〇静嘉堂文庫美術館 『書物にみる、海外交流の歴史~本が開いた異国の扉~』(2019年6月22日~8月4日)
日本の歴史と文化の基層を成す海外との多彩な交流の姿を、さまざまな書物の中で辿る展覧会。同館は、これまでも何度か出版文化に関係する展覧会をやっているが、今回は私の関心にもマッチして面白かった。
「書物にみる、海外交流」というのは、かなり広い(どうにでも解釈できる)テーマなので、冒頭は陳寿の『三国志』(南宋前期刊)から「魏志倭人伝」の箇所。隣に藤原佐世の『日本国見在書目録』(室町時代)。最古写本の「室生寺本」と言われるもので、Wikiでは「宮内庁書陵部蔵」となっているが、これは端本なのかな?
前半は主に漢籍で、仏典や絵画の技法書も。宋版の濃い墨色、文字の大きい版面が美しいと思う。次に江戸時代に海外の文化や情報、科学知識などを紹介した書物。新井白石の『采覧異言』『西洋紀聞』など、刊本ではなく写本で伝わるものが多い。『采覧異言』は大槻玄沢旧蔵。玄沢の写本だったかな?文字が1字1字独立していて読みやすいので、ああ、理系の字だなあと思った。
司馬江漢『天球全図』(銅版著色、一部木版)12枚が全て出ていたのには感激した。全部見るのは初めてじゃないかな。そして本展のポスターになっている、火鉢みたいな台盤の上に半球形をかぶせたような天球儀?(ヲルレレイ図)も『天球全図』の1枚であることを会場で知った。台盤の中心には、マチ針みたいな太陽が差してあり、水星、金星の次に斜めに差してあるのが地球で、その周りを月がまわっている。木星には4つ、土星には5つの衛星が付随するなど、いろいろ芸が細かい。よく見ると台盤は十二角形で、側面に十二星座の絵があった。
出版のいろいろということでは、古活字・慶長勅版の『日本書記』。これも字が大きくて墨が濃くて、端正な版面である。キラキラした唐紙に摺られた嵯峨本『方丈記』も。これは古活字だということをつい忘れてしまう。静嘉堂文庫のお宝『方丈記』は複製本が展示ケースの外に出ていて、自由に触って、ページをめくれるかたちで展示されていた。すごい!素手で触っていいのか、たじろぐくらいよくできた複製だった。
辞書類も多数。特に大槻玄沢や志筑忠雄の周辺で作られ使われた蘭学辞書が豊富。ロシア人ゴロヴニーンからの聞き取りに基づくという馬場佐十郎『魯語』も面白かった。
帰りにミュージアムショップで『書物学』という雑誌の16号「特集・特殊文庫をひらく」を見つけて購入した。そうか、この夏、五文庫連携展示『特殊文庫の古典籍』という企画をやっているのだな。嗚呼、6月は忙しくて斯道文庫の展覧会は見逃してしまったが、あとは行けるだろうか。