見もの・読みもの日記

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人生の黄昏に/中華ドラマ『漫長的季節』

2023-11-25 22:47:30 | 見たもの(Webサイト・TV)

〇『漫長的季節』全12集(企鵝影視、2023年)

 今年前半、中国で大ヒットを記録したサスペンスドラマ。見たいドラマが途切れた隙をねらって、一気に見てみた。確かに上質なヒューマンドラマだが、豆瓣(視聴者投票)9.5は高すぎではないかと思う。いまWOWOWで『ロング・シーズン 長く遠い殺人』のタイトルで放映中なので、視聴中の方は、以下の【ネタバレ】を避けていただくのが無難である。

 ドラマは、2016年と1997-98年の2つの時間軸を行ったり来たりしながら進む。2016年、東北地方の樺林市に住む初老のタクシー運転手・王響は、まもなく大学受験を迎える息子の王北と二人暮らし。王響の義理の弟・龔彪も、同じタクシー運転手の仕事を始めようとしていた。しかし、龔彪が購入した車と同じナンバーの車が人身事故を起こしたため、車を警察に差し押さえられてしまう。王響と龔彪は独自捜査に乗り出し、偽造ナンバープレートをつけた車を探し出す。王響は、あと一歩で犯人を取り逃がしてしまうが、トウモロコシ畑の中に消えていった犯人の後ろ姿は、王響が1998年の事件以来、ずっと追ってきた姿だった。

 1990年代、王響は樺林鋼鉄工場で蒸気機関車の運転士をしながら、妻と息子の王陽の三人で暮らしていた。王陽は詩人になることを夢見るロマンチスト。地道な就職を望む父親とは意見が合わないが、両親の愛情は理解している。あるとき、王陽は、衛生専門学校の女子学生・沈墨と知り合う。沈墨は街の「娯楽城」(ナイトクラブ)でピアノ演奏のアルバイトを始め、王陽も従業員として潜り込む。二人は次第に親しくなるが、実の両親を失い、養父の虐待を受けて育ってきた沈墨は、王陽の愛情を素直に受け止めることができない。

 ある日、樺林鋼鉄の宿舎街のゴミ箱から、バラバラ殺人の遺体の一部が発見される。指先の特徴から、遺体の主は沈墨であることが確認され、王響は息子の事件との関わりを案じる。黙って家を抜け出した息子を追ってきた王響は、夜の線路上で「犯人」と接触し、息子を返してほしいと頼むが、翌日、王陽は郊外の川で遺体となって発見され、王響の妻も息子の葬儀後に自ら命を絶つことになる。王響は、沈墨の実の弟・傅衛軍を疑う。聾唖者で孤児院育ちの傅衛軍は、姉には優しいが無頼な青年だった。しかし事件を担当した刑事の馬徳勝は、傅衛軍は監獄に入っており、王陽は自殺だと主張して譲らなかった。

 2016年、息子殺しの「犯人」らしき人物を目撃した王響は、今は警察を退職した馬徳勝を通じて、傅衛軍の近況を調べてくれと頼む。傅衛軍は獄中で自殺していた。そして、脳血栓を発症して呂律も回らなくなった馬徳勝は、18年前に見逃していた事件の謎を解き、王響は「犯人」の正体と、王陽がやはり自殺だったことを知るのである。

 …こうまとめてしまうと全く面白くない。実際は、もっと多様な人物が、ミステリーの主旋律とは全く無関係に喜んだり悲しんだり、惹かれ合ったりぶつかったりする様子が、これぞ人の世という感じで、じんわり面白いのである。主人公の王響は、いかにもこの時代の東北地方の工場技師にいそうな、怒りっぽい頑固おやじ(しかし職場では幹部に気を使っていたりする)で、妻の羅美素はそんな夫に逆らえない、気弱な(息子には優しい)田舎のおばちゃんである。この時代には珍しい大学出の龔彪は、王響の妻の妹・黄麗茹に一目惚れし、龔彪を利用しようとした黄麗茹の打算を承知で結婚するが、家庭生活はうまくいかない。刑事の馬徳勝は、2016年には無事に退職して、ペットの小型犬を可愛がり、趣味(ラテン系ダンス!)を楽しんでいるようである。

 1998年の事件に巻き込まれ、姿を消してしまう人々がいる一方、王響・龔彪・馬徳勝の三人は、2016年まで生き延びるが、すっかり高齢者となり、あちこち身体の不調を抱えている。もうひとり、王響と仲の悪かった保衛科長の邢建春も生き延びるが、老化を免れない点は同様である。そして老年期の彼らにも、容赦なく不幸が襲う。老・病・死の悲哀を笑いとばしながら、さらに深まる乾いた悲哀がこのドラマの魅力ではないかと思う。

 97-98年の服装とか髪型とか、田舎っぽいダサさに手抜きがないのに加えて、2016年の変化の役作りがすごくて、龔彪役の秦昊さん(体重10キロ?20キロ?増)は、はじめ別人だと思った。馬徳勝役の陳明昊さんのはじけたダンサー衣装はズルい。若者世代では、王陽役の劉奕鉄くん、傅衛軍役の蒋奇明さんを覚えた。王北を演じた史彭元くんは『隠秘的角落』の厳良なんだな。気づかなかった。2016年の王響のもとになぜ王北がいるのかは、最終話で明かされる。全体は、救いのない運命に囚われた人々の暗い物語だが、前を向いて進もうとする王響には救いがある。


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