とあったが、そのためか、なんとなく鳩の姿が中途半端である。

 気に入ったのは椿椿山の三幅対。中央の『玉堂富貴』は、天空に吊り下げられた花籠を描く。牡丹、藤、木蓮など、豪奢な切り花が籠からあふれんばかりに盛られている。左右は幅の狭い画幅で、右は水草の間で群れ遊ぶ小魚を描いた『藻魚図』。左は草むらの上を舞う『遊蝶』。淡白な構図と色彩が、中央の画面と対比的である。空気に透明感があって、幻想的で美しい。同じ画家の『野雉臨水図』も色調がおもしろくて、どこかイギリスのステンシルアートふうだなあと思っていたら、私は、以前にも似たようなことを書いていた。この名前、記憶があると思ったら!

 田野村直入の『花卉図巻』は、これまでにない鮮やかな発色の絵具が使われていて「幕末という時代を感じさせる」と解説にあったが、むしろ背中合わせのケースに展示されていた、呉春の『蔬菜図巻』に、私は興奮してしまった。上手いなー。墨の濃淡に、一色か二色を足しているだけ。でも、それだけで何でも描けるという自信にあふれている。茄子のつるりとした光沢、筍の皮のごわごわ感も描けているし、空豆や牛蒡は、味や香りまで伝わってくるようだ。面白かった。
コメント
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