〇江東区文化センタ- 令和6年12月文楽公演第1部(2024年12月8日、11:00~)
国立劇場が休館になって以来、さまざまな劇場を代替に継続している東京の文楽公演。今季は、地元の江東区文化センタ-で開催されるというので、喜んで見て来た。私の江東区民歴はもうすぐ8年になるが、江東区役所の裏にある文化センタ-には初訪問である。
・『日高川入相花王(ひだかがわいりあいざくら)・渡し場の段』
いわゆる道成寺もの。船頭から安珍の不実を聞かされた清姫は、怒りのあまり、蛇身となって川を泳ぎ渡る。人形ならではの大胆な変身ぶりが見もの。舞踊『京鹿子娘道成寺』の衣裳は赤い着物に黒い帯だが、本作の清姫は黒い着物(下に緋色の襦袢?)に赤い帯。蛇身のときは白一色で長い尾のような布を後ろに翻す。これ、筋書によると、山伏・安珍の正体は桜木親王で、清姫にいい顔をしながら、別の恋人・おだ巻姫のもとに走ったという設定なので、道成寺説話よりも救われない気がする。
・『瓜子姫とあまんじゃく』
木下順二が執筆した作品を義太夫に移したもの。プログラムの解説にあるとおり、大阪の国立文楽劇場ではたびたび上演されてきた(夏休み公演が多い)が、首都圏で上演されるのは初めてとのこと。私も初見だったので、「瓜子姫は今日も楽しく機を織っていた」「瓜子姫は機織りが何より好きであった」という現代文口語体に若干とまどったが、すぐに気にならなくなった。この文体でも、ちゃんと三味線に乗って、浄瑠璃の体を為しているのだ。ただ、床から離れた席だったこともあって、千歳太夫さんの語りは、ちょっと聞きづらかった。瓜子姫の回想シーンに登場する山父は、一つ目一本足の怪物で、闇の中で一つ目が光る。不気味な演出がたいへんよい。あまんじゃくには長い尻尾が生えていたが、タヌキの類なのかな?
・井上ひさし生誕90年記念『金壺親父恋達引(かなつぼおやじこいのたてひき)』
モリエールの戯曲『守銭奴』を井上ひさしが1972年に翻案した作品。私はこの作品が見たくて、今季は第1部のチケットを取ったのだが、芝居が始まったら、ん?これは見たことがあるかも?と記憶がよみがえってきた。調べたら、2016年の国立文楽劇場での初演をちゃんと見ていた。それにしても珍しい作品なので、第1部を選んだことは後悔していない。
朝の段→昼の段→夜の段の3段構成で、文体は近世浄瑠璃ふう、というか、時々パロディも入る。金が命の金仲屋金左衛門は、持参金付きの町娘・お舟を後妻にもらうことになり上機嫌。ところがお舟は金左衛門の息子・万七と相思相愛の仲だった。金左衛門は娘のお高も呉服問屋の京屋徳右衛門に縁づけようとしていたが、お高は番頭の行平と相思相愛。この込み入った三角関係×2が、実は、京屋徳右衛門とお舟、行平が生き別れの親子だったというアクロバティックな展開で、無事に解決してしまうのである。このご都合主義も、古典演劇の「ありがち展開」のパロディなのだろう。そして、娘も息子も幸せに浮かれて出ていったあと、とりあえず手元に残った金壺を抱いてほっとする金左衛門。滑稽だけど、まあ年寄りが頼れるものはお金だからねえ、という侘しい共感がうずいた。
藤太夫、靖太夫、亘太夫、碩太夫は、それぞれ二役以上を演じ分けて、聞きやすかった。碩太夫さん、まだ声が少し幼いのがかわいい。三味線は燕三さんが文句なし。『瓜子姫』の富助さんの演奏もそうだったけど、新作は聞きなれない旋律が多いので、新鮮で、とても楽しかった。
満員の客席は、国立劇場の公演に比べるとカジュアルな雰囲気で、若者も多かった印象。こうやって地域の劇場に出張っていくことにもメリットがあるのかな、と思った。ただ、東京公演は12月も次の1月も一等席のチケット代が9,000円。大阪の1月公演が6,000円であることを思うと、劇場を借りる経費をチケット代に上乗せしているのではないかと思われる。入札の不調で再開場の目途が立たない国立劇場、早くなんとかしてほしい。