〇大和文華館 『樹のちから-東洋美術における樹木の表現-』(2019年8月27日~9月29日)
三連休は関西旅行を計画していたところ、大型台風接近のニュースが流れてきた。迷ったが、どうしても見たい展覧会があったので決行することにした。土曜日は、まず大和文華館へ。樹木のモチーフに着目し、中国、朝鮮半島、日本における多彩な樹木表現を展観する。展示品は画軸・画冊など37件で、全て同館の所蔵品。華やかさや物珍しさはないが、好きな作品ばかりで癒された。
入口には、日本・中国・朝鮮を代表して、浦上玉堂筆『 澗泉松声図』、程𨗉筆『山水図』、鄭敾筆『冠岳夕嵐図』が並ぶ。どれも小画面だが魅力的。玉堂は擦筆の墨色がきれいで奥行のある風景。程𨗉は画面いっぱいにふわふわと浮かぶ白っぽい山水。鄭敾は青と緑の淡彩を用いて、近代のスケッチ画みたい。
前半は墨画ないし淡彩の山水画の名品が並ぶ。まず嬉しかったのは張宏筆『越中真景図冊』が8図全部開いてる! 私は第4図の画面を斜めに横切る長い橋の図と、第8図の大河を下る帆船の図が好き。どちらも上方から対象に肉薄していて、ドローンみたいな視点だ。楊晋筆『山水図冊』も12図全部開いていた。青と緑の淡彩がきれい。五代・北宋から清に至る12人の画家の画風に倣って描いたもので、全て「倣〇〇」という題がついている。私は、きれいな色を丁寧に塗った第9図が好きで「倣趙松雪」って誰だろう?と思ったら、趙松雪=趙孟頫(もうふ)だった。方士庶筆『山水図冊』も全12図。贅沢だな~。この不思議なモノクロームの山水図は本当に好き。ほとんどの画面は、家や橋など人工物があっても人の姿がないのだが、「一線天」という雲の上に浮かぶ一本道では、空に駆け上がっていくような人々の姿が描かれる。どこまでも幻想的。
伝・周文筆『山水図屏風』六曲一双(室町時代)は、え?こんなの持っていたっけ?とあらためて驚く。展示ケースが浅いせいか、細部をしみじみ眺めることができて面白かった。
後半には明代の著色画。「場面を彩る樹」という着眼点だが、まあそう言えば、たいがいの風俗図には樹の表現があるだろうな。『文姫帰漢図巻』は第1~6図、『仕女図巻』は全図開いていた。やっぱり図巻や図冊は(時々は)1つの作品を隅から隅まで見せてもらえると嬉しい。『仕女図』(伝・仇英筆)は、仇英没後に流行した「仇英美人」で、瓜実顔に細い目が特徴。先日、上原究一先生が指摘していた万暦後半の通俗本の挿絵の特徴と一致するのではないかしら。
高其佩の指頭画『閑屋秋思図』も好き。ネットで調べると面白い画像がたくさん出てくるのだが、日本にはあまり所蔵されていないのかなあ。もっと見たい。意外に(?)よかったのが近世日本の画家たちの作品で、呉春筆『春林書屋図』、山本梅逸筆『高士観瀑図』、岡田半江筆『秋渓訪友図』どれもよかった。