〇上野の森美術館 ロンドン・ナショナル・ポートレートギャラリー所蔵『KING&QUEEN展-名画で読み解く英国王室物語-』(2020年10月10日〜2021年1月11日)
肖像専門美術館ロンドン・ナショナル・ポートレートギャラリーより、テューダー朝から現在のウィンザー朝まで、5つの王朝の貴重な肖像画・肖像写真など約90点が来日。作品の魅力と併せ、肖像画のモデルである王室の面々が辿った運命「英国王室の物語」を紹介する。年末年始も無休の展覧会なのだが、行けるときに行こうと思って見て来た。
英国の歴史には、まあ高校の授業で習う程度の知識しかなかったので、本展の予習と思って、池上俊一あんの『王様でたどるイギリス史』と君塚直隆先生の『悪党たちの大英帝国』を読んできた。おかげで、描かれた人物のキャラクターが大体分かって、楽しめた。
時代的に古い作品は16世紀半ばから。ただし、モデルと同時代の原作をもとに、後代に描き直されているものもあった(日本の高僧や権力者の肖像と同じだ)。古い西洋絵画を見る機会が少ないので、真珠やレースの描き方を興味深く眺めた(高麗仏画を思い出す)。
本展には、キングとクイーンだけでなく、王妃とか王の愛人、英国王室に生まれて他国に嫁いだ女性など、思いのほか女性の肖像が多く、女性どうしの熾烈な確執もうかがえた。好きな作品はスチュアート朝のアン女王(1665-1714)の威厳にあふれた肖像(ゴドフリー・ネラー)。しかし解説によれば「美食家・お酒好きで晩年はアルコール摂取で肥満が進んでいた」とのこと。Wikipediaには別人のような肖像画が載っている。ドレスのテイストが似ているのが皮肉っぽい。
ヘンリ8世(1491-1547)にも、威厳と凄みを感じさせる肖像が一方、だらしなく肥満した肖像(むしろカリカチュアか?)もある。ハノーヴァー朝のジョージ4世(1762-1830)も、お抱え画家の描いた、理想化された肖像画と、印刷メディアに載った風刺版画では天と地の差がある。真実はこの間にあるのか?というより、それなりの時間を生きる現実の人間には、変化も振れ幅もあるので、一枚の肖像画では捉えられないのだろうな。
ジョージ5世に始まるウィンザー朝では、写真という新たなメディアが登場する。写真は、それまでの儀礼や記念のための肖像画と異なり、王室の日常的で家庭的なスナップショット、より人間的な表情を大衆に伝えるようになる。このへんは、王室の存続に対して民衆の支持を得るためのメディア戦略として読むべきなのだろう。一方で、ヘンリ―王子とメーガン妃の結婚を祝う『バッキンガム宮殿に集う王室の4世代』など、大事なイベントの写真は、集合肖像画の伝統を踏まえているという指摘も興味深かった。現在の王室に対しても、多数の無責任なカリカチュアやコラージュがつくられているものと思うが、それが歴史の資料となるのは、もう少し先の話か。