○『大明帝国 朱元璋』(2006年、上海三九文化発展有限公司、中国国際電視総公司制作)
夏から『GyaO!ストア』で見ていたドラマを見終わった。全46話を見終えるのに、840円×8=6,720円。ネットで配信ドラマを購入するのは初めての体験だったので、高いか安いかは判断がつかない。
ドラマは面白かった。貧民から身を興し、明王朝の太祖となった朱元璋(洪武帝)の生涯を描く。貧窮の中で父母を失い、孤児となって寺で成長した朱重八。幼なじみに、やがて義兄弟の盟約を結び、明建国の功臣となる徐達、湯和がいる。長じて、郭子興の義軍に入り、馬姑娘(のちの馬太后)を娶って、郭子興軍を受け継ぐ。元、漢(陳友諒)、呉(張士誠)の三軍を撃破して、ついに大明皇帝となる。
ここまでが前半。陳友諒との激烈な水上戦(鄱陽湖での戦い)が見どころ。映画『レッドクリフ』で、派手に火薬を使っていたのには苦笑したが、この時代設定ならOKか。李善長、劉伯温という2人の軍師が幕僚に加わる。軍師というより、民政担当と考えるほうが正しいかも。
北伐によって元の残存勢力を一蹴すると、活躍の場を失った将軍たちの間に、恩賞・封爵をめぐって不満が渦巻く。続いて、文官たちの陰湿な権力争い。楊憲、胡惟庸は、相次いで、皇帝・朱元璋に取り入り、さらには欺こうとする。ひとり栄達に背を向け、故郷に帰ることを望む劉伯温。しかし、朱元璋はこれを許さない。そんな劉伯温に嫉妬し、自らの立場を守ろうとする李善長。
後半は、朱元璋の頑固で冷酷な暗黒面がクローズアップされる。陰惨なエピソードが続くので、もう見るのをやめようかとも思った。朱元璋は、やがて皇位を継ぐ、心やさしい息子・朱標のために、全ての奸臣を取り除いておこうと奮迅する。しかし、朱標は、父より先に早世してしまい、朱元璋を支えた賢夫人・馬太后も没する。この、次々に登場人物が没していく最後の5話くらいは見ごたえがあって、引きこまれた。朱元璋を演じている胡軍の「老い」の演技が、思った以上によかった。
いや、俳優さんはみんなよかった。低予算ドラマなのか、衣装とか小道具はわりと安っぽかったと思うのだが、登場人物の魅力にひかれて、最後まで見てしまった。折々、史実を確認しながら見ていたのだが、ほんとに中国史って過酷だなあ。李善長なんて、明王朝の筆頭功臣とされ、左丞相まで栄達したのに、76歳で罪を問われて自害させられる。これだから、中国の官僚は、命のあるうちに隠棲したいと思うんだろうなあ。ドラマでは、刑場に引き立てられる李善長が、朱元璋を罵る藍玉をさえぎって「あの方は千年にひとりの天が選んだ皇帝なのだ! わしが皇帝でも李善長を罰する!」みたいなことを叫ぶ。このドラマ、いろいろとお爺ちゃんがカッコいいのである。劉伯温(劉基)は、中国では有名人なのだそうだ。二階堂先生が書いている。
徐達は、Wikiに「(朱元璋に)毒殺されたとみる説も故ないことではない」とある。ドラマでも、ちょっと微妙な描き方をしていた。「南京にある徐達の邸宅は『瞻園・太平天国歴史博物館』として現存している」というリンク先を見て、自分が観光でここに行ったことがあるのを思い出した。そうか、あれ、徐達アニキの邸宅だったのか!と、ちょっと嬉しい。架空キャラでは、二虎、玉児(投獄中のすっぴん顔のほうが美人)夫妻が癒し系で、謎キャラの呉風も好きだった。
朱元璋といえば、あまりにも相貌の異なる二種類の肖像画が伝わることで有名だが、ドラマの最終話では、童女・小青(李善長の一族という設定)が「こっちはいい人すぎる、あっちは怖すぎる」と不思議がるのに対し、朱元璋が「どちらも爺々の顔なんだよ」と語りかけるのが、一種の「謎解き」になっている。ラストシーン、落日を背景に、静かに息絶える朱元璋の姿にかぶさるナレーションも「その功罪はいまだ決していない」と述べるのが、いかにも中国の歴史ドラマらしい。中国の歴史って、千年経っても功罪が決しない人物がたくさんいるからなあ。
夏から『GyaO!ストア』で見ていたドラマを見終わった。全46話を見終えるのに、840円×8=6,720円。ネットで配信ドラマを購入するのは初めての体験だったので、高いか安いかは判断がつかない。
ドラマは面白かった。貧民から身を興し、明王朝の太祖となった朱元璋(洪武帝)の生涯を描く。貧窮の中で父母を失い、孤児となって寺で成長した朱重八。幼なじみに、やがて義兄弟の盟約を結び、明建国の功臣となる徐達、湯和がいる。長じて、郭子興の義軍に入り、馬姑娘(のちの馬太后)を娶って、郭子興軍を受け継ぐ。元、漢(陳友諒)、呉(張士誠)の三軍を撃破して、ついに大明皇帝となる。
ここまでが前半。陳友諒との激烈な水上戦(鄱陽湖での戦い)が見どころ。映画『レッドクリフ』で、派手に火薬を使っていたのには苦笑したが、この時代設定ならOKか。李善長、劉伯温という2人の軍師が幕僚に加わる。軍師というより、民政担当と考えるほうが正しいかも。
北伐によって元の残存勢力を一蹴すると、活躍の場を失った将軍たちの間に、恩賞・封爵をめぐって不満が渦巻く。続いて、文官たちの陰湿な権力争い。楊憲、胡惟庸は、相次いで、皇帝・朱元璋に取り入り、さらには欺こうとする。ひとり栄達に背を向け、故郷に帰ることを望む劉伯温。しかし、朱元璋はこれを許さない。そんな劉伯温に嫉妬し、自らの立場を守ろうとする李善長。
後半は、朱元璋の頑固で冷酷な暗黒面がクローズアップされる。陰惨なエピソードが続くので、もう見るのをやめようかとも思った。朱元璋は、やがて皇位を継ぐ、心やさしい息子・朱標のために、全ての奸臣を取り除いておこうと奮迅する。しかし、朱標は、父より先に早世してしまい、朱元璋を支えた賢夫人・馬太后も没する。この、次々に登場人物が没していく最後の5話くらいは見ごたえがあって、引きこまれた。朱元璋を演じている胡軍の「老い」の演技が、思った以上によかった。
いや、俳優さんはみんなよかった。低予算ドラマなのか、衣装とか小道具はわりと安っぽかったと思うのだが、登場人物の魅力にひかれて、最後まで見てしまった。折々、史実を確認しながら見ていたのだが、ほんとに中国史って過酷だなあ。李善長なんて、明王朝の筆頭功臣とされ、左丞相まで栄達したのに、76歳で罪を問われて自害させられる。これだから、中国の官僚は、命のあるうちに隠棲したいと思うんだろうなあ。ドラマでは、刑場に引き立てられる李善長が、朱元璋を罵る藍玉をさえぎって「あの方は千年にひとりの天が選んだ皇帝なのだ! わしが皇帝でも李善長を罰する!」みたいなことを叫ぶ。このドラマ、いろいろとお爺ちゃんがカッコいいのである。劉伯温(劉基)は、中国では有名人なのだそうだ。二階堂先生が書いている。
徐達は、Wikiに「(朱元璋に)毒殺されたとみる説も故ないことではない」とある。ドラマでも、ちょっと微妙な描き方をしていた。「南京にある徐達の邸宅は『瞻園・太平天国歴史博物館』として現存している」というリンク先を見て、自分が観光でここに行ったことがあるのを思い出した。そうか、あれ、徐達アニキの邸宅だったのか!と、ちょっと嬉しい。架空キャラでは、二虎、玉児(投獄中のすっぴん顔のほうが美人)夫妻が癒し系で、謎キャラの呉風も好きだった。
朱元璋といえば、あまりにも相貌の異なる二種類の肖像画が伝わることで有名だが、ドラマの最終話では、童女・小青(李善長の一族という設定)が「こっちはいい人すぎる、あっちは怖すぎる」と不思議がるのに対し、朱元璋が「どちらも爺々の顔なんだよ」と語りかけるのが、一種の「謎解き」になっている。ラストシーン、落日を背景に、静かに息絶える朱元璋の姿にかぶさるナレーションも「その功罪はいまだ決していない」と述べるのが、いかにも中国の歴史ドラマらしい。中国の歴史って、千年経っても功罪が決しない人物がたくさんいるからなあ。