■サントリー美術館 『儒教のかたち こころの鑑-日本美術に見る儒教』(2024年11月27日~2025年1月26日)
理想の君主像を表し為政者の空間を飾った豪華な障壁画から、庶民が手にした浮世絵まで、儒教のメッセージを宿した日本美術の名品を紹介する。英一蝶など、主に江戸の絵師が描いた孔子像がいくつか出ていたが、帝王の衣裳をまとった袞冕像など、いずれも華やかで、コスプレ孔子様だな、と苦笑してしまった。足利学校の聖廟に祀られているという彫刻の孔子像は、ちょっと人麻呂像に似ていなくもない。かつて名古屋城の二之丸庭園内の聖廟に祀られていた聖像セットは、祠堂のかたちの厨子の中に、周公旦、孔子、堯、舜、禹の5像を納める。15センチくらいの小像だが、堯は純金、他は青銅に鍍金したものだという。キラキラして美しかった(現在は徳川美術館所蔵)。これが江戸の庶民になるとやりたい放題で、鈴木春信の『五常 義』は少女のような男娼二人が「義」について語っているところ。男色は「義」を重んじたというのは、まあ『菊花の契り』を思えばそうなのかもしれない。
■戸栗美術館 『古陶磁にあらわれる「人間模様」展』(2024年10月10日~12月29日)
伊万里焼や景徳鎮の磁器の人物モチーフに注目し、あらわされた人物は誰か、どのような背景から描かれたのか、などを紐解く。「唐子」は子孫繁栄を願う吉祥文として好まれたが、なぜ日本の子どもでなくて唐子なのかなあ。身近な風景すぎると寓意性や象徴性が薄れるのだろうか。陶磁器の図柄が同時代の版本の挿絵を参考にしているというのは、以前にもどこかで聞いたことがあって面白い。明代の五彩人物文壺には、鴻門の会を描いたものがあったが、この時代、小説『西漢演義』や戯曲『千金記』が人気を集め、項羽と劉邦の逸話が享受されたのだという。風俗ものでは、色絵のういろう売り人形に惹かれた。歌舞伎を題材にしたものと思われ、役者を思わせるいい顔をしている。南蛮人図は現代の陶磁器にも継承されており、母のお気に入りのひとつで、正月のお膳によく並んでいたことをふと思い出した。
■日本橋高島屋史料館 『さらに装飾をひもとく-日本橋の建築・再発見』(2024年9月14日~2025年2月24日)
ずっと気になっていた展示をようやく見ることができた。会場となっている日本橋高島屋の店内の装飾だけでなく、日本銀行本店本館や三井本館、看板建築、ポストモダン、都市のレガシーを引き継いだリノベーション建築など、日本橋エリアの建築を幅広く紹介する。2020年9月〜2021年2月に開催された『装飾をひもとく〜日本橋の建築・再発見』展の続編だというが、前回の展示は全く認識していなかった。案内のお姉さんにそう話したら「コロナの時期でしたしねえ」と残念そうにうなずいていた。
久しぶりに訪ねた史料館の場所が分からなくて、店内をきょろきょろしていたら、エスカレーターの脇にいたライオンが目に入った。これは! 解説パネルを読んだら、私の記憶どおり、丸石ビルディングのライオンだった。合計4体あって、2体は今でも丸石ビルディングの入口両脇に残され、2体は大洋商会が保管しているとのこと。しかし現役の2体(※写真)にこんな長いシッポはついていたかしら。五分刈りみたいな丸い頭部が、ちょうど大人の胸あたりにくるので、撫ぜてみたいのを必死にガマンした。「日本橋高島屋S.C.装飾スタンプラリー」は年明けにチャレンジ予定。
■東京国立博物館・東洋館8室 特集『中国書画精華-宋・元時代の名品-』(2024年11月12日~12月22日)
毎年恒例の特集展示だが、今年は特別内容が濃かったことを書き洩らしていたので、ひとこと書いておく。梁楷、夏珪、馬遠(伝承作品もあるけど)が揃い踏みしているのを見ると、これは日本スゴイと言ってもいいのではないかという気持ちになる。インバウンド需要が復活して、中国系の参観者の姿も多かった。東博では、展示室内でガイドさんがツアー客に説明することを許しているらしい。私が行ったとき、若い男性ガイドさんが、米芾の『行書虹県詩巻』を全文音読してくれて、流麗な中国語音に聞き惚れてしまった。