見もの・読みもの日記

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幕間(まくあい)の美術館/知られざる歌舞伎座の名画(山種美術館)

2011-10-26 21:09:56 | 行ったもの(美術館・見仏)
山種美術館 歌舞伎座建替記念特別展『知られざる歌舞伎座の名画』(2011年9月17日~11月6日)

 改修中の今だから、可能となった歌舞伎座名画展。出品リストをちらりと見たら、高橋由一とか岡田三郎助とか和田英作とか、私の好きな近代初期の洋画家たちの名前があったので、見に行くことにした。

 会場の説明パネルによれば、歌舞伎座の建物は、平成25年(2013)完成予定の新劇場が第5期にあたる。明治22年(1889)に建てられた第1期の歌舞伎座は洋風建築(ただし内部は和風)だったが、明治44年(1911)に大改築されて、純日本式の宮殿風になった。絵画の収集を始めたのは、昭和26年(1951)、第4期の歌舞伎座再建以来のことらしい。企業などから提供された絵画が掲げられ、「幕間(まくあい)の美術館」として人々を楽しませてきた。ということは、とびきり古い高橋由一の『墨堤櫻花』(明治9-10年頃)をはじめ、浅井忠、和田英作などの作品も、明治時代の歌舞伎座にかかっていたわけではなくて、戦後に購入or寄贈されたものなのだろう。

 明治期の作品で、最も興味深かったのは、亀井至一『山茶花の局(美女弾琴図)』(明治23年/1890)。第3回内国勧業博覧会に出品された『深殿弾琴之図』と、ほぼ同一構図の第二作とされる。モデルは、煙草王・村井吉兵衛の妻で、明治天皇の女官をつとめた日野西薫子。亀井の第一作は、博覧会会場で原田直次郎の『騎龍観音』をしのぐ人気となり、宮内庁買い上げとなったが、現在の所在は確認できない。以上、展示図録の解説によるが、チェックポイントがありすぎ!! 村井吉兵衛といえば、来月から京都の長楽館で『京都が生んだ明治のHERO 村井吉兵衛展』(11月6日~11月20日)開催のニュースを見つけてしまったし、日野西薫子といえばマンガ『公家侍秘録』の登場人物、原田直次郎といえば森鴎外のドイツ留学時代の友人である。

 画家・亀井至一の名前は初めて聞いたので、少し調べてみたら「横山松三郎に洋画と石版術をまなぶ」「玄々堂で画工をしていた」等の情報を拾った。画中の「山茶花の局」は、豊かな黒髪を大きな髷に結い、目鼻立ちのはっきりした、いくぶんバタくさい美人である。

 伊東深水とか鏑木清方とか上村松園の描く、アッサリ顔の和装美人は、昭和の作品。気をつけないと、時代錯誤感があるな、と思う。好きなのは、犬種の違う(性格も違いそうな)2匹のじゃれあいを描いた、小林古径の『犬(庭の片隅)』。速水御舟の『花ノ傍』は、たたみこむようなストライプ模様の交錯が面白く、最後に見る者の視線は、モデルの足元に寝そべる1匹の犬(スピッツかな?)に行きつく。

 川端龍子の『青獅子』は、ストレートに私好みではないのだが、魅力は分かる。むかし、池田理代子の少女マンガに出会ったときの感覚に似ている。片岡球子『花咲く富士』は、安定感のある魅力。こうして見ると、歌舞伎座って(あまり行ったことがないのだが)芝居の演目や観劇をテーマに描いた作品は少ないんだな。

 名優の短冊、明治の歌舞伎番付など、歴史資料も出品されていたが、珍品は、マッカーサーの手紙(歌舞伎座の再開を祝した)とリッジウェイの手紙(歌舞伎を鑑賞した後の礼状)だろう。全文日本語役が掲げられており、読んでみると、かなり余計なお世話だと感じるところもある。
コメント
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