見もの・読みもの日記

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京都レポート(1):京大文学部百周年

2006-07-03 00:16:01 | 行ったもの(美術館・見仏)
○京都大学総合博物館 『文学部創立百周年記念展示-百年が集めた千年』
 
http://www.museum.kyoto-u.ac.jp/indexj.html

 週末の京都旅行で見てきた展覧会のレポートを、順次、上げていく。今回は少し下調べをして出かけたので、唯一9時半に開くこの博物館に、最初に行こうと決めていた。

 開館と同時に飛び込むつもりで、5分ほど前に到着すると、私服姿の若い女の子が、200人近くも集まっている。しかも「おはよう~」と挨拶を交わしながら、どんどん増えていく気配。開館時間になると、係員の誘導で、博物館の中に入り始めた。短大か何かの見学実習らしい。

 迷惑だな~と思ったが、いたしかたない。係員の方に「今日は一般の見学も入れるんですか?」と聞いてみると「どうぞ、こちらから」と別のゲートに案内してくれた。女の子たちが1階のホールに滞留している間に、とりいそぎ、2階の企画展示室に上がってしまう。

 この企画展示は、京大文学部の創立百周年を記念するものだ。数は25点と少ないが、地域は西から東まで、時代は11世紀から20世紀まで、書籍のほか、絵巻、奈良絵本、地図、書簡、経典、考古遺物まで、バラエティに富んだ内容である。

 京大文学部は、明治39年(1906)文科大学の設置を始まりとするが、それ以前も、附属図書館初代館長・島文次郎の努力によって、貴重な資料の収集に努めてきた。その後、震災にも戦災にも遭わず、現在は93万冊の蔵書を抱えているという。この「震災にも戦災にも遭わず」という奇跡的な幸運が、東京人である私には、しみじみとうらやましい。東京(および東大)が日本の政治的中枢であることを、どんなに誇ったとしても、京都(および京大)が伝えている文化の厚みには、到底かなわないという感じがする。

 今回の展示に限っても、中国西南部に住む少数民族、彝(イ)族が使用するロロ語で書かれた『祭祖大経』あり、契丹文字を刻んだ黄金の『チンギス・カン聖旨牌』あり、西夏文字の『華厳経』あり、チベット大蔵経あり、朝鮮古活字本の『朱子語類』(内賜本)あり。西洋に目を向ければ、インキュナブラ(15世紀印刷本)の『アウグスティヌス・アンセルムス著作集』あり。稀覯本とされる、カントの『純粋理性批判』初版本や、グリム兄弟『ドイツ語辞典』第1巻初版本も、同じ室内に並んでいる。余計な説明は抜きにして、このすごさ!

 印象的だったのは、1910年製作の『混一疆理歴代国都之図』。1402年に李氏朝鮮で作られ、大谷光瑞が所持していた(現在は龍谷大が所蔵)が、京大文学部地理学教室初代教授の小川琢治(小川環樹兄弟の父)が写本を作ったものだという。傷みの多い龍谷図より文字が鮮明で、今日の研究に役立っているそうだ。

 1901年製作のファクシミリ版『イリアス』もあった。原本は、1781年に発見された『イリアス』の最古の写本で、イタリアのサン・マルコ図書館が所蔵する。また、『キタイの武人像』(壁画)は、残念ながら原本の展示期間が終わっていて、複製展示になっていたのだが、暗い室内では、複製と気づかないほどよくできている。高精彩の写真画像を木枠にはめただけなんだけど。

 原本の保存はもちろん大事だけど、資料を利用できなければ、大学の研究活動は成り立たない。精巧な複製を作り、提供し、共有することの意義を考えた展示でもあった。
コメント
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