見もの・読みもの日記

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入試に使える?世界史/銀の世界史(祝田秀全)

2016-10-23 23:59:11 | 読んだもの(書籍)
○祝田秀全『銀の世界史』(ちくま新書) 筑摩書房 2016.9

 近代以前、各地域の文化や産物が、交易を通じてどのように結びつき、互いに影響を与えたかには、すごく興味がある。今まで読んだ本でいうと、ヨーロッパの対外拡張と覇権交代を論じた玉木俊明『ヨーロッパ覇権史』とか、南米インカの歴史をスペインの歴史との交錯の中でとらえた網野徹哉『インカとスペイン』とか、銀をめぐる日本-朝鮮関係に着目した村井章介『世界史のなかの戦国日本』とか。本書は、パラパラめくってみると、大航海時代から、日本の日清・日露戦争まで、年代的にも地域的にも相当な広範囲を扱っているようだったので、興味をもって読んでみた。

 16世紀半ば、コロンブスの「西インド」到着から半世紀が過ぎ、スペインのペルー副王領でポトシ銀山の開発が始まる。セビリヤの西インド商館を窓口に、新大陸の銀が西ヨーロッパに流れ込んだ。これによって、西欧に物価の高騰(価格革命)が起こり、近代資本主義のきっかけとなった。ただし、ここ、人口増加→穀物価格の高騰とか、毛織物工業の成長とか、いろいろな要素が絡み合っていて、あまり説明がスッキリしない。

 スペインの銀は、穀物の購入や戦費の借金支払いを通じてオランダに渡った。17世紀には「銀の帝国」オランダが出現し、国際商業ネットワークの構築を求めて、東インドさらにアジアに向かう。オランダは明(中国)で絹製品や陶磁器を買い付け、その対価をスペインドル(メキシコ銀)で支払った。明国で、地税と人頭税を銀納にする一条鞭法が成立したのもこの頃(明後期から清初)。そして、オランダは日本にも接近し、中国産の良質な生糸を持ち込み、日本産の銀を持ち出すようになる。しかし、1668年、徳川幕府は銀の輸出を禁止。

 17世紀前半、オランダに代わって、イギリスが台頭する。イギリスは、植民地に銀山を持たなかったが、銀を獲得するための輸出品目である砂糖・タバコ・綿花のプランテーションを有し、黒人奴隷という労働力を利用した。17~18世紀、ヨーロッパの銀は依然としてアジアに向かっていたが、まずインドが植民地化され、イギリス東インド会社が貿易でインドに支払うべき銀は、インドの地税収入で賄われるようになった。そして中国ではアヘン戦争が起きる。最後にちょっとだけ、明治維新後の日本が登場する。日清戦争の賠償金は銀でなく英貨ポンドで受け取ることとし、これが、1897年、日本における金本位制導入のきっかけとなる。19世紀後半には、全ヨーロッパが金本位制に移行し、「銀の時代」は終焉した。

 ざっくり要約するとこんな感じだが、むしろ本書は寄り道の雑学知識がいろいろ面白かった。16世紀のインドでは、香辛料はポルトガルとオランダの独占輸出商品となっていたため、国内に出回らず、オランダから「輸入」しなければならなかったというのはその一例。また、砂糖づくりは難事業で、サトウキビは地中の栄養分を根こそぎ奪ってしまうので、栽培耕地の移動は避けられず、広い土地が必要であるとか、刈り取ったあと、すぐ製糖作業に入らなければいけないので、絶えず労働力の供給が必要という実態も知らなかったので、興味深かった。18世紀後半、イギリスでは馬が陸運の動力エネルギーとして活用されたが、馬の数が増えたため、麦類を人間と奪い合う事態となった。そこから馬に代わる動力が求められ、蒸気機関が生まれたという。これも面白い。

 ただ、本書には、根拠のあやしげな記述も時折見られる。完全に間違い、と思ったのは、1600年、日本に漂着したオランダ船リーフデ号の船首に「ヨーロッパ最高の人文学者」エラスムスの木像が施されていた、との記述。これ、船乗りの守護聖人である聖エラスムス(聖エルモ)でしょう。「エラスムス像を船首に施すということは、海洋と貿易の自由を謳いあげるメッセージとも受け取れる」などと書かれているが、こういう箇所を見つけると、面白いと思った雑学知識も、本書だけで信用しないでおこう、と慎重になる。

 こういう新書版の歴史本は、もう少し記述の根拠を示すものだと思うが、本書はほとんど一次資料に言及がない。思い出したが、むかし高校生の頃に読んだ「世界の歴史」系統の本は、こんなスタイルだった。歴史の流れを大づかみに把握するには読みやすいのだろうが、大人の読書には物足りない。オビに小さな活字でいう「入試に使える世界史」が妥当なところだろう。

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