見もの・読みもの日記

興味をひかれた図書、Webサイト、展覧会などを紹介。

2020年8月関西旅行:聖地をたずねて(京都国立博物館)

2020-08-16 23:20:29 | 行ったもの(美術館・見仏)

京都国立博物館 西国三十三所草創1300年記念特別展『聖地をたずねて-西国三十三所の信仰と至宝-』(2020年7月23日~9月13日)

 連休3日目は京博の西国三十三所草創1300年記念特別展から。これは、養老2年(718)、大和国長谷寺の開基・徳道上人が、 閻魔大王から授かった33の宝印を33の観音霊場に配り、日本最古の巡礼路を開いたという伝承に拠る。本展には33の札所だけでなく、近畿圏の寺院を中心に、170件を超える寺宝・文化財が集結している(展示替えあり)。1階の大展示室(彫刻)の一部に常設の仏像が残ってるほかは、全館を挙げて特別展仕様だった。

 3階は、観音信仰に関係する文書・古経、飛鳥~奈良時代の小さな銅造観音菩薩像、地獄にかかわる六道絵や十王図、そして西国三十三所ゆかりの徳道上人、花山天皇、性空上人らの肖像など。銅造仏の中に、私の好きな兵庫・一乗寺の観音像(顔が異様に大きい)や播州清水寺の観音像(童子のような無心の笑顔)や南法華寺の観音像(水平にした両手で宝珠を挟む)などが来ていた。六道絵は聖衆来迎寺から「人道苦相」「人道無常相」の2件。京博の『病草紙』「痔瘻の男」「口臭の温女」も出ていた。あまり予習してこなかったので、これは何が出ているか分からないぞ、とわくわくする。

 2階に下りて、面白いと思ったのは『那智山経塚出土仏教遺品』(青岸渡寺+東京国立博物館)。お椀のような蓮華座に光背付きの諸尊や諸尊のシンボル(法具や印形の両手など)が載ったパーツが30件余り出土している。今回は、これらを実際に立体曼荼羅に仕立てて展示しているのがとても面白い。

 絵巻は国宝『粉河寺縁起絵巻』のほか、あまり見る機会のない、土佐光信筆『清水寺縁起絵巻』や海北友雪筆『総持寺縁起絵巻』などを見ることができた。参詣曼荼羅図はどれも見飽きない。細部にいろいろ隠し味があって、『粉河寺参詣曼荼羅図』には、猟師の大伴孔子古がイノシシを狩るという創建説話が描かれているのだが、解説を読まなければ絶対気づかなかった。

 1階の大展示室(彫刻)は、安祥寺の五智如来坐像などいくつかの常設作品を除いて、特別展関連の仏像で埋まっている。どっしりと重量感のあるした滋賀・三井寺千手観音立像。静かな表情で全体に彫りも浅い紀三井寺の十一面観音立像。醍醐寺の千手観音立像は神秘的で古風な顔立ち、左右に錫杖を構え、お腹の前に鉢を抱える。松尾寺からは秘仏の御前立ちの馬頭観音坐像。京都・清水寺の伝・観音菩薩・勢至菩薩立像がいらしたのも嬉しかった。明らかに慶派の顔だが、作者は決着がついていないそうだ。

 彫刻のあとの仏画も珍しいものが多くて眼福。兵庫・中山寺の『十一面観音像』(鎌倉時代)は初見のような気がする。ふだん、どこかで定期的に見られるものなのだろうか。醍醐寺の『清瀧本地両尊像』は蓮華座に座った准胝観音と如意輪観音が並ぶ図。両尊の顔立ちが妙に人間っぽくて可愛い(室町時代)。仏画は展示替えが多いので、できれば後期も見に来たい。

 さらに西国巡礼に関するガイドブックや納経帳、巡礼札、工芸品、刀剣、装飾経などを展示する。珍しかったのは京都・観音寺(今熊野観音堂)が所蔵する『刀八毘沙門天像(とうはちびしゃもんてんぞう)』の図像(室町時代)。獅子の背中に三面十二臂の髭面の男神が跨る。手には八振りの刀。光背を白狐が囲む。男神の頭の上には三体の小さな神? 呆れるほどの異形。最後は中山寺の『西国三十三所観音集会図』(江戸時代)という最高に華やかでハッピーな絵画で終わるのもよかった。

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2020年8月関西旅行:五劫院、東大寺、奈良国立博物館など

2020-08-16 10:33:14 | 行ったもの(美術館・見仏)

思惟山 五劫院(奈良市北御門町)

 大和文華館でゆっくりしたので、近鉄奈良駅に着いたのは正午頃。東大寺の北側に位置する五劫院で五劫思惟阿弥陀仏坐像が公開中(毎年8月1日~12日)と聞いたので拝観に行く。佐保川のほとりの今在家というバス停で下りて、スマホの地図をたよりに静かな住宅街の細い道を入っていく。

 奈良のお寺らしい(と私が勝手に思っている)開放的な境内。風通しのいい本堂では、お寺の方々が盆供養の準備をされていた。本尊は外陣からの参拝になるが、わりと高いところに安置されていて見やすかった。長い長い修行の間に髪が伸びて螺髪のボリュームが増し、四角いアフロヘア状態になっている。変わったお姿だが、意外と違和感がない。むしろ両手を膝の上で袖の中に隠しているのが珍しいと思った。肩が細くて撫で肩なので、全身が三角おむすびみたいで可愛い。

 拝観後は住宅街を南に下って東大寺へ向かう。東大寺の西側は、奈良公園と一体化していて、どこから境内かよく分からないのだが、北側は高いフェンスできっちり仕切られていることを初めて知った。正倉院の西側から境内に入る。

■東大寺二月堂

 この日(8月9日)は全国的に(全世界的に?)観音さまの大功徳日と言われている。東京では「四万六千日」と呼ぶことが多いが、関西では「千日まいり」が一般的だ。秘仏・十一面観音を本尊とする二月堂では「功徳日(およく・およく日)」と呼んでおり、福引・法要・万燈明などの行事が行われる。今年は新型コロナの影響で、行事の一部は中止・縮小されたが、この日限定の「およく餅」の販売はあるというので、行ってみた。

 強烈な日差しとマスクに籠る熱気でへとへとになりながら、裏参道の長い石段を上がると、北側の茶店の前にテントが出ていて「二月堂およく餅」の幟が揺れていた。しかし長机の上の小さな籠はカラっぽ。おじさんに「もう売り切れです、また来年いらっしゃい」と慰められた。実は、直前のお客さんが籠の中の最後のお菓子(およく餅ではなかったかも)を買っていくのを見ていたので、タッチの差だったかもしれない。残念。まだ午後1時頃だったが、おじさんたちは、そさくさとテントをたたみ始めた。

 私は二月堂といえば、修二会しか来たことがなかったのだが、この「およく」だけでなく、9月17日の「十七夜」など、地域に根づいた庶民の楽しみ的な行事も行われてることを初めて知った。来年は無理かもしれないが、機会があったらまた来てみたい。

東大寺ミュージアム 『特別公開・戒壇堂四天王立像』(2020年7月23日~およそ3年間)

 戒壇院戒壇堂が6月末からおよそ3年間、耐震対策と保存修理に伴う工事のため閉堂となり、四天王立像が同館に来ているというので見に行った。千手観音菩薩立像(もと四月堂)を挟んで天平の塑像、日光・月光菩薩立像(もと三月堂)が並ぶ展示ケースの反対側に、露出展示(!)の四天王像が並んでいる。まあ戒壇院でも「露出」だったわけだが、日光・月光菩薩みたいに、ミュージアムではガラスケース入りになるのだろうと思っていたので、ちょっと意外だった。

 素晴らしいのは照明。私が戒壇院の四天王像を好きになったきっかけは、たぶん土門拳の写真である。しかし実際の戒壇院では、イメージどおりの四天王像に会えることもあれば、なにか違うと思うこともあった。天候や光線の具合によっては、平板で迫力が足りない印象になるのだ。それが、ここでは「私の見たかった四天王像」が目の前にあって、すごいなあと思った。

奈良国立博物館 御大典記念特別展『よみがえる正倉院宝物-再現模造にみる天平の技-』(2020年7月4日~9月6日)

 明治以来、これまでに製作された数百点におよぶ正倉院宝物の再現模造作品の中から、選りすぐりの逸品を公開。昨年の東博の特別展『正倉院の世界』や毎年の正倉院展で参考展示として見たものが多かったが、明治時代につくられた墨や筆、刀剣や武具の模造品が目新しくて面白かった。

■奈良県立美術館 特別展『みやびの色と意匠 公家服飾から見る日本美』( 2020年7月25日~9月22日)

 東博の『きもの』展を見に行ったら、思いがけず奈良県立美術館からの出品が多かったので気になっていた。画家の吉川観方旧蔵コレクションが中心になっているらしい。展示品は江戸後期~近代ものだが、古代の令制以来の服飾の変遷がよく分かった。黒田西塘『即位図』と原在明『新嘗祭図』(どちらも江戸時代・19世紀)に描かれた服飾の解説はとても面白かった。新嘗祭で用いられる小忌衣(おみごろも)(男性が着用)とか、青海波文の唐衣(女官が着用)とか、独特である。東豎子(あずまわらわ)という男装の女官が日本にあったことも初めて知った。

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