〇東京国立博物館 挂甲の武人国宝指定50周年記念・特別展『はにわ』(2024年10月16日~12月8日)
埴輪(はにわ)の最高傑作とも言える『挂甲の武人』が国宝に指定されてから50周年を迎えることを記念し、東北から九州まで、全国約50箇所の所蔵・保管先から約120件の至宝が集結する特別展。なかなかの人気で、連休に出かけたら、入館まで小1時間待たされてしまった。私はあまり埴輪に興味を持っていないので、会場内の混雑ぶりに、見に来たことを後悔しかけたが、ゆるい気持ちで見ていくと、いろいろ発見があって面白かった。
冒頭には2体並んだ『埴輪 踊る人々』。東博の公式キャラクター「トーハクくん」のモデルにもなった有名作品である。意外と小さい。出土地が埼玉県熊谷市であることは初めて認識した。私の場合、埴輪と聞くと、この「踊る人々」が浮かんでしまうのだが、実は一口に埴輪と言っても、単純な円筒形や壺形から、人物・動物・魚(!)・船・家など、多種多様な造形が残されている。
埴輪は、古墳時代の3世紀から6世紀にかけて作られ、王(権力者)の墓である古墳に立てられた。はじめに奈良県、熊本県、群馬県などの古墳から出土した副葬品の刀剣や武具、金属製の沓などを展示。続いて、王の墓に立てられた埴輪が登場する。奈良県桜井市のメスリ山古墳からは、高さ2メートルを超える巨大な円筒埴輪が出土している。展示室の壁いっぱいに、古墳の全景写真が掲示されていたのはとてもよかった。あとで場所を調べたら、聖林寺に近いあたりなのだな。大阪府堺市の大仙陵古墳(仁徳天皇陵)は大きさばかり注目されがちだが、愛らしい『埴輪女子』や水鳥形、犬形の埴輪も出土していることを初めて知った。
埴輪の造形で特に気に入ったのは、三重県松阪市宝塚1号墳出土の船形埴輪。縄文の火炎型土器みたいにいろいろな装飾がくっついた姿がゴージャスで、呪力を感じさせる。展示は模造品だったが、よくできていたので問題なし。珍しかったのは椅子形埴輪(群馬県伊勢崎市)。椅子に座るべき人物を表現しないのが面白い。
後半の始まりは『挂甲の武人』の特集だった。東博が所蔵する『挂甲の武人』(埴輪武装男子立像)は群馬県太田市で出土。これと酷似する完形の武人埴輪は4例あり、本展には5件の『挂甲の武人』が勢ぞろいした(うち1件は米国シアトル美術館から里帰り)。いずれも頬宛てのついた衝角付冑(しょうかくつきかぶと)を被り、小札甲(こざねよろい)をまとう。大刀(たち)に手をかけていることはすぐに分かるが、よく見ると短い弓を持っており、多数の矢を収めた靫(ゆき)を背負っているのが興味深かった。やっぱり古代の武人は、剣より弓矢だったのではないかな。
人物埴輪には、武人以外にも、盾を持つ人、琴をひく男子、力士など、多様な姿が写し取られていた。驚いたのは『ひざまずく男子』(群馬県太田市)。中国の跪拝俑は知っていたが、日本にもあるんだ~と興奮した。
馬形埴輪には、どれも鐙(あぶみ)が付いていた。最近、松岡美術館の展示で、唐代の三彩馬は鐙を表現することが珍しいという解説を読んだので、比較すると面白いと思った。
さまざまな動物埴輪をパレードふうに並べた展示は、中国の博物館でも見たことがあった。牛・馬・犬・猪(豚)・水鳥など、だいたい登場する動物の種類は似通っていたが、羊はいなかった(推古天皇紀に献上の記録はあるらしい)。魚形埴輪(千葉県芝山町)には笑った。こんなの、後世のフェイクだと言われたら信じてしまう。
あと、親子の愛情を表現した埴輪はわずかだが関東限定で出土するという解説があった。むかし、奈良の百毫寺に向かうルートに、子供を背負ったお母さんの埴輪が立っていたのだが、あれも後世の模造品だったのかなあ、と懐かしく思った。