■華厳宗 日輪山 新薬師寺(奈良市高畑町)
近鉄奈良駅に到着し、少し時間に余裕があったので、思い立って新薬師寺に行ってみることにした。破石町でバスを下りて、スマホの地図を頼りに歩く。考えてみると、もう10年以上も来ていない。記憶を掘り起こしながら歩いていくと、観光地らしくない静かな家並みに埋もれた入江泰吉記念奈良市写真美術館が現れ、隣の鏡神社の境内を通り抜けたら、新薬師寺の正面に出た。石灯籠を正面に据えた白壁の本堂。先月訪ねた大宰府の観世音寺を思い出す、古い造りである。境内に実忠和尚ゆかりの御歯塔が立つのも古都のお寺らしい。
向かって左側から本堂の中に入るに当たる。本尊・薬師如来坐像は、子供のように見開いた大きな目が特徴だが、横から見ると鼻筋が通っていて、目元もシャープだ。その周りをゆるやかに囲むのは、塑像の十二神将像。十二支が割り当てられているが、十二支の並びと一致していないのが不思議だった。無駄な装飾がなくて、甲冑がリアルに感じられる。弓を構えた神将がいたが、弩のほうがいいなあと思った。
新薬師寺を出て北へ向かうと、不空院というお寺があった。むかし(2010年だ)特別ご開帳の際に拝観したことのあるお寺。「巡る奈良 祈りの回廊」の立て看板が出ていたので、開いているかと思ったが境内に人の姿はなかった。予約拝観は受け付けているらしいので今度来てみよう。そういえば、新薬師寺のそばの路傍に、子どもをおんぶした母子埴輪が立っていたはずだが、見当たらなかった。撤去されたのだろうか?と心配になったが、ネットで検索したら、2018年の画像が出てきた。私が見落としただけかもしれない。
白い漆喰が剥げ落ちて、黄色い土が現れつつある民家の塀。奈良らしくてエモい。
■春日大社国宝殿 特別展『神獣-かわいい、神の使いたち』(2019年9月7日〜12月13日)
「中の禰宜道」という小径をたどって春日大社国宝殿へ。森の中を歩きながら、直前に大和文華館で見た樹木モチーフの絵画が、ときどき頭に浮かぶ。国宝殿では、さまざまな「神獣」を紹介する特別展を開催中で、意外に楽しめた。流鏑馬木像(平安時代)は初めて見たなあ。古代中国の副葬品みたいだった。小さな土馬は、最近、別のところでも見たような気がした。奈良博『いのりの世界のどうぶつえん』かもしれない。
春日大社本殿の第一殿から第四殿までの獅子・狛犬(2匹×4組、鎌倉~室町時代)が並んでいたのも壮観だった。第一殿は、巻毛で正面を見据え、いちばん獅子らしい。第二殿は顔を上に向けて、あう~と遠吠えしている雰囲気。第三殿は巻毛が溶けて平面化しており、特に吽形の狛犬(室町時代)はのっぺりしてウーパールーパーみたいな顔。第四殿はそっぽを向き合っているのが面白かった。
国宝『赤糸威大鎧(あかいとおどしおおよろい)』は左右の大袖に竹虎の飾り。卵形の顔で愛嬌のある虎だ。『沃懸地獅子文毛抜形太刀(いかけじししもんけぬきがたたち)』の鞘には、猫か犬のような獅子が3匹いて、裏側には、ちゃんとそれぞれを反対側から見たポーズが刻まれている(正面向きの獅子の反対側は後ろ姿)。
『春日権現験記』(春日本・江戸時代)は12巻と18巻、どちらも鹿の群れが現れる場面が展示されていた。鹿にまたがった春日明神像(江戸時代)は初めて見た。2018年春に、創建にまつわる秘宝「鹿島立御鉾(かしまだちおんほこ)」とともに春日大社桂昌殿で特別公開されていたらしいが(産経新聞記事2018/4/20)見逃しているようだ。
今回の展示、「スタッフのおすすめ:かわいいポイント」というカードが、ところどころに添えられていて、素直なコメントが楽しかった。よい試み!
最後に興福寺国宝館にも駆け込みで寄り道。そろそろ夕方だが、夜間開館の奈良博に向かう。