〇京都国立博物館 特別展『流転100年 佐竹本三十六歌仙絵と王朝の美』(2019年10月12日~11月24日)
別稿のとおり佐竹本三十六歌仙絵を堪能した後、あらためて3階の先頭から展示を見てゆく。第1室は古筆の名品。継色紙「いそのかみ」と升色紙「かみなゐの」(三井記念美術館)、寸松庵色紙「ちはやふる」が揃っていて、おお!と感心する。さらに高野切もあるし、大きな古筆帖が出ていると思ったら『藻塩草』だった! しかし誰の手跡であるとかの説明が全くついていなくて、わりと雑な扱いをされていて苦笑してしまった。西本願寺本三十六人家集は、継ぎの美しい「躬恒集」とキラ摺りの「興風集」。
第2室は人麻呂影供につかわれた人麻呂像がずらり並んでいた。以前、出光美術館の人麻呂影供900年『歌仙と古筆』展でもずいぶん見たはずだが、意表を突かれたのは東博所蔵、伝・藤原信実筆の人麻呂像。紙と筆を持つ伝統的なポーズだが、妙にアクの強い顔立ち。一方、京博所蔵のだらんと脇息にもたれた人麻呂像は維摩居士の面影があるということで、同様のポーズの維摩居士を描いた南宋絵画が並んでいた。面白い。なお会期終盤に伝・兆殿司筆の風変わりな人麻呂像(冷泉家時雨亭文庫)が出るようだが、見られないなあ。残念。
2階は並びの4室を使って佐竹本三十六歌仙絵を展示。1件ずつ床の間のような展示台をつくって、左右の情報を遮断した状態にしてあるのがとてもよい。ガラス面に大きな文字で和歌を添えたのも効果的。なお、階段の反対側の最初の1室は「絵巻切断」の経緯を解説する展示室になっていて、当時の収納箱(今は複製本を収める)や当時の籤棒(焼き鳥の串みたいに細い。小さく数字が記載されているらしいが見えず)、籤取りに使った竹筒(のち花入に仕立てた)などが展示されていた。
東博・応挙館の襖絵が来ていて、え?何これ?と思ったら、絵巻分割の籤引きの場を飾っていたそうだ。2階ロビーには、競技かるたを題材にしたマンガ『ちはやふる』の複製原画も飾られているのでお見逃しなく。
1階にも続くのかな?と下りていったら、彫刻室以外は全て和歌と歌仙絵の関連展示だった。「さまざまな歌仙絵」と題して、時代不同歌合絵(白描)とか同(著色)とか上畳本とか、初めて聞く釈教三十六歌仙絵とか、多様な歌仙絵を見ることができた。『治承三十六人歌合絵・藤原成範』は、歌合に歌人の肖像を添えた古例の転写本(鎌倉時代)とのことだが、鳥獣戯画みたいに軽妙な運筆が好き。五島美樹館の『歌仙絵・壬生忠峯』は初めて見るだろうか? 青い衣、白い袴、オレンジとターコイズブルーみたいな内衣が覗き、歌仙絵には珍しい濃厚な色彩。どういうセットなのかよく分からないそうだ。このセクションはとても興味深いのだが、展示替えが多くて、2回行っても全部網羅することは難しそうだ。ちょっと素朴絵の匂いがする『後鳥羽院本三十六歌仙絵・小大君、伊勢、中務』(三重・専修寺)見たいなあ。
水無瀬神宮の『後鳥羽上皇像』が出ていたのは嬉しい驚き。『公家列影図』も嬉しかったが、説明がないので、平清盛くらいしか分からなかった。『西行物語絵巻』(徳川美術館、文化庁)や『紫式部日記絵巻断簡』(東博)もあり。図録を見ると、このあと『住吉物語絵巻』や『狭衣物語絵巻断簡』も出るらしい。すごい。「佐竹本三十六歌仙絵」以外の展示品で、もうひとつ別の特別展のボリュームがあると思う。
最後は江戸の歌仙図貼り交ぜ屏風で、歌仙の衣装やポーズがかなり定式化しているのが分かる。そこを少し崩した鈴木其一の『三十六歌仙図屏風』は、色とりどりの衣で、和気藹々とくつろぐ歌仙たちが微笑ましかった。