○フローリアン・ガレンベルガー監督・脚本『ジョン・ラーベ ~南京のシンドラー~』
見たいと思っていた映画の自主上映会に行ってきた。情報をキャッチしたのは6月の初めで、すぐに予約のメールを入れた。それで安心していたのに、当日、一ツ橋の日本教育会館に行ってみたら、開場時間(13:00)を過ぎたばかりというのに、大勢の人が道路に列を作っていた。会場であるホール(800名収容)はもう満席状態で、関係者用にキープされていた最前列の2列を開放してくれたので、なんとか最前列に座れた。それでも座れなかった人は、別室の第二会場に案内されていた。
ドイツ人ジョン・ラーベ(1882-1950)は、シーメンス社の社員として中国に駐在中、1937年12月、日本軍による南京攻略戦に遭遇し、南京安全区国際委員会の委員長となって、民間人の保護に努めた。後年、その日記が発見・出版されて、事蹟が知られるようになった。映画はラーベの日記を大幅に脚色したものと言われている。2009年に制作され、同年のドイツ映画賞で7部門中4部門の賞を受賞した。
私は、わりと早い時期にこの映画の評判を聞いて、見たいと思っていたのだが、日本では配給の見通しがないと聞いて落胆していた。2014年春頃から、主に首都圏で単発の自主上映会が企画されるようになった。北海道・札幌の住人だった私は、歯噛みしながらそれらの情報をチェックしていた。そして、この春、本州に戻ってきて、ようやく念願の上映会に参加することができたのだ。
作品は、まあ、こういう表現は妥当でないかもしれないが、観客を飽きさせない戦争映画だった。次々と波状的に襲ってくるスリルと恐怖。空からの爆撃、愛する者を守るための別れ、物資の不足、仲間との対立、狂気のような大量殺戮、女性に忍び寄る暴力など、戦争状態の非人間的な側面が、手をかえ品をかえて描かれる。ドイツ映画賞の美術賞・衣装賞を取っただけのことはあって、画面は美しい。当時の中国における欧米人コミュニティの華やかさもちらりと見せてくれるし、灰色の石垣、灰色の服を着た人々の伝統中国の風景、さらには、ところどころに血しぶきの跡が残る廃墟の光景さえも、絵画のような趣きがある。
主人公は、特別な博愛主義者や理想主義者ではなく、ひょんなことから面倒な委員長にかつがれてしまった、妻を愛する平凡な会社員として描かれている。彼とともに南京安全区を守った他の欧米人たちも同様で、感情移入がしやすい。日本軍人役としては、香川照之、井浦新(ARATA)、柄本明、杉本哲太が出演している。このキャスティングも、私がこの作品を見たいと思った一因だった。朝香宮鳩彦王役の香川照之は、表情にも声色にも感情を出さない演技に徹していたように思う。柄本明(松井石根大将)、杉本哲太(中島今朝吾中将)は、期待したほど見せ場がなかった。いちばん美味しい(?)役は、創作人物であろう小瀬少佐を演ずる井浦新で、言葉に出せない内心の苦悶や葛藤を、繊細な演技で表現していた。安全区国際委員会の欧米人たちに、重要な情報をそっと漏らす場面もある。
今回の主催者は「7・20『ジョン・ラーベ』大上映会実行委員会」を名乗っているが、いくつかの労働組合の協力を得ていたようで、それらしい雰囲気の観客が多かった。冒頭、関係者の挨拶では、日本の戦争責任を否定する勢力に対する異議が表明され、威勢のいい拍手で応える観客もいたが、うーん、個人的には興ざめな感じがした。私は、この映画、「娯楽」として鑑賞したかったのである。「娯楽」であるから、史実と異なる創作が混じっていても、いちいちとがめだてる必要は感じない。ひとつの作品として、うまく処理されていれば、それでいいのだ。
上映実行委員会のFacebookによれば、直前まで席の半数くらいは売れ残っていたようだが、7/15の朝日新聞が記事に取り上げたことで、当日は1200人くらいがつめかけ、第二会場にも入れなかった200人はお帰りいただいたそうである。大反響だったということで、実行委員会は嬉しそうだが、正直なところ、鑑賞に集中できる環境ではなかった。作品に対するリスペクトがあるなら、もう少し運営に配慮があってほしかったと思う。今後、見に行く人は、上映会の規模と主体を選んだ方がいいと思うな。
見たいと思っていた映画の自主上映会に行ってきた。情報をキャッチしたのは6月の初めで、すぐに予約のメールを入れた。それで安心していたのに、当日、一ツ橋の日本教育会館に行ってみたら、開場時間(13:00)を過ぎたばかりというのに、大勢の人が道路に列を作っていた。会場であるホール(800名収容)はもう満席状態で、関係者用にキープされていた最前列の2列を開放してくれたので、なんとか最前列に座れた。それでも座れなかった人は、別室の第二会場に案内されていた。
ドイツ人ジョン・ラーベ(1882-1950)は、シーメンス社の社員として中国に駐在中、1937年12月、日本軍による南京攻略戦に遭遇し、南京安全区国際委員会の委員長となって、民間人の保護に努めた。後年、その日記が発見・出版されて、事蹟が知られるようになった。映画はラーベの日記を大幅に脚色したものと言われている。2009年に制作され、同年のドイツ映画賞で7部門中4部門の賞を受賞した。
私は、わりと早い時期にこの映画の評判を聞いて、見たいと思っていたのだが、日本では配給の見通しがないと聞いて落胆していた。2014年春頃から、主に首都圏で単発の自主上映会が企画されるようになった。北海道・札幌の住人だった私は、歯噛みしながらそれらの情報をチェックしていた。そして、この春、本州に戻ってきて、ようやく念願の上映会に参加することができたのだ。
作品は、まあ、こういう表現は妥当でないかもしれないが、観客を飽きさせない戦争映画だった。次々と波状的に襲ってくるスリルと恐怖。空からの爆撃、愛する者を守るための別れ、物資の不足、仲間との対立、狂気のような大量殺戮、女性に忍び寄る暴力など、戦争状態の非人間的な側面が、手をかえ品をかえて描かれる。ドイツ映画賞の美術賞・衣装賞を取っただけのことはあって、画面は美しい。当時の中国における欧米人コミュニティの華やかさもちらりと見せてくれるし、灰色の石垣、灰色の服を着た人々の伝統中国の風景、さらには、ところどころに血しぶきの跡が残る廃墟の光景さえも、絵画のような趣きがある。
主人公は、特別な博愛主義者や理想主義者ではなく、ひょんなことから面倒な委員長にかつがれてしまった、妻を愛する平凡な会社員として描かれている。彼とともに南京安全区を守った他の欧米人たちも同様で、感情移入がしやすい。日本軍人役としては、香川照之、井浦新(ARATA)、柄本明、杉本哲太が出演している。このキャスティングも、私がこの作品を見たいと思った一因だった。朝香宮鳩彦王役の香川照之は、表情にも声色にも感情を出さない演技に徹していたように思う。柄本明(松井石根大将)、杉本哲太(中島今朝吾中将)は、期待したほど見せ場がなかった。いちばん美味しい(?)役は、創作人物であろう小瀬少佐を演ずる井浦新で、言葉に出せない内心の苦悶や葛藤を、繊細な演技で表現していた。安全区国際委員会の欧米人たちに、重要な情報をそっと漏らす場面もある。
今回の主催者は「7・20『ジョン・ラーベ』大上映会実行委員会」を名乗っているが、いくつかの労働組合の協力を得ていたようで、それらしい雰囲気の観客が多かった。冒頭、関係者の挨拶では、日本の戦争責任を否定する勢力に対する異議が表明され、威勢のいい拍手で応える観客もいたが、うーん、個人的には興ざめな感じがした。私は、この映画、「娯楽」として鑑賞したかったのである。「娯楽」であるから、史実と異なる創作が混じっていても、いちいちとがめだてる必要は感じない。ひとつの作品として、うまく処理されていれば、それでいいのだ。
上映実行委員会のFacebookによれば、直前まで席の半数くらいは売れ残っていたようだが、7/15の朝日新聞が記事に取り上げたことで、当日は1200人くらいがつめかけ、第二会場にも入れなかった200人はお帰りいただいたそうである。大反響だったということで、実行委員会は嬉しそうだが、正直なところ、鑑賞に集中できる環境ではなかった。作品に対するリスペクトがあるなら、もう少し運営に配慮があってほしかったと思う。今後、見に行く人は、上映会の規模と主体を選んだ方がいいと思うな。