○東京国立博物館 プライスコレクション『若冲と江戸絵画』展
http://www.tnm.jp/
いよいよ、この展覧会が始まるということは、なんとなく認識していた。しかし、「好きなものは最後に食べる」性格の私は、こんなにすぐに見に行こうとは計画していなかった。ところが、たまたま金曜日の飲み会の席で、初対面の人物から「きのう、若冲を見てきたんですよ!」という話題を振られてしまったのである。あっ、もうダメ...
まあ、早く行ったほうが空いているかもしれない。というわけで、ガマンできなくなって、日曜に出かけた。朝の早い時間だったので、会場は思ったほど混んでいない。ふむ。若冲ブームといわれるけれど、やっぱり、北斎や雪舟ほどではないんだな。
会場に入るとすぐ、蘆雪のトラが出迎えてくれる。うーむ。この位置に、若冲ではなく、蘆雪を持ってきたか。嬉しいような、外されたような。ぐるりとあたりを見回すと、第1室は「正統派絵画」と題して、狩野派らしい花鳥図や祭礼図の屏風が並んでいる。十分、見応えのある作品揃いである。
しかし、プライス・コレクションといえば、やっぱり若冲。とりわけ、見ものは”タイルのぞうさん”(鳥獣花木図屏風)である。どうしよう。第1室から順に見ていくべきか、若冲のセクションに走るべきか、しばし迷ったが、結局、後者を選択することにした。第3室「エキセントリック」と題された部屋に入ると、いた! 青い空(海?)をバックに、白いぞうさんが。
この絵の存在を知ったのは、早い。90年代、たぶん「新潮日本美術文庫」の「若冲」で見たのが最初だったと思う。はじめ『動植綵絵』などの超リアリズムから若冲に入門した私は、デザイン感覚に優れた水墨画にもびっくりしたし、この絵には、さらにびっくりしてしまった。これは江戸絵画なのか? そもそも日本美術なのか!? まあ、何でもいい。隣に並んだ小学生の兄弟が「あっムササビ!」「オウム、オウム」と飽きずに歓声をあげていた。小学生をこれだけ大喜びさせる日本美術があることが、うれしい。
2003年、六本木・森美術館の『ハピネス』展に行きそびれてしまった私は、10年越しの念願が叶っての対面だった。白いぞうさんは、風船のような体躯を正面に向けて、見る者の視線を、やさしい目で見返している。そのまわりを取り囲む、ヒョウ、ラクダ、イノシシ、ヤマアラシ、キリン(中国風の)などの動物たち。ある者は子供のような好奇心にあふれ、ある者はトボけたおじいちゃんのような、愛らしい表情をしている。たわわな赤い果実をみのらせた木の枝で遊ぶ、サルやムササビ。白く波立つ紺青の海では、ウマが泳いでいる。
なるほど、ここはハピネスの国かもしれない。ここでは時間が止まっている。この絵の中に入っていけたら、二百年前の若冲とでも、普通に会話できそうな気がする。いや、中央の白象は、二千年前の釈迦を背中に乗せたことがあるかも知れない。時代も歴史もなく――人生における「時間」、成熟とか老いとかも超越しているように思える。急いで付け加えれば、それは老いや成熟の拒絶ではなく(これは痛々しいものだ)、老年期に再び取り戻された、本当に輝かしい童心である。
そんな想いをめぐらしながら『鳥獣花木図屏風』の前を離れ、若冲のセクションをひととおり見て、先頭の第1室に戻った。そんなわけで、この展覧会のレポート、別項に続く。
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いよいよ、この展覧会が始まるということは、なんとなく認識していた。しかし、「好きなものは最後に食べる」性格の私は、こんなにすぐに見に行こうとは計画していなかった。ところが、たまたま金曜日の飲み会の席で、初対面の人物から「きのう、若冲を見てきたんですよ!」という話題を振られてしまったのである。あっ、もうダメ...
まあ、早く行ったほうが空いているかもしれない。というわけで、ガマンできなくなって、日曜に出かけた。朝の早い時間だったので、会場は思ったほど混んでいない。ふむ。若冲ブームといわれるけれど、やっぱり、北斎や雪舟ほどではないんだな。
会場に入るとすぐ、蘆雪のトラが出迎えてくれる。うーむ。この位置に、若冲ではなく、蘆雪を持ってきたか。嬉しいような、外されたような。ぐるりとあたりを見回すと、第1室は「正統派絵画」と題して、狩野派らしい花鳥図や祭礼図の屏風が並んでいる。十分、見応えのある作品揃いである。
しかし、プライス・コレクションといえば、やっぱり若冲。とりわけ、見ものは”タイルのぞうさん”(鳥獣花木図屏風)である。どうしよう。第1室から順に見ていくべきか、若冲のセクションに走るべきか、しばし迷ったが、結局、後者を選択することにした。第3室「エキセントリック」と題された部屋に入ると、いた! 青い空(海?)をバックに、白いぞうさんが。
この絵の存在を知ったのは、早い。90年代、たぶん「新潮日本美術文庫」の「若冲」で見たのが最初だったと思う。はじめ『動植綵絵』などの超リアリズムから若冲に入門した私は、デザイン感覚に優れた水墨画にもびっくりしたし、この絵には、さらにびっくりしてしまった。これは江戸絵画なのか? そもそも日本美術なのか!? まあ、何でもいい。隣に並んだ小学生の兄弟が「あっムササビ!」「オウム、オウム」と飽きずに歓声をあげていた。小学生をこれだけ大喜びさせる日本美術があることが、うれしい。
2003年、六本木・森美術館の『ハピネス』展に行きそびれてしまった私は、10年越しの念願が叶っての対面だった。白いぞうさんは、風船のような体躯を正面に向けて、見る者の視線を、やさしい目で見返している。そのまわりを取り囲む、ヒョウ、ラクダ、イノシシ、ヤマアラシ、キリン(中国風の)などの動物たち。ある者は子供のような好奇心にあふれ、ある者はトボけたおじいちゃんのような、愛らしい表情をしている。たわわな赤い果実をみのらせた木の枝で遊ぶ、サルやムササビ。白く波立つ紺青の海では、ウマが泳いでいる。
なるほど、ここはハピネスの国かもしれない。ここでは時間が止まっている。この絵の中に入っていけたら、二百年前の若冲とでも、普通に会話できそうな気がする。いや、中央の白象は、二千年前の釈迦を背中に乗せたことがあるかも知れない。時代も歴史もなく――人生における「時間」、成熟とか老いとかも超越しているように思える。急いで付け加えれば、それは老いや成熟の拒絶ではなく(これは痛々しいものだ)、老年期に再び取り戻された、本当に輝かしい童心である。
そんな想いをめぐらしながら『鳥獣花木図屏風』の前を離れ、若冲のセクションをひととおり見て、先頭の第1室に戻った。そんなわけで、この展覧会のレポート、別項に続く。