見もの・読みもの日記

興味をひかれた図書、Webサイト、展覧会などを紹介。

再訪:源信(奈良国立博物館)+西大寺展(あべのハルカス)

2017-09-06 23:45:09 | 行ったもの(美術館・見仏)
奈良国立博物館 1000年忌特別展『源信:地獄・極楽への扉』(2017年7月15日~9月3日)

 前期に続いて後期も、駆け込みで見てきた。彫刻はだいたい前期のままだったが、絵画資料はがらりと入れ替わった。古い仏書や文書類も、チェックしてみると、けっこう入れ替わっていた。

 前半で注目したのは、奈良・達磨寺の『仏涅槃図』(平安時代)。古くて貴重なものだが、摩滅してほぼ見えない。知恩院の『阿弥陀浄土図』(南宋時代)は、整然として虚無的に静かで不思議な図像。談山神社の『増賀上人行業記』は江戸時代にできた絵巻物。今昔物語で読んだとおりの増賀上人の姿が描かれていて面白かった。

 前期に「地獄絵」特集だった一角には、奈良博所蔵の『地獄草紙』が完全展開。『餓鬼草紙』『病草紙』なども。「餓鬼」というと「ものを食べられない」苦しみを想像するのだが、描かれているのは「水を飲めない」渇きの苦しみが多いように思った。とりあえず安全な水が飲める環境が、どれだけ幸せかを、しみじみ感じた。また、前期に聖衆来迎寺の『六道絵』が出ていた空間には、別の六道絵や十王図など。當麻寺奥院の『十界図屏風』一双には、修羅や地獄も描かれているが、「人道」にあたる人々の生活の描写が詳細で面白かった。蹴鞠や双六をする人々、宴会や獅子舞も描かれていた。あと、隅のほうで、巨大な當麻曼荼羅(天界をあらわす)の前にたたずむお坊さんが意味ありげだった。

 後半(というか後期全体)の白眉は、和歌山有志八講の『阿弥陀聖衆来迎図』である。中央が大きい3幅構成。むかし高野山の霊宝館で模本を見た記憶はあるのだが、もしかしたら本物を見るのは初めてかもしれない…。自分のブログを検索したら出てこなかった。本展の図録の表紙にもなっている作品である。大きな阿弥陀如来を囲む諸菩薩や天人たちは実に表情豊かだ。向かって右手前には、琴、琵琶、箜篌(くご)などの弦楽器が見える。鼓などの打楽器は左右に。また、阿弥陀の左後方は管楽器隊で、急カーブを切ってたなびく雲にスピード感がある。奥の聖衆は手前の聖衆より小さく描かれていて、ちゃんと画面に奥行きが出ている。何人かの聖衆は、赤い唇から白い歯がこぼれている。特に琵琶を弾く聖衆は目を細め、口元をゆるめて満面の笑み。中国・大同の露歯菩薩像を思い出していた。

 金戒光明寺の『山越阿弥陀図』1隻『地獄極楽図屏風』1双(セット)も好きな作品。『地獄極楽図屏風』の暗い海に、よく見るとヘンな生き物が生息しているのが好きなのである。

※地下回廊のカフェで、前期も食べた『極楽と地獄 冷やしそうめん』。極楽をイメージした金胡麻入りゴマだれと、地獄をイメージしたラー油・唐辛子入りめんつゆでいただく。私は、そうめんをゴマだれで食べたことがなかったのだが、すっかり気に入って、この夏は冷蔵庫にゴマだれを常備するようになった。



奈良博カフェは、展覧会にあわせていろいろな限定メニューを開発しているけど、これは個人的に大ヒット。夏の定番メニューにしてほしい。奈良の名物、三輪そうめんだし。

あべのハルカス美術館 創建1250年記念『奈良 西大寺展 叡尊と一門の名宝』(2017年7月29日~9月24日)

 西大寺展は、この春、三井記念美術館で開かれた東京展を見ている。しかし、せっかく大阪に来たので、あべのハルカスへ見に行った。冒頭には江戸時代に描かれた『称徳天皇像』が掛けられていた。西大寺は称徳天皇の発願で建てられたのである。髪飾りをつけ、十二単姿で、御簾に半分姿を隠している。豊かな頬が健康的で愛らしい。これ、東京展で見たかなあ?と疑問に思って、会場内に置かれていた図録をチェックしたら、やっぱり見てなかった。小さいのに堂々とした如意輪観音半跏像も珍しかった。

 『十二天像』(絵画)は、毘沙門天と月天。東京展と違う作品を見ることができてよかった。実は、東博3幅・京博3幅・奈良博6幅と分けて保管されており、この2幅はふだん奈良博にあるものらしい。月天は3頭の白馬に乗り、毘沙門天は分かりにくいが、地天女に支えられているようだった。

 東京展と違って広い会場の利を十分に生かしており、塔本四仏(奈良時代)は塔内のイメージに似せて、赤い角柱の四方に背中合わせに配置されていた(もっとも塔は現存しない)。なんとなく目元が異国風である。清凉寺式の釈迦如来立像(鎌倉時代)は細身でりりしい美男。繊細な光背も見どころである。般若寺の文殊菩薩騎獅像は、八つの髷を結った八字文殊。子供っぽいのに武闘派の顔をしている。獅子も逞しい。ほかにも、あまり知らない大阪周辺の仏像が出ていて興味深かった。江戸ものが多かったが、奈良・宝山寺の不動明王脇侍像(矜羯羅童子、制吒迦童子)には惹かれた。古典的には崩れたプロポーションに作者の個性があらわれていて、絶妙にいい。

 また、東京展で見なかったものに歌舞伎「矢の根五郎」の絵馬(二代目鳥居清信筆)があった。二代目市川海老蔵を描いたものだという。あ、それで音声ガイドを海老蔵が担当しているのか。東京展にはこの作品が出ていないので、よく分からない人選だと思っていた。
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