■京都国立博物館 西国三十三所草創1300年記念特別展『聖地をたずねて-西国三十三所の信仰と至宝-』(2020年7月23日~9月13日)
連休3日目は京博の西国三十三所草創1300年記念特別展から。これは、養老2年(718)、大和国長谷寺の開基・徳道上人が、 閻魔大王から授かった33の宝印を33の観音霊場に配り、日本最古の巡礼路を開いたという伝承に拠る。本展には33の札所だけでなく、近畿圏の寺院を中心に、170件を超える寺宝・文化財が集結している(展示替えあり)。1階の大展示室(彫刻)の一部に常設の仏像が残ってるほかは、全館を挙げて特別展仕様だった。
3階は、観音信仰に関係する文書・古経、飛鳥~奈良時代の小さな銅造観音菩薩像、地獄にかかわる六道絵や十王図、そして西国三十三所ゆかりの徳道上人、花山天皇、性空上人らの肖像など。銅造仏の中に、私の好きな兵庫・一乗寺の観音像(顔が異様に大きい)や播州清水寺の観音像(童子のような無心の笑顔)や南法華寺の観音像(水平にした両手で宝珠を挟む)などが来ていた。六道絵は聖衆来迎寺から「人道苦相」「人道無常相」の2件。京博の『病草紙』「痔瘻の男」「口臭の温女」も出ていた。あまり予習してこなかったので、これは何が出ているか分からないぞ、とわくわくする。
2階に下りて、面白いと思ったのは『那智山経塚出土仏教遺品』(青岸渡寺+東京国立博物館)。お椀のような蓮華座に光背付きの諸尊や諸尊のシンボル(法具や印形の両手など)が載ったパーツが30件余り出土している。今回は、これらを実際に立体曼荼羅に仕立てて展示しているのがとても面白い。
絵巻は国宝『粉河寺縁起絵巻』のほか、あまり見る機会のない、土佐光信筆『清水寺縁起絵巻』や海北友雪筆『総持寺縁起絵巻』などを見ることができた。参詣曼荼羅図はどれも見飽きない。細部にいろいろ隠し味があって、『粉河寺参詣曼荼羅図』には、猟師の大伴孔子古がイノシシを狩るという創建説話が描かれているのだが、解説を読まなければ絶対気づかなかった。
1階の大展示室(彫刻)は、安祥寺の五智如来坐像などいくつかの常設作品を除いて、特別展関連の仏像で埋まっている。どっしりと重量感のあるした滋賀・三井寺千手観音立像。静かな表情で全体に彫りも浅い紀三井寺の十一面観音立像。醍醐寺の千手観音立像は神秘的で古風な顔立ち、左右に錫杖を構え、お腹の前に鉢を抱える。松尾寺からは秘仏の御前立ちの馬頭観音坐像。京都・清水寺の伝・観音菩薩・勢至菩薩立像がいらしたのも嬉しかった。明らかに慶派の顔だが、作者は決着がついていないそうだ。
彫刻のあとの仏画も珍しいものが多くて眼福。兵庫・中山寺の『十一面観音像』(鎌倉時代)は初見のような気がする。ふだん、どこかで定期的に見られるものなのだろうか。醍醐寺の『清瀧本地両尊像』は蓮華座に座った准胝観音と如意輪観音が並ぶ図。両尊の顔立ちが妙に人間っぽくて可愛い(室町時代)。仏画は展示替えが多いので、できれば後期も見に来たい。
さらに西国巡礼に関するガイドブックや納経帳、巡礼札、工芸品、刀剣、装飾経などを展示する。珍しかったのは京都・観音寺(今熊野観音堂)が所蔵する『刀八毘沙門天像(とうはちびしゃもんてんぞう)』の図像(室町時代)。獅子の背中に三面十二臂の髭面の男神が跨る。手には八振りの刀。光背を白狐が囲む。男神の頭の上には三体の小さな神? 呆れるほどの異形。最後は中山寺の『西国三十三所観音集会図』(江戸時代)という最高に華やかでハッピーな絵画で終わるのもよかった。