〇国立劇場 令和元年9月文楽公演 第2部(2019年9月15日、14:00~)
・『嬢景清八嶋日記(むすめかげきよやしまにっき)・花菱屋の段/日向嶋の段』
9月文楽公演、第1部の『心中天網島』は気づいたときには国立劇場のサイトでチケット完売になっていた。最近、いろいろ別の探し方を覚えたので、チケットぴあや転売サイトを覗いてみると、まだ入手可能なことが分かったが、同じ演目のある11月の大阪公演に遠征することにして、今回は第2部だけにした。
『嬢景清八嶋日記』は初見。悪七兵衛と呼ばれた平家の侍大将・景清は、壇ノ浦で平家が滅亡した後、大仏開眼供養の際に源頼朝の暗殺を企てて捕えられる。源氏全盛の世を見ることを潔しとせず、両目をえぐり取り、盲目となって日向国をさすらうことになった。上演の段はここから。駿河国の手越宿に暮らす景清の娘・糸滝は、幼い時に父と別れ、母も亡くして頼る者のない身の上だったが、自らの身を売って金をつくり、父に会いに行くことを決意する。糸滝の孝心に感じ入った遊女屋の人々に見送られ、佐治太夫に連れられて日向へ赴く。
糸滝は日向の海岸で変わり果てた父と対面するが、現在の境遇を隠して、田地持ちの大百姓に嫁入りし、不自由なく暮らしていると告げる。なぜ百姓の女房になった、と怒りをあらわにする景清。悲しみながら立ち去る糸滝。糸滝が残した書置を村人に読んでもらった景清は、娘が自分に会うために身を売ったことを知る。己れの浅はかさを知って悲憤慷慨する景清。二人の里人(実は頼朝が遣わした隠し目付)が「なぜ頼朝に仕えぬか」と迫り、景清は源氏に仕えることを承諾する。この突然の展開、ポカンとしてしまった。
あとですじがきを読んだら、心の広い頼朝は(笑)暗殺に失敗した景清に情けをかけ、自分の家来になれと勧めたのに、景清はそれをかたくなに拒んでいたのだった。しかし平家への忠義はどうなる。オカシイだろ?と思って、千歳太夫の熱演にもかかわらず、共感できなかった。平(藤原)景清って、伊藤(藤原)忠清の七男なのだな。後半、日向嶋の段の糸滝は蓑助さん。眼福だったが、嫋々と美しすぎて、父と娘のシーンであることを忘れてしまう。
・『艶容女舞衣(はですがたおんなまいぎぬ)・酒屋の段/道行霜夜の千日』
この演目は一度見たことがあるはずだが、ブログを検索しても記録が出てこない。かなり前の観劇かもしれない。あまり好きな演目ではなく、今回も期待していなかったのだが、すごく気持ちが入ってしまった。芸者の三勝と深い馴染みになり、子どもまでなした茜屋の半七。その両親、名ばかりの妻であるお園とその兄、口では厳しいことを言いながら、互いの身の上を心配しあう温かい家族。その家族の輪の中から、そっと身を引いて死出の旅路に赴く半七と三勝。津駒太夫と藤蔵がとにかくよい! 津駒さんの語る世話物は、これぞ大阪の芸能、という感じがする。
三味線の藤蔵さんには、私は大阪で当たることが多い気がしていたのだが、公演記録を調べたら、そんなことはなくて、東京でも大阪でも登場していらっしゃる(当たり前か)。でも、今回の津駒さんとの組み合わせは、格別に大阪っぽい感じがしてよかった。