見もの・読みもの日記

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癒しとやすらぎ/花鳥礼讃(泉屋博古館分館)

2007-08-14 20:15:09 | 行ったもの(美術館・見仏)
○泉屋博古館分館 平成19年夏季展『花鳥礼讃-日本・中国のかたちと心』

http://www.sen-oku.or.jp/tokyo/index.html

 最初の展示室をひとまわりしたあと、隅のソファに腰を下ろした。ほどよい広さの展示室の全景が見渡せる。目に入るものは、全て花鳥画である。いいな~。このまま、ここで眠ってしまいたい。そして、花鳥画に取り囲まれて再び目を開けることができたら、どんなに幸せか、と空想する。

 むかしは花鳥画なんて馬鹿にしていたのに。いまは、これほど心癒されるものはないと思う。描かれているのは、鶴に梅、タヌキにウサギ、牡丹に孔雀などに過ぎないが、ある種の精神的なメッセージがあって、それが見るものをなごませるのだと思う。日本文化の良き伝統というべきか。いや、展示品の半分ほどは中国人の作であり、日本人の作品も、中国人画家の影響を強く受けている。だから、花鳥画とは、東アジアの文人たちが共同で作り上げた楽園のコードというべきかも知れない。

 冒頭に掲げられているのは、沈南蘋(しんなんぴん)の『雪中遊兎図』。大きな絵である。白い雪を戴き、絡まりあって立つ紅白梅の樹。根元に群れ集う野ウサギたち。少し黄ばんだ紙に、枯れ草のオレンジ色、千両の赤い実、そして野ウサギの茶色い毛並み(耳の内側はピンク)など、抑えた色彩が映える。ダイナミックで愛らしくて、とても気持ちのいい絵だ。ふと隅を見たら「乾隆丁巳小春写宋人筆 南蘋沈詮」とある。これって、宋代の絵を模写したという意味だろうか? そういえば、台湾の故宮博物院にも、有名なウサギの絵があったなあ、と思い出す。

 椿椿山の『玉堂富貴・遊蝶・藻魚図』3幅対は、私のお気に入りである。また会うことができて嬉しかった。中央の大きな画面には、吊るされた花籠。牡丹、白木蓮、海棠そして藤の切り花が投げ込まれている。左は飛びまわる胡蝶、右は水中の小魚たち。この両幅が添えられることで、中央の花籠が、あらぬ虚空に吊るされているような幻想味を感じさせるのだ。切り花であるのもよい。富貴花の名にふさわしい、重たげな牡丹の花は、あまりに豪奢・艶美であるだけに、却って、はかないうつろいの影が差している。

 ふと見ると、画中に以下のようにある。「玉堂春富貴庚子新夏仿北宋人之意於琢華堂中 椿山外史弼」。「弼(たすく)」は椿山の名、「琢華堂」は別号だそうだ(→Wikipedia、詳しいなあ~どんなマニアが書いているのか)。これも「北宋人之意」を真似たというのは、椿山の前に、どんなお手本があったのだろうか。気になる。

 第2室に移って、呉春の『蔬菜図巻』を見つけた。実は、今回の展示品のほとんどは、2006年に京都の泉屋博古館本館で行われた『近世の花鳥画』展で見ているのだが、これも大好きな作品である。「季節を追って」京野菜を並べたものだという。若冲の『野菜涅槃図』とどちらが先だろう? 里芋の描き方とか、妙に似ている気がする。若冲が『野菜涅槃図』なら、こっちは京野菜の百鬼夜行図なんじゃないか、とも思った。

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